テスラ・五菱(ウーリン)のEV戦略、売れる車と価値づくり vol.1 ~講演編~ テスラはなぜ強いのか

世界的に脱炭素化への取り組みが広がるなか、自動車業界もEV(電気自動車)へのシフトが加速しつつある。日本の自動車メーカーはどのようにビジョンを描き、ユーザーに価値を届けるべきなのか。

2022年1月25日にオンラインで開催したテクノベート勉強会「EV最前線から考える、売れるクルマと価値づくり~海外注目企業 米国テスラ、中国・上汽通用五菱汽車(ウーリン)の分析から」では、両社のEVを数日間にわたり試乗テストした鈴木万治氏が、2社の共通点と、日本企業に必要なアプローチについて持論を展開した。本記事は鈴木氏の講演の前編を紹介する(モデレーターはグロービス ファカルティ本部 テクノベートFG ナレッジリーダーの八尾麻理)。

*本動画の内容は、スズキマンジ事務所としての個人的な見解であり、所属する株式会社デンソーとは全く関係ありません。

*本記事は、2022年2月9日に公開した動画記事の内容をテキスト化し、一部再構成したものです。

世界中がEV狂奏曲状態?

鈴木万治氏:今回は自動車業界に携わる立場から、EV(電気自動車)市場の最前線について解説しながら、成長できる企業のカギとなる価値づくりについて掘り下げていきたいと思います。自動車業界はよく「100年に一度の大変革期」にあると言われています。大波が来ると言われるなかで、どうすればいいのかと立ち尽くすのは得策とは言えず、やはり大波が来たら乗るべきだと思います。ではどうやって大波に乗ればいいのでしょうか。米テスラと中国のウーリンのビジネスからヒントを探り、EV市場の今後についても分析していきたいと思います。

欧州ではフォルクスワーゲン(VW)などがEVの販売を積極化しています。中国では吉利汽車(ジーリー)が日本円で100万円クラス、BYD(比亜迪)が200万円クラスのEVを発売するなど、日本の自動車メーカーにとって脅威とも映る動きをみせています。

さらに2021年11月には、ナスダック市場に米国の新興EVメーカーであるリビアンが新規上場しました。COO(最高執行責任者)の退任や、製造遅延など問題も抱えていますが、注目を集めているのは確かでしょう。

リビアンに限らず、新興EVメーカーが抱える一番大きな課題は量産です。EVであれ、自動車の量産は本当に難しく、テスラの「モデル3」の量産立ち上げにあたっては、創業者のイーロン・マスク氏が自ら工場に詰め入って、段ボールを被って仮眠していたぐらいです。

そのような状況で、価値づくりで成功している注目すべき自動車メーカーを挙げるとするなら、やはりテスラとウーリンです。世界で断トツに売れているEVも、テスラの「モデル3」と「モデルY」、ウーリンの「宏光MINI EV」の3車種しかありません。

実はテスラの「モノづくり力」がすごい

最初にテスラについてみてみましょう。イーロン・マスク氏は「テスラは過去100年間で大量生産とプラスのキャッシュフローを両立させた唯一の米国の自動車メーカーだ(Tesla is only American carmaker to reach high volume production & positive cash flow in past 100 years.)」とツイートしています。テスラは自動車というより本当はエネルギーメーカーですが、彼はここでテスラを自動車メーカーであると説明していることは興味深いです。

テスラに対しては色々な見方がありますが、私は5つの強みがあると思います。

クルマの価値を変えた

テスラのEVを消費者が購入する時の感覚と、フォルクスワーゲン(VW)やメルセデス・ベンツのEVを購入する時の感覚の違いとは何でしょうか? 従来のクルマは、エンジンが官能的だとか、走りの心地よさがあるとか、そういう点にこだわって作られています。iPhoneなどのスマートフォンを購入する場合はどうでしょう? ブランドやカメラの性能、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)の善し悪し、電池の持ち具合──。そんなことを考えます。官能的なスマホだからという選び方はあまりしないと思います。

テスラ車も、官能的かどうかで選ぶ人はあまりいないと思います。ブランドやオートパイロットの機能、航続距離など、ポイントはスマホと非常によく似ています。VWやベンツなどのEVは「クルマ屋」的な感覚が入っていますが、このような感覚を大きく変えたというのがテスラのすごいところです。

アーキテクチャを変えた

外から見ただけでは分かりませんが、クルマの中身も大きく違っています。従来のクルマは、安全装置などを追加で拡張してきたために、複雑で分散した構成になっています。それに対して、テスラは、必要なものをまとめた、シンプルで集中した構成となっています。

例えるなら、テスラはフルメンバーの「オーケストラ」ではなく、「ジャズトリオ」です。

フルメンバーの「オーケストラ」では指揮者が必要となります。その役目を担うのが、デンソーやボッシュといったティア1のサプライヤーで、そのティア1が、ティア2やティア3と協調できるように全体を指揮するわけです。

これに対しテスラは完成車メーカーとして「目配せ」をすれば済んでしまう「ジャズトリオ」の世界です。ティア1メーカーが指揮をしない…というか不在です。その代わりに、リーダーであるテスラ自身が決める非常に中央集権的な垂直統合の形です。EVは水平分業だと言われる方もみえますが、私は決してそうだとは思いません。水平分業ならテスラは強みを発揮できなかったでしょう。

データを変えた

米国ではウォルマートやスターバックスに行くとテスラのスーパーチャージャー(急速充電器)が並んでいます。充電インフラを自前で持てば、必要に応じて充電中に様々なデータを取得することも可能です。他社の充電インフラでは、それを実現することは困難です。また、テスラは本質的には、エネルギー企業であるため、自前で充電インフラを整備したと考えることもできます。

顧客価値にフォーカス

日本国内ではレベル4(特定条件下での完全自動運転)の実用化などに向けた動きがありますが、果たしてどこまでユーザーから求められているのか、議論の余地があると思います。ロボタクシーなどはレベル4でもいいかもしれませんが、POV(Personally Owned Vehicle:個人所有の自家用車)の場合、テスラのような、通勤時の渋滞だけオートパイロットにするという形で十分ではないかとも考えられます。誰にどのような価値を提供するかという点にフォーカスしているのも、テスラの特筆すべき点だと考えています。

コア要素技術を自前で押さえる

コアとなる要素技術を自前で押さえているという点については、電池の話が挙げられます。電池のセルはパナソニック製ではありますが、テスラの電池制御技術はかなり優れています。ユーザーサイトの情報によると、10年後の電池容量の低下率は5%以下で、寒冷地でも容量がほとんど減らないというものです。

SoC (System on Chip、複数の機能を集約した半導体チップ)も自社で開発し、ニューラルネットワークでの学習により自動運転機能の向上などにつなげています。

「モノづくり力」も驚異的

ソフトウエア視点で語られることが多いテスラですが、実はモノづくりの面でも注目に値します。(世界最大級のアルミ鋳造機械で複数の自動車部品を一体成型する)「ギガプレス」を活用し、部品点数、溶接ロボットの大幅な削減を実現しています。ギガプレス自体はテスラ製ではないですが、普通のアルミ材ではテスラが目標としたギガプレスでの大型部品射出が実現できませんでした。それを実現するため専用の新しいアルミ合金を自社で開発したというのが、凄いところです。

これは、ほんの一部であり、テスラのモノづくり力というのは、おそらく一般的に想像されているよりもはるか上にあると言えます。最近、VWやボルボも、これに似た大型部品鋳造を始めたようです。これは、従来の自動車メーカーが、テスラのモノづくりから学ぶ時代になった転換点とも言えます。

(文=GLOBIS知見録編集部 長田善行 vol.2に続く

※「テスラ・五菱(ウーリン)のEV戦略、売れる車と価値づくり」のシリーズの記事はこちらから。
vol.2 ~講演編~ 45万円EVを解剖し未来を読む
vol.3 ~質疑応答編~ 日系メーカーが進むべき針路
vol.4 ~質疑応答編~ 電池技術をどう理解すべきか

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