中国、猛烈に働き勉強するビジネスパーソン~マーケットの成熟が与える学びの変化

日本のビジネスパーソンの業務時間外の学習時間は平均して6分(「平成28年社会生活基本調査」総務省統計局)と先進国の中では最も学ばない国である。学ばない理由として「時間がない」「何を学んでいいかわからない」「お金がかかる」「会社が評価してくれない」といった項目が並ぶ。翻って、経済成長著しい中国のビジネスパーソンはどうか。彼・彼女らが、何をモチベーションに、どのように何を学んでいるのかを、グロービスの中国法人「顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司」のトップである趙麗華に聞いた。(構成・文=吉峰史佳)

中国市場の今 「量から質」への転換期

中国マーケットは成長期から成熟期に入り、それに伴って「量から質へ」の転換が起きています。以前は、スピード重視で、とにかく行動しながら修正するやり方が主流でしたが、今は行動する前に、仮説を立てて検証するというようなスタイルに変わりつつあります。

昔は、製造業がトヨタのリーン生産方式を学ぶ風潮がありましたが、現在はアリババ、バイトダンスのような先端的な企業でもあえて管理職に「リーンマネジメント」を学ばせる育成企画があるくらい、イノベーションによる試行錯誤のコストを最低限にしようとする傾向があります。日本に学ぶ第二のブームと言えるくらいでしょう。

従い、まだまだ少数の企業が認識し始め、社員に浸透させている段階ですが、知識、経験を学ぶより、考え方、思考力を訓練するようになってきています。これが一つのトレンドになるのは時間の問題でしょう。

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日本人に負けない勤勉な中国人ビジネスパーソン

新しいビジネスが次々立ち上がり、新興企業も急成長しているため、人材市場は売り手市場になっています。優秀な人材は、起業や転職などで給料を上げていくのが当たり前です。転職するたびに20〜400%くらい給料アップの可能性があります。転職をしていないと、「優秀ではないからでは?」と思われるでしょう。

その中で人材獲得に積極的に乗り出しているのは中国企業です。中国企業はグローバル進出を本格的に進めており、日系企業の35歳以下の人材(ビジネスの基本素養が身につき、一定の技術ノウハウを持っている人)に、日系の2~4倍の給料を出してスカウトしてきます。もちろん、給料相応の働き方も成果も要求されますが。短期間で成果を出すために、学びながら働くビジネスパーソンが大勢います。学歴以上に成果を出せる能力を獲得するために猛勉強しているのです。中国企業での評価は結果でされます。成果が出ないと、いくら出身大学や前職がすごくてもすぐにクビにされてしまいますので、成果を出すための自己投資は惜しまないのも一つの現象となっています。

昔の勤勉な日本人のような働き方以上の働きぶりが、今の中国系企業で見られます。急成長しているIT企業での猛烈な働きぶりを象徴する言葉が「996」と「007」です。「996」は「9時からスタートして夜9時で終了して、6日間働く」という意味、「007」は「0時から0時まで24時間、7日間連続勤務」という意味で、日本のバブル期の「24時間戦えますか?」という栄養ドリンクのテレビCMのコピーのような言葉が社会現象になっているのも、一部の中国人の働き方の一つの証明となります。

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働きすぎは社会問題にもなっていますが、止められません。なぜなら、頑張ったら頑張っただけの対価が出るからです。昨年ファーウェイが新卒の技術者に年収200万元(約3700万円)のオファーを出したことがニュースになりましたが、多くの中国系企業が優秀な人材に出す報酬は日本では考えられないくらいです(社会全体の貧富の差を深刻にさせた一つの理由でもあります)。頑張ったら頑張っただけの対価が得られる、その前提条件に立った場合、優秀な中国のビジネスパーソンは、チャンスを得るために野心を燃やして必死で努力をするのも理解できるでしょう。

「学びの効率」を最も重視する中国人

これだけ忙しいなかで学ぶので、学びについては、投資対効果を非常に厳しく考えます。今の自分の仕事にダイレクトに役に立たないものには、滅多に時間を使いません。優雅に教養を学ぼうという人は少数でしょう。この「学びの費用対効果」を厳しく追求するのが1つのポイントです。ここでの「効率化」は、「断片的」とセットになります。何かを学ぶ際、全体を体系的に学びながらとあるポイントについて深掘りして学ぶのは一般的ですが、現在の中国では、「統計学のT検定を徹底的に学ぶ」「マーケティングのプライシングだけ知りたい」など、断片的な情報でもすぐに役立つものをチョイスする傾向があります。

こうした学びを可能にするのが、学習アプリ。いつでもどこでも好きなように学ぶのが、中国の民族性と今の外部環境に合っていると思います。

最近、バイトダンスが出した『学浪』というアプリが人気です。これはTikTokと同様にユーザーが何か検索したら、関連性の高いコンテンツを次々に表示するものです。何を学んでいいかわからなくても、1つのコンテンツからどんどん広がっていくので、今中国で大人気になっています。ダイレクトに成果につながる知識やツールからスタートし、その知識を理解するために関連知識や情報を学び、関係のないものに時間を割かないというのも合理的な学び方かもしれません。

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「個人化」という傾向も強くなっています。人それぞれのニーズがあり、基礎知識なども異なるため、集団学習より自分の興味関心のある領域について個人で行う学習が盛んになっています。これも最近の技術革新によって可能になりました。例えば、『得到』というアプリも特徴的です。何万冊とある書籍の中から専門家が良い本を選び、音声コンテンツとして学習者に提供するものです。何冊聞いたのかをランキング形式で競う、一定量以上を読むと評価が得られるといった工夫で、自己管理できるようになっています。こうした個人学習が流行することで、集団学習の目的は、自己認識や人間関係づくりに比重が置かれるようになっています。

海外より中国自身から学ぶ

昔は日本や欧米の事例研究が人気で高価でしたが、最近中国系の講演が驚くほど高額になってきました。1日10万元(約180万円)から20万元(360万円)でも人脈がないと予約が取れない状態です。たとえば、元テンセントの商品開発マネジャーなど、第一線の活躍をしてきたビジネスパーソンの成功事例を聞く講演会が盛んになっています。その背景には、今中国が得意とするIT分野は技術進歩が日進月歩で起こり、ITで中国は世界トップレベルであり、学ぶべき他国がいないということもいえます

一方で、あまりにも学習の投資対効果を追求しすぎたためでしょうか。多くの人がまだまだ直接正解を求める傾向があります。そうした具体的な成功事例を聞いても、ある程度は原理原則を理解していないと、自社に応用できません。講演する人も聞く人も原理原則まで抽象化できていないと、学びの効率がかえって下がってしまいます。表面的な栄光にとらわれて、本質を見失ってしまうのも現実問題としてあります。

とはいえ中国で今後もずっとこの傾向が続くとは思えません。頑張れば報われる世の中ですから、自己投資すれば、大きなリターンが期待できるので、学ぶ内容も学び方もさらに本質的な効率を求め続けるでしょう。

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