スキルアップに熱心なシンガポール
最近日本でもリスキリング*という言葉をよく目にすることが増えてきたが、資源のないシンガポールにとって人材のリスキリングは、「国ができた時から考えてきたこと」(2016年に設立されたSkillsFuture Singaporeという政府機関のGog Soon Joo氏)という話があるほど重要なテーマだ。
*リスキリング:新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること(経済産業省)
コロナ禍で企業の人員削減が増え、失業率が跳ね上がった時期という事情はあるが、2020年のヘイズやUOB(United Overseas Bank)の調査によると、スキルアップの必要性があると答えた人は80~90%と、シンガポール人一人一人もシンガポール政府と同様に重要と捉えている*1。
人員削減が減り、失業率が落ちついた今も、給与の伸び悩みやリモート環境下における新たな働き方への対応のために、スキルアップへの意欲は変わらないようだ。
最重要視しているのはデジタル・スキル、そして…
それでは、シンガポール政府が重要視しているスキルにはどのようなものがあるのか?
2020年の世界経済フォーラムで報告された「新しいテクノロジーへの対応」を引き合いに出すまでもなく、シンガポールでもデジタル・エコノミーは最も注視している分野だ。技術の応用、データ・アナリティクス、マーケット・リサーチなどで活用できるデジタル・スキルの獲得は、政府が重視しているスキルの1つである。
他に挙がっているのは、グリーン・エコノミー、そして、ケア・エコノミー(育児・介護などケア・ワークに関する経済活動)に対応できるスキル。前者にはグリーン・プロセスのデザイン、カーボン・フットプリント・マネジメント、環境マネジメント・システム・フレームワークなど、後者には“行動と倫理”、ステークホルダー・マネジメントなどが含まれる。
こうしたシンガポールの事情に即したスキルがある一方で忘れてはならないのは、どの分野でも共通するスキル(CCS:クリティカル・コア・スキルと呼ばれている)。例えば、効果的な意思決定・問題解決力、ステークホルダーに影響力をもたらす共感力や合意形成力、自身の幸福・自己ブランドを管理していく力などで、日本でも重視しているスキルであることを踏まえると、これらは時代や地域が変わっても求められるスキルといえそうだ。
加速するオンライン学習
シンガポールでも2020年にオンライン学習(eラーニング含む)が拡大し、オンラインで学習した人の数は、2019年の25.6%から、2020年には51.5%と倍増した*2。
オンライン学習を利用しているのは30代と40代が最も多く、それぞれ55.5%、60%もの人々がオンラインで学びを得ている。そして、73.4%がこれからもオンライン学習を続けたいと回答している調査もあり、シンガポールでもオンライン学習は定着していきそうだ*3。実際に現地の方に聞くと、これまでオフィス(特に金融系)ではできなかったオンライン学習が、在宅勤務では取り組みやすくなったという話もあり、働き方の変化とも連動した学習の変化であることが感じられる。
さて、いかがだっただろうか?
政府も個人も「スキルアップしないと生き残れない」と考えている割合が高いことが、一人当たりのGDPが高い今のシンガポールを支えていると言えるかもしれない。日本はシンガポールと比べるとマーケットサイズが圧倒的に大きいが、資源がなく”人“が大事という点では日本も同じ。そして、あくまで私が見ている範囲だが、日本人の能力が決してシンガポール人と劣っているわけではなく、スキルアップに必要な勤勉さはむしろ優れている。であるならば、今生じている差を生んでいるのは、前述の危機感、そして、世界の動きを踏まえた時の「自分はどうなりたいか」というスキルアップの方向感ではないだろうか。
これから来る未来に備え、どのようにスキルアップをしていくかを改めて考えてみてはいかがだろうか。
<参考>
*1:Over 80% of Singaporeans see the need to reskill - this man is helping workers level up(The Straits times)
9in 10 Singapore workers see urgent need to reskill, upskill in uncertain job market: Survey(The Straits Times)
*2:Article: Online Training in Singapore|A Singapore Government Agency Website