実際にあった徳島正人(仮名)のケースをもとに、個人が新たなコンフリクトスタイルをいかに獲得していくのかを紹介する本連載。これまで3社での経験から4種類のコンフリクトモードを手に入れた徳島は現在43歳になった。その経験を振り返って、今徳島の思うこととは?(前回はこちら)
前回までのあらすじ
ここまで5回にわたり、徳島正人のキャリアに起こった逆境体験を、そこで起こったコンフリクトにいかなる姿勢で対処してきたかという視点で追ってみた。
徳島は、20代では、正義感から「競争」モードで提案し、結果的に正しい意見だったにも関わらず聞き入れてもらうことができなかった。だが、その失敗を生かし、業務フローの変更で生じた部門間のコンフリクトを「妥協」モードで解消する。
そして10年働いた会社を辞め、営業へとキャリアを変える。転職した先でパワハラ上司に会うが、「適応」モードで理不尽な要求に従いながらも、自分なりに仕事の意義を見出し、ベストを尽くして結果を出すことに成功する。けれども、よい組織文化がなく属人的なつながりが重視される組織構造に疲弊し、転職を決断。
転職先で2度目のパワハラ上司に会い、再び「適応」モードで上司をかわしながらも、その他のステークホルダーに対して「協働」モードでwin-winになるように交渉し、成功する。さらに、ステークホルダーを動かしてパワハラ上司も排除する。
このように失敗や成功を通じて、コンフリクトスタイルを増やしていった徳島だが、なぜ徳島は逃げずに向き合うことができのだろうか。
コンフリクトへの向き合い方の引き出しを増やすためには
リーダーシップでいえば、適切なリーダーシップ行動は置かれた状況に依存するという状況適応型リーダーシップの考え方が知られている。しかし、人間どうしても一つのやり方に固執してしまうことがあり、リーダーとして成長するということは、自らのリーダー行動の引き出しをたくさんもち、状況に応じて適切に取り出せるようになることだとも言える。
コンフリクトへの対処法(コンフリクトモード)も同じだ。タイプ論におけるタイプとコンフリクトモードには相関があるという研究もあるが、自己成長という観点からは状況に応じて適切なコンフリクトモードを選択できるようになることが大切だと考える。
その観点からみると、徳島は逆境のたびに自分の行動を振り返り、そこからの学びを力にして、コンフリクトへの向き合い方の引き出しを増やしてきたことがわかる。
この連載のドラフトに目を通して徳島は次の三点をコメントした。
- ここに整理されている様々なコンフリクトに向き合い、たくさんの苦労や失敗、挫折を味わってきたからこそ成長し、今の自分がいることをあらためて認識でき自信になった。
- 当時はコンフリクトに対処するための切り口など何も知らず、自己流で試行錯誤しながらやってきたが、やはり今回整理されているフレームワークを型として知っている方がよい。
- 若いころはやりきる意志や実績もなく、他責の意識が強かった。次第に自分に矢を向けられるようになってくると結果も出始めた。すなわち、やはり覚悟を決めて臨むという姿勢が必要条件ではないか。それがあってはじめて上記の型も有効に使えるようになるし、結果様々なコンフリクトスタイルが身についてくる。
いま43歳となった徳島は、外資系自動車部品メーカーのシニアのポジションにプロモーションしている。そして、グローバルに関係する人たちのプロファイリング分析をしっかり行ったうえで、コンフリクトへの向き合い方のスタンスを決め、具体的なコミュニケーションの方法を戦略的に考え実行する日々を送っているという。
参考:回避モードとは?
今回の徳島のストーリーには出てこなかったコンフリクトスタイルとして、もうひとつ回避モードがある。この選択肢自体を嫌うタイプの人もいるが、状況によってはこれも合理的なスタイルの一つになりうることを最後に付け加えておきたい。
回避モードとは、相手に協力することも自らを主張することもしないスタンスで、危険を回避することで無用なストレスを感じたり時間を浪費することを避けることができる一方、責任回避ととられたりコミュニケーションや意思決定の質が低下する懸念がある。
出典:”Introduction to Conflict Management: Improving Performance Using the TKI” Kenneth W. Thomas
回避モードを選択する状況としては、
- 感情的なコンフリクトを避けたいとき
- 得るものが少ない議論を避けたいとき
- 本質的問題から外れるとき
- 他者でも対処できる問題のとき
- 自分に勝ち目のない問題のとき
- 問題を先送りした方がよいとき
- かなり慎重に扱うべき問題のとき(情報収集する必要がある、議論に時間が取れないなど)
- リセットした方がよいとき(ブレイクをいれる、場所を変える)
などが挙げられる。
回避モードの留意点
回避モードを選択する際の留意点としては、重要なイシューは何か?(会議の目的の明確化や共通の目的の設定など)を明確にすることや、責任回避にならぬよう回避する理由を説明すること、怒りなどネガティブな感情のサイクルを断ち切る努力をすることなどがある。
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人や組織に動いてもらわなければ、目標は達成できません。多様性と相互依存性が高まるなかで、周囲を動かすパワーをいかに獲得し行使するか、グロービス経営大学院の「パワーと影響力」のクラスで学ぶことができます。
<参考文献>
・“Interpersonal Conflict” Hocker, Joyce L./Wilmot, William W.
・”Introduction to Conflict Management: Improving Performance Using the TKI” Kenneth W. Thomas
・“Using the TKI Assessment with the MBTI Instrument” Psychometrics 2018
・『MBTIへの招待』 R.R.ペアマン/S.C.アルブリットン(2002)