他部門を動かすためのリレーションパワー―コンフリクトスタイルと自己成長#3 妥協モード

実際にあった徳島正人(仮名)のケースをもとに、個人が新たなコンフリクトスタイルをいかに獲得していくのかを紹介する。前回、競争モードで失敗した徳島は、新しいコンフリクトに直面することになる。

前回までのあらすじ:失敗から得た2つの気づき

自動車メーカーの品質認証部に配属された徳島正人は、持ち前の正義感からリスクの少ないテスト方法をマネジメント層に提案したものの受け入れられなかった。その経験から徳島が得たことは二つあった。一つは、「組織には自分より賢い人だらけなのに、自分の方が正しいことをできる」という、自分の強みは正義感にあることを再認識できたこと。二つ目は、「いくら正論を言っても、仕事の実績面で自分が評価されていなければ受け入れられない」ということだった。そして、その件以降、徳島はまず結果を出すべく黙々と仕事に取り組むようになった。

尊敬できる上司との出会い

それから一年後、徳島は北米チームから国内チームに異動となった。そこで引退間際の上司の下で、はじめて本質的な教育を受けているという実感を持てた。

なかでも最大の学びと自信になったのは、「認証部の仕事とは、法規や手順に定められたことだけをやるのではない。手段だけ見ていると本質を見失う。大目的あっての手段だということを忘れるな。今はこういうやり方があるだけ。だから自分が正しいと思うことをやってみろ」と言葉をかけ続けてくれたことだった。

この上司は責任もしっかりとってくれ、自分を常に見てくれていた。それを契機に論理的にかつ新しく考えられることが増え、徳島は順調な日々を数年間過ごすことができた。

部の業務プロセス変更へのチャレンジ

しばらくして上司もかわり、徳島に新たなコンフリクトに向き合わなければならない機会が訪れた。開発から生産のリードタイム短縮を目的とした部内の業務フローとそれに伴うマイルストーンが大きくかわることになったのだ。

従来は生産開始までに認証を済ますため、生産の数カ月前までには開発情報を入手していた。それが新たなリードタイム短縮の業務フローへの変更により、認証の企画をレビューするためには、より前広に開発から情報を出してもらう必要が出てきたのだ。そうしないとリードタイム短縮のしわ寄せをすべて認証が負うことになる。それでは仕組みとして回らなくなると徳島は危機感を持った。しかし、部長は新たな業務フローで例外を作ることに抵抗を示した。

先輩の力を借りる

徳島は、部長に直訴しても動かないことを過去の失敗から学んでいた。開発部門のマネジメントに直接影響力を及ぼせるのは副部長だった。かつ副部長は大学の先輩でもあり、以前から可愛がってくれていた。

徳島は「認証部の仕事とは、法規や手順に定められたことだけをやるのではない。手段だけ見ていると本質を見失う。大目的あっての手段だということを忘れるな」という以前の上司の言葉を常に胸に秘め、妥協する部分も示しながらロジックと感情で説得するために半年間副部長のもとに通い続けた。

そして、ようやく納得してもらい、副部長開催の会議体において開発部門マネジメントの合意をとりつけてもらうことができた。

今回合意できた要因を徳島は次のように振り返る。①リードタイム短縮の新業務フローへの変更は支持しながら、②「自部門の実践可能な目線からの課題と対策案」と、それに反対する立場である③「開発部門から見た課題・不安と対策案」を説明できたことに尽きると。

「妥協」モードとは?その特徴とメリット・デメリット

今回のケースは、徳島が妥協できる部分も示しながら、認証の求める開発情報の前広な開示要求を飲んでもらうという「妥協」モードを選択したことになる。

「妥協」モードとは、自らが譲歩できる点を探しながら、相手にも要求水準を下げてもらい、お互いに協力してコンフリクト解消にあたるスタイルだ。迅速さと有用性を担保したオプションで、公平性や関係性を維持できるメリットがある一方で、次善的解決策にとどまってしまうデメリットもある。

出典:”Introduction to Conflict Management: Improving Performance Using the TKI”  Kenneth W. Thomas

通常「妥協」モードは、自分の懸念と他者の懸念を部分的に解消するやり方なので、非常に重要な問題には使わないほうがよい。「妥協」モードで臨むべきケースとしては以下のような場合が考えられる。

  1. 重要性の低い問題
  2. 比較的重要な問題で「競争」「協働」モードとも使えないとき

  ―権限的に同等の人同士のとき
  ―複雑な問題に暫定的な解決策が必要なとき
  ―時間がないなか便宜的な決断が必要なとき
  ―「競争」モードでは関係性が損なわれそうなとき
  ―「競争」「協働」モードが失敗したとき などに有効とされる。

妥協モードの留意点

「妥協」モードを選択する際の留意点としては、

  • 相手の懸念点と、相手が最低限譲れないところを認識しておくこと(今回のケースでは、上記③「開発部門から見た課題・不安と対策案」を説明できたこと)
  • 上記が難しいときは、自分が最低限譲れないところを提示し、相手からベストオファーをもらうこと
  • 話し合う前に、公平さの基準について合意し、その基準にもとづき「私たち」を用いて歩み寄りの価値を提案すること
  • 合意した基準にあうように、中立的かつ客観的なやり方で必要情報を収集する。中立的な人に評価してもらうことも大切(今回のケースでは、徳島が自部門の管理職が把握していないほど、何十パターンにも及ぶ会社・開発全体のプロセスを読み込み、全体の流れを具体的に誰よりも詳しく理解したうえで、俯瞰的に自らの対策案の妥当性を説明)

などがあげられる。

本ケースから徳島が得たものは?

一つには、前回の正論一辺倒の「競争」モードから、大目的を常に意識しながら、あるべき姿に少しでも近づくための「妥協」モードを選択できたこと。これによりコンフリクトスタイルの幅が広がった。

二つ目には、相手(開発部門)の懸念点を正しくおさえたうえで、相手にとって影響力のある人間(先輩上司)との関係性を醸成し、リレーションパワーにしていったことがある。

さらに、大目的を達成するために関係者をうまく巻き込み、したたかさを持ちながらもフェアに物事を実行する姿勢は周りもしっかり見ているという点だ。

事実、今回の交渉の相手側である開発部門のリーダーは、粘り強く進めた徳島の実行力を高く評価し、彼に開発部門への異動を打診している。しかし、この時点で米国異動の可能性が見えていたため、徳島は開発からのこのオファーを断った。しかしその後、内定していた米国異動も消滅してしまい、結局この会社を退職することになる。さて、退職した徳島はどのような道を選んだのか、次回をお楽しみに。

次回につづく

◇    ◇    ◇

人や組織に動いてもらわなければ、目標は達成できません。多様性と相互依存性が高まるなかで、周囲を動かすパワーをいかに獲得し行使するか、グロービス経営大学院の「パワーと影響力」のクラスで学ぶことができます。

<参考文献>

  • “Interpersonal Conflict” Hocker, Joyce L./Wilmot, William W.
  • ”Introduction to Conflict Management: Improving Performance Using the TKI”  Kenneth W. Thomas

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