今の時代、コンフリクトは、組織成長の観点からも個人の自己成長の観点からもポジティブにとらえるべきである。ただ、個人のコンフリクトに向き合う姿勢(ここではコンフリクトスタイルと呼ぶ)は固定化しがちなので、相手や状況に応じてそのスタイルを変える柔軟性が必要である。それが自己成長につながる。今回からは、実際にあった徳島正人(仮名)のケースをもとに考えてみたい。(前回はこちら)
憧れの自動車メーカーへ。しかし、配属は想定外
車が大好きだった徳島正人は、工学部を卒業し憧れの自動車メーカーに入社した。しかし、最初に配属されたのは品質認証部という法規・認証を扱う間接部門だった。完全に希望外かつ予想外の配属でショックだったが、「何にでも学びはある」と言い聞かせ業務に臨んだ。
品質認証部という組織は、業務特性上、マニュアル通りに進めることが第一の、極めてコンサバで官僚的な文化だった。部門の存在意義や業務の目的について上司に尋ねても、納得のいく説明はなく、お互い情報共有もない。そんな上司に対しネガティブな感情をもっていることは出さないようにしていたつもりだったが、どこか気づかれていたかもしれないと徳島は当時を振り返る。
持ち前の正義感に火がつく
徳島は、幼いころから親から正義感と思いやりの大切さを厳しく教育されてきた。そんな彼の性格に火がついたのは、ある若手研修でのことだった。若手メンバーとの議論の中で、後輩が当時業界常識となっていた法規すれすれのテスト法のリスクについてとても悩んでいることを知った。
徳島は不正に発展させてはいけないという持ち前の正義感と困っている後輩を助けたいという一心から、そのリスクについて上司を超えて上のマネジメントに直接問題提起した。コンフリクトモードでいうところの「競争」の姿勢だ。当然のごとくマネジメント層からは解決策の提案を求められたが、徳島はそれについては全く考えていなかった。
それから数か月後、カネをかければ正しく実施する代替案があることを徳島は見つけ、上司はじめ周りのキーマン達に説明した。しかし、その時点では誰からも受け入れてもらえず、2年後に他の先輩からの提案としてその案は採用された。今でもなぜ徳島の案が受け入れられなかったのか真実はわからない。しかし、徳島本人は以下4つに原因があったのではないかと振り返る。
■徳島の提案が受け入れられなかった理由
- 説明能力不足(度々上司からは「お前の主張は論理が飛躍している」と指摘されており、この点については徳島自身も自覚していた)
- 信頼関係の醸成不足(組織のフォーマリティを無視したものの進め方や、組織のミッションや風土に対して自分のもつネガティブな感情が、上司はじめメンバーからの不信感を作り出してしまったのではないか? 結果も出していない中で・・)
- 相手(上司などマネジメント層)の懸念事項への理解不足(優先順位や制約要因など)
- 変化を嫌う組織文化
「競争」モードとは?その特徴とメリット・デメリット
「競争」モードとは、相手の意見を聞き入れず、自分の主張を通そうとすることだ。自分の立場主張に勝つ自信がある場合にはすばやく勝てる可能性があるというメリットがある一方、相手の心理的安全性を低下させたり、次善的決断になったり、決断の押しつけで実行段階での他者のコミットメント低下をもたらすデメリットがある。
[caption id="attachment_60694" align="aligncenter" width="1097"] Introduction to Conflict Management: Improving Performance Using the TKI[/caption]出典:”Introduction to Conflict Management: Improving Performance Using the TKI” _Kenneth W. Thomas
「競争」モードで臨むべきケースとしては、以下のような場合が考えられる。
- 重要なイシューのとき(重要でない場合には、無駄な戦いはしない。それはエネルギーの浪費である)
- 自分が正しいとわかっているとき
- 集団志向の罠にはまっているとき
など。
「競争」モードの留意点
今回のケースでは、少なくとも徳島が1.〜3.を満たしていると判断したのであれば、「競争」モードの選択は間違いとは言えない。ただ、「競争」モードで臨むのであれば、実行段階でいくつか留意すべきことがある。
第一に、普段から相手との関係構築を丁寧に行っていることだ。普段から敵対モードでいたらそれが相手にも伝わり、相手の自分へのネガティブ感情が先行し聞く耳をもってもらえない。普段からの信頼関係がベースにあるからこそ、戦うべきときにはその本気度が相手にも伝わるのだ。
第二に、説得力を増すには、もちろん共通言語としての論理性は必要条件だが、同時に、自分の主張が双方共通にもつ懸念事項の解消に結びつくことを訴えることも重要である。そのためには、当然ながら相手(上司はじめマネジメント層)の懸念事項を理解しようとする姿勢が不可欠となる。
それが自分の力ではなかなか難しいのであれば、客観的なアドバイスやフィードバックをもらえるメンター的立場の人をつくる努力も必要となろう。今回のケースであれば、テスト法の変更理由を、過去が誤っていたからとするのではなく、もっと前向きなものに置き換えてみるなどすれば、事の進み方も変わっていたかもしれない。
正論をぶつけるのはいけないのか?
さて、今回のようなケースは比較的若いビジネスパーソンがよく経験することではあるが、まず自分が正しいと強く思うことがあるのであれば、結果はどうあれぶつけてみるといい。今の変化の激しい時代には、従来の枠組みにとらわれない若い人の発想や視点が上記�Bの集団志向の罠に一石を投じる効果が十分にあるからだ。
ただ、そうは言っても、人間は感情の動物。うまくいかなければそこから学び、やり方は工夫しなければならない。このほろ苦く、しかし意味のある失敗経験から、徳島はコンフリクトへの向き合い方をどう軌道修正していくのであろうか?次回をお楽しみに。
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人や組織に動いてもらわなければ、目標は達成できません。多様性と相互依存性が高まるなかで、周囲を動かすパワーをいかに獲得し行使するか、グロービス経営大学院の「パワーと影響力」のクラスで学ぶことができます。
<参考文献>
- “Interpersonal Conflict” Hocker, Joyce L./Wilmot, William W.
- ”Introduction to Conflict Management: Improving Performance Using the TKI”_ Kenneth W. Thomas