デンソー執行幹部が語る、経営と現場の信頼を勝ち得る方法とは―組織ギャップを埋める“結節点人材”へ Vol.5

これまでの連載では、現場と経営をつなぐ“結節点人材”の必要性、その活躍について述べてきた。最終回となる第5回では、“結節点人材”のロールモデルともいえるキャリアを築いている、株式会社デンソー執行幹部 人事企画部長、人材育成担当の原雄介氏(グロービス経営大学院2013年卒業)へのインタビューから、結節点人材の実像に迫っていく。デンソー最年少の執行幹部(執行職・エグゼクティブフェロー、理事を統合したデンソーの職位)である原氏が、現場サイドにおいても経営サイドにおいても厳しい現実に真摯に向き合い、双方をよく知る結節点人材として心掛けていたこととは。

1.「言うべきことは言う」一貫してきた姿勢

―現在のポジションになられるまでどんなキャリアを歩まれてきましたか。 

:入社時は、まず生産技術の企画開発、生産供給体制の企画などに配属され、モノづくりに関わる幅広い業務に関わる仕事をしてきました。その後は、ASEAN地域本社出向を経験し、2016年より経営企画部門へ異動。キャリアの後半は中長期全社戦略立案や推進に関する仕事をしてきました。現在は人事企画の部門に所属しています。

―そうしたこれまでのキャリアの中で、心がけてきたことはどんなことでしょうか。

:生産技術企画から中長期の経営戦略企画、人事企画と担当領域が変わってきましたが、どこにいても心がけていたことは、「自分の意見を明確にする」ことと、「全体を俯瞰して考える」ことですね。

実は若手の頃、たとえ上役からであっても認識に齟齬があれば「違うものは違う」と伝えることが多く、(生意気だと言う意味で)「とんでもない若手がいる」と言われたこともありました。今思えばそのころから自分の意見を率直に伝えることは大事にしていたと思います。また、海外赴任となってASEAN全域について考える仕事をさせて頂いたことで、全体を俯瞰して考えるクセがついたと思います。

2.コミュニケーションは対話。構造化して、相手の意味付けで伝える

―現場との信頼関係を構築するために心がけていることはありますか。

:「現場」と一口に言っても、工場も研究開発も営業もいろんなところに「現場」があり、それぞれ状況が違います。ですので、出来るだけ足を運んでそれぞれの状況を把握しながら“相手にとってメリットのある行動”をするよう意識しています。

―足を運ぶことについて詳しく教えて下さい。まずは事前に情報を集めて仮説を立てていくのでしょうか。

:現場へ足を運ぶにあたっての目的として、「経営方針を伝えに行く」というようなことはないですが、「伝わっていないことを説明しに行く」ことはあります。伝えるというより、”つなぎに行く”、という表現の方がふさわしいですね。

その際、事前情報でいくつか仮説を立てて提案を持っていきますが、仮説を検証するというスタンスよりは、まず現場の状況を”素直に聴くこと”を大事にしています。役職に囚われず、現場の実態や実情をよく把握している人との対話を大事にして、ファクトを把握することを意識しています。また、相手の話す内容を常に“構造化”して、現場の課題を理解するように努めています。

 “構造化”によって、事業構造、コスト構造、組織の構成、地域との関連など、あらゆる角度で分解して「つまりどういうことなのか」という本質を見出していくことが出来ます。これはグロービスで学んだクリティカル・シンキングのツリー化の考え方です。そうすることで、それぞれの相手が抱えている課題が明確になります。

この考え方は、自分と違う立場の人と対話をする中で自然と意識するようになってきたと思います。

―現場のモチベーションを高め、動かすために意識していることはありますか。

:「why(なぜ)」から説明することです。まずは、なぜ今この施策が必要なのかというのを腹落ちしてもらった上で、what(何を)、how(どうやって)を伝えるようにしています。しかし、現場には「わかっていても出来ない」という問題は付き物です。そんな時は、出来るだけ具体的な施策を提示することで、現場が動けるような環境を作るよう意識しています。

重要なことは、「主体は現場である」ことです。現実的には私自身が一緒に最後まで実行することは出来ない。だからこそ、相手の目線に立つことが重要だと思います。

―相手の目線に立つとは、具体的にどういったことでしょうか。

:現場の事は現場の人が一番わかっているので「着手する順番を付けるのであればA,B,Cの順ですよね」と言うような紐解きを行うことです。

自分の役目は答えを引き出すファシリテーションをすることだと思っています。現場が実行出来るように一緒に作戦を立てることもよくありますが、その際、相手の想いを大事にしています。相手が入って欲しくない場合には私は入らないですし、もし入って欲しい状況ならば全力で入って一緒にやります。

―経営側が認識していないマイナスの情報が出てきた時は、どのような工夫をされていますか?

:そういった情報を経営側に対して伝える際は、自分の見解や都合のいい解釈ではなく、「ファクトベース」でコミュニケーションをすることが大事だと思っています。

ファクトといっても、愚痴や言い訳といったあまり意味のない要素は除きますが、「伝えなければいけない」ことはすべて伝えますね。実際に伝えるときには、先程の構造化と同じですが、経営側からみてわかりやすいように「要するにこういうことです」と整理して伝えるようにしています。

―信頼関係や社内のネットワークを構築するためには「社員同士の関係性を見抜く」ことも重要だと思います。何か意識していることはあるのでしょうか。

:私は、「ネットワーク」は、トライ&エラーの積み重ねで「解像度」を上げていくものだと考えています。仮にある人物と1日4回コミュニケーションを取ったとすると、1年間に800回の特殊解がつみ上がります。そして、毎回毎回、毎日毎日、相手とのコミュニケーションのやり取りのひとつひとつを振り返って、改善を重ねていくことを意識しています。この積み重ねによって社内のネットワークを構築していく感覚です。

先程も話しました「なぜ」を第一に考えること、「相手の立場・意味付け」を大事にすることは、特に経営層/現場に対してとの区別はなく、常に意識していますね。

3.コミュニケーション手段の変化を活かす

―コロナ禍でコミュニケーションの方法が変化しましたが、どのように対応されていますか。

:私は、コロナによって起きたコミュニケーションの変化を必ずしもマイナスだとは捉えていません。実際、オンラインでのコミュニケーション手段が整備されたおかげで、逆にコミュニケーションの頻度は増えました。例えば海外拠点のトップなど、直接会うのが難しかった人とも連絡が取りやすくなっています。これらはポジティブな側面だと捉えています。

また、全社方針などは、トップから広範囲に発信することが容易になりましたね。これまでは社長→役員→部長→課長といくつもの階層をまたいで、どんどん内容が曲解され劣化していく、いわゆる伝言ゲームでした。一方、現在は、会社としての方針がオンライン会議等でダイレクトに伝達されますので、各部署では、劣化していない情報を知った上で、自分のセクションはどうすべきかについて対話し、行動・施策に落とし込むことが出来ています。

―その一方で、雑談など偶発的なコミュニケーションは減っていませんか。

:私は社内のチャットを使って補完しています。特に定期的にいつと決めて連絡を取っているわけではありませんが、相手にメリットがありそうな情報があったり、ふと頭に浮かんだときにチャットしています。この不規則なチャットもネットワークの維持には役立っているように思います。

それ以外では、社内ブログを活用しています。テーマは「マーケティングから見る人事」というようなものから、「ビジネス書の読書感想文」、たまには「TVドラマの個人ランキング」など、様々に交ぜて、出来るだけ多くの人に読んでもらうよう工夫をしています。今はリアルでのコミュニケーションが難しい状況ですが、親しみやすい話題で距離を縮めながら、リーダーとしての意見も発信していければと思っています。

4.本来は不要な結節点 だからこそ大切な「つなぐ」意識

―改めて、結節点人材として活躍するために大事なことは何だと思いますか。

:経営と現場を「つなぎに行く」ことは大事な役目ですが、本来はつなぐ役割がいなくてもダイレクトにつながっているのが理想だと私は思っています。

逆に一番よくないのは「この人を通さないとダメ」という状況を作ってしまうことです。その状況は、組織として不健全ですし、自身も実は邪魔な存在になってしまっています。

現実的には、社長がいて、役員がいて、多くの部署の関係や連携があり、その部署の中に事業部長がいて、部長がいて、室長がいて、課長がいて・・・と、たくさんの連携や階層を介すことで理想通りにつながらないから、結節点として私達が入っていくことが求められます。しかし、本来は「自分がいなくても回る」状態になる事が理想の状態であることを常に意識しています。

5.読者へのメッセージ

―最後に、これから原さんのような立場を目指したいと思っている人に対してのアドバイスをお願いします。

:仕事のオファーがあったら、自分の仕事じゃない、と言わずにまずはやってみることが大事だと思います。そこには新しい出会いや気づきが必ずあります。「将来こうありたい」を描くのも当然大切ですが、個人的には、縁あっていただいた目の前のひとつひとつの仕事に感謝して精一杯やり遂げる姿勢が、今の先行きが不透明で不確実な時代にこそ大切にしなければならないことだと思っています。

加えて、私が仕事をする上で学んだ大事なことは、「めげない事」です。

今の仕事柄、いろんな立場の人に難しい対話をしていく必要があります。実際、最初は会ってくれなかったり、ドタキャンされたりしたこともありました。でも、そんな相手にも何度も押しかけていって、話を聴かせてもらい、その上で対話していったのは良い思い出です。実は、その人は今では私の一番の理解者でいてくれています。

―結節点人材は、悩めるミドルのロールモデルの一つになると思いますか。

:今回テーマにされている「結節点人材」は、社内の経営と現場に焦点を当てていたと思いますが、私の場合は日本のモノづくりをなんとかしたい、自分の会社をなんとかしたい、そのために自分が出来ることを、と考えて自分を動かしてきた結果が今のポジションだと思っています。

「つなぐ」という行為が必要になる場所は、社内の経営と現場だけではなくて、社内と社外、会社と地域、現場と顧客などいろんなところに存在しています。「見ているものは同じなのに、見えている景色が違う」という問題はどこにでもあるので、「自分がつなぎたい」と思うところをつないでいくことに、是非トライしていってもらえたらと思います。

おわりに:インタビューを経て見えた、その人らしさを活かした結節点人材としてのありかた

今回のインタビューでは、第3回で紹介した「結節点人材の要件」である、3つのSKILLとWILLを原氏が実際に発揮されている様子が伺い知れた。

SKILLの1つ目は”求心力”。とにかく現場に足を運び、傾聴によってその場の状況を把握し、まずは相手を理解することに努める。原氏は、相手にメリットのある行動を取り、それを繰り返すことで信頼を勝ち取られていた。

2つ目に”翻訳力”。「構造化」という言葉に表れていたように、全体を俯瞰し、起こっている現象の構造を見出されていた。だからこそ、経営側/現場側それぞれが理解しやすい言葉に言い換えて伝えることが出来ているのである。

3つ目に”したたかさ”。結節点である自分は「いなくても社内が回るのが理想」と語りつつも、誤った意思決定がなされる恐れがあれば上役に対してであっても「違うものは違う」と伝えるしたたかさもあることが伺えた。

加えて、WILLの部分。しばらく連絡を取っていない人にも、メリットのありそうな話があれば自分から連絡するなど、良い意味でのおせっかい気質がみられた。一方、根底には「日本のモノづくりをなんとかしたい、自分の会社をよくしたい」という大きな志もお持ちだ。 

更に特徴的であったのは、このように「結節点人材の要件」を満たしていることはさることながら、これらすべてを原氏ならではのやり方で実行されていた点である。

インタビューの中ではたびたび「繰り返し」「トライ&エラー」という言葉が聞かれた。一つ一つの事象に仮説をもって取り組み、改善を積み重ねていく姿は、実験を積み重ねていく工学部の出身の原氏らしい姿勢が表れていた。一見クールなイメージがある一方で、志を語る姿からは情熱を、「おすすめTVドラマランキング」など話題を工夫しながらブログを更新していくエピソードからはお茶目さを垣間見ることが出来た。インタビュアーもお話を伺いながら、こうした「らしさ」が醸し出す特有の安定感・信頼感に強く心を動かされた。

本研究を進める中で、原氏以外にも総勢21名もの方にお話を伺いした。すべての方々が共通して「結節点人材の要件」を満たしていたが、やり方も持っている魅力も十人十色であった。その人らしく自然体であるからこそ、多くの人と人の間に自然に介在することが出来ていたのだ。

結節点は重要度も難易度も高い役割だが、自分の想いに基づき、自分らしいやり方で要件を行動に移していくことが大切なのではないだろうか。

より変化が加速するこれからの時代、もし「経営と現場をつなげ、組織に貢献したい」という想いがある方は、是非「自分だったらどのようにこの結節点人材の要件を満たしていくか」と自らに引き寄せて考えていただけたら嬉しく思う。この記事が、皆さんのビジネスパーソン人生の中で行動を変えるきっかけとなれば幸いである。

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