格安海外ツアーを主な商品とする旅行会社のてるみくらぶが経営破たん(破産ですが、ここでは経営破たんとします)しました。直接の引き金となったのは航空券の発券に必要なIATA(国際航空運送協会)への支払い(約4億円)が資金ショートにより出来なかったことです。
ところで、旅行会社は通常、顧客である旅行者からツアー前に入金を受けます。サービスを提供する前に代金を回収することになるため、このような業態は一般的に資金繰りには困らないと言われます。『運転資本(WC)ってどういう意味なの?』でも説明しましたが、運転資本は、一般に「売上債権+棚卸資産‐仕入債務」と表されます。丁度、差額部分が運転資本、すなわち会社が事業を維持するために用意する必要があるおカネです。てるみくらぶのように顧客から前金で入金される業態では、売上債権(加えて棚卸資産も)がない、あるいは少なくなります。顧客から売上代金の支払いを先に受け、そのおカネを仕入の支払いに回すことができるのです。
ではなぜ、資金繰りが楽なはずのてるみくらぶが、資金ショートにより経営破たんとなったのでしょうか?いくつか原因を分析してみます。
・仕入の支払いのタイミングが早い
旅行会社から航空会社や宿泊施設への支払いはツアー出発日よりも早期に必要となることが通常です。そのため、旅行会社としては仕入の支払いのために顧客からの入金を早くせざるを得ないのが実情でしょう。つまり、実際には資金繰りが楽なビジネスモデルとは言えないのです。
・キャンセルポリシー
てるみくらぶに限らず日本の旅行会社は顧客への利便性を高めるために、キャンセル期間を長く設定(顧客にとってキャンセル料不要でキャンセルできる期間が長いという意味)することが少なくありませんが、現地の宿泊施設等のキャンセルポリシーはそれよりも厳しいことが通常とのことです。そのリスクは旅行会社が負っており、キャンセル率によっては収益性が相当圧迫されることになります。そもそもリスキーなビジネススキームだったと言えるかも知れません。
・仕入コストの上昇
格安旅行会社は、航空会社や宿泊施設などから余剰の席や部屋をいかに低価で仕入れるかがKSF(主要成功要因)の1つですが、昨今は航空会社等の経営努力によって余剰が減少しています(航空会社等にとっては収益性の改善)。その結果、仕入コストが上昇傾向にあります。一方で、KBF(購買決定要因)は価格の安さですから、簡単には販売価格の値上げはできません。
・広告宣伝費の強化
収益性が悪化して、例えば逆ザヤ(赤字)となった場合、仮に顧客から売上代金が前金で入金されてもそれを上回る仕入の支払いが近くにやって来るため、次の商品を販売してその入金を当てにしないと仕入の支払いができなくなります。報道によると、てるみくらぶは、広告宣伝を強化して顧客を呼び込もうとしたようです。これがさらに資金繰りを圧迫することになったと考えられます。
それでもなんとか、おカネを回せている(まさに自転車操業です)うちは良かったのですが、おカネがまわらなくなるとジ・エンドです。会社の経営が不安視され顧客離れが進んだり、解約が増えると会社におカネは入らず逆に流出する一方です。てるみくらぶの試算表によれば、半年間で現預金が12億円減っています。
このような要因がてるみくらぶの経営破たんにつながったのではないかと考えられます。格安旅行会社というビジネスモデルそのものに内在するリスクに加えて、外部環境の変化、そこに経営者の判断ミスが追い打ちをかけてしまったのかもしれません。