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日本プロ野球のビジネスモデルとは?——球団経営をMBAの視点で解説

投稿日:2012/03/21更新日:2019/04/09

変遷するオーナー企業

実質20億円から50億円程度の赤字が毎年発生するとされるプロ野球の球団経営。そもそもなぜ毎年赤字でビジネスが成り立つのか。また、プロ野球人気の低迷やスター選手の大リーグ流出が続く現状を踏まえた時、プロ野球のビジネスモデルはどこに向かうべきなのか。

そうした議論をする前に、これまでのプロ野球球団経営の歴史を振り返っておこう。以下は、ほぼ四半世紀間隔のスパンで見たプロ野球チームの変遷である(いずれも順位順。2012年のみ前年の順位。また、2011年末にベイスターズはTBSからDeNAに売却された)。まずは、ここからどのような傾向が読み取れるか考えていただきたい。

【1960年】

セントラル・リーグ

  • 大洋ホエールズ
  • 読売ジャイアンツ
  • 大阪タイガース
  • 広島カープ
  • 中日ドラゴンズ
  • 国鉄スワローズ

パシフィック・リーグ

  • 毎日大映オリオンズ
  • 南海ホークス
  • 西鉄ライオンズ
  • 阪急ブレーブス
  • 東映フライヤーズ
  • 近鉄バファローズ

【1985年】

セントラル・リーグ

  • 阪神タイガース
  • 広島東洋カープ
  • 読売ジャイアンツ
  • 横浜大洋ホエールズ
  • 中日ドラゴンズ
  • ヤクルトスワローズ

パシフィック・リーグ

  • 西武ライオンズ
  • ロッテオリオンズ
  • 近鉄バファローズ
  • 阪急ブレーブス
  • 日本ハムファイターズ
  • 南海ホークス

【2012年】

セントラル・リーグ

  • 中日ドラゴンズ
  • 東京ヤクルトスワローズ
  • 読売ジャイアンツ
  • 阪神タイガース
  • 広島東洋カープ
  • 横浜DeNAベイスターズ

パシフィック・リーグ

  • 福岡ソフトバンクホークス
  • 北海道日本ハムファイターズ
  • 埼玉西武ライオンズ
  • オリックス・バファローズ
  • 東北楽天ゴールデンイーグルス
  • 千葉ロッテマリーンズ

かつては多かった「親会社とのシナジー」追求

さて、上述の親会社の変遷から読み取れることは何だろう。まず、かつては電鉄系の企業とマスコミ系の企業が特に多かったことがわかる。1960年などは、東映もマスコミに含むと考えれば、12球団中10球団が電鉄もしくはマスコミ系の企業だ。

彼らの狙いは明らかに親会社の本業とのシナジー追求である。タイガースであれば、タイガースの試合を観に行くために阪神電車に乗るし、ついでに阪神百貨店に寄るファンも少なくないだろう。ドラゴンズであれば、中日戦のチケットを中日新聞拡販のためのサービスとして活用できるし、新聞や地元のテレビ、ラジオでドラゴンズ戦を取り上げれば、ますますドラゴンズファンが増え、ドラゴンズ戦がさらに効果的な拡販ツールとなるという好循環が期待できる。いわゆる「ハードとソフトのシナジー」を意図していたことが考えられる。

このモデルは2012年現在も用いられているが、かつてほどの重要度はない。特に電鉄系においてその傾向は強い。88年末に南海と阪急が同時に球団経営から手を引いた時にその傾向は鮮明となり、2004年の近鉄撤退で決定的になった。おそらく、現在の12球団制が続く限り、新たに球団を持とうとする電鉄系企業は現れないだろうし、埼玉西武ライオンズがいつまで球団経営に関わり続けるかも定かではない(電鉄系企業がプロ野球離れした理由はもう一度後で述べる)。おそらく、独自の歴史と人気を誇る阪神タイガースだけが残る可能性が高いだろう。

プロ野球のビジネスモデルを支える国税庁通達

親会社とのシナジー以上に、プロ野球のビジネスモデルを考える上で忘れてはならないのは、「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取り扱いについて」と題された1954年8月10日付の国税庁長官の個別通達である。

プロ野球に関する税金の取り扱いに関して記されたこの通達には、「球団の欠損金を補填するために親会社が支出した金銭は広告宣伝費とする」という項目が含まれている。つまり、選手の年俸なども含めて、球団に赤字補てんした場合はすべて親会社が広告費として税務上損金扱いできるということである。これは2012年現在に至るまで続く、日本プロ野球のビジネスモデルの最重要要素である。

時代によっても大きく異なるが、昨今は、球団経営は、親会社の補てんを除くと20億円から50億円の赤字と言われている。その赤字が、親会社の広告費として見合うものか、ちょっと試算してみよう。ゴールデンタイムのTVの広告スポット(15秒)はおよそ200万~300万円とされている。この数字と合わせると、球団の赤字は、ゴールデンタイムに1000~1500回程度のTVCMを流すのとほぼ同様の額と言えそうだ。

ジャイアンツ戦が常に20%超の視聴率を誇った頃の人気はないとは言え、ニュースのスポーツコーナーではいまだに真っ先にプロ野球のニュースが取り上げられる。優勝争いにでも絡むと、企業名を連呼される回数は劇的に増える。個別企業の宣伝はしないはずのNHKでも「ソフトバンク優勝!」などと企業名を呼ばれることを考えると、ゴールデンタイム1000回以上のTVCM以上の効果ありとみなす企業は少なくないだろう。

特に、楽天やDeNAといった成長中の会社や、国内全体をカバーしている中堅食品会社の日本ハムやヤクルトなどにとって、この広告効果は魅力的に映るはずである。事実、日本プロ野球組織は安易な売名行為を避けるべく、加盟に際して保証金30億円を要求するほどである。

こうして見ると、2004年に近鉄バファローズが球団経営から手を引いた理由もよくわかる。当時近鉄は1兆円を超える負債を抱えてリストラ中であり、連結ベースで利益こそ出していたもの、40億円近い赤字とも言われたバファローズの経営は大きな重しとなっていた。しかも、ほぼ関西(一部中京)限定のビジネスをしている近鉄にとって、全国的な知名度を追うことの必然性は低い。費用対効果のバランス次第ではあるが、全国的な広告の必要のない、経営建て直し中の企業にとって、40億円の赤字は重すぎたのである。

その点、ヤクルトスワローズなどは、かつては、1億数千万円と言われたジャイアンツ戦のテレビ放映権を十数試合分持っていたことから、赤字額もそれほど多くなかった(その意味で、セリーグの球団は「ジャイアンツ人気」という“下駄”を履いていたとも言える)。相手球団のファンも多数入場してくれることが見込める東京という都市の特殊性や、23区のど真ん中という球場立地の良さと併せ、球団経営を広告費とみなすビジネスモデルのメリットを大いに享受したチームと言えよう。

ビジネスモデルの鍵となる「提供価値」と「収益モデル」

さて、ここまで天下り的に使ってきた「ビジネスモデル」という言葉だが、もう一度その意味を確認しておこう。ビジネスモデルにはさまざまな定義がある。たとえば、マッキンゼー賞を受賞した経営学者のマーク・ジョンソンは、著書『ホワイトスペース戦略ビジネスモデルの<空白>をねらえ』の中で、ビジネスモデルを「顧客価値提案」「利益方程式」「主要経営資源」「業務プロセス」の4つに分解している。「誰に何をどのように提供するのかを考える『事業定義』に、いかに稼ぐかという『収益モデル』を加味したもの」という定義もあるが、それに似たものと言えよう。本コラムでも、基本的にこの定義を用いることにする。

ビジネスモデルは時として「ITをどのように使って」あるいは「どのようにアライアンスを組んで」という点に目が行きがちだが、まず意識したいのは、顧客に対して何を提供し(「提供価値」≒「顧客価値提案」)、それをどのように収益化するか(「収益モデル」≒「利益方程式」)ということである。特に意識したいのは収益モデル、つまりどのようにしてトータルとして利益を得るかということだ。

たとえば、カラオケボックスというビジネスは、通常、歌うスペースを提供し、室料をとるが、それだけで黒字にすることは考えていない。稼ぐのは飲食であり、その高い粗利(定価に比べ、原価はかなり安い)で収益を上げている。つまり、顧客に対しては、「好きなだけ個室で歌を歌えて、飲食も頼めば持ってきてくれる」という価値を提供しているが、収益モデルの面では飲食が鍵なのである。カラオケボックスとは、「歌える個室スペースを提供することで集客する飲食業」とも言えるのだ。

これをプロ野球に当てはめると、提供価値はもちろんスリリングな試合や、選手の魅力、技などとなるが、収益モデルとしては、それらがもたらす入場料以上に、広告効果(これがメイン)やシナジー効果により、本業のビジネスの売上げを増やすというのがこれまでのやり方だったと言える。

「仮に球団経営単体では数十億の赤字が出ようが、広告効果を考えれば十分」という企業が豊富にあれば、このビジネスモデルで問題はないとも言える。事実、今世紀に入ってからも、ソフトバンク、楽天、DeNAという新しい企業がプロ野球ビジネスに参入した。しかし、その前に立ちはだかるのが、プロ野球自体の人気低迷という悩ましい問題である。

新時代のプロ野球のビジネスモデルとは

いうまでもなく、人気の低迷は球団名の露出低下を促す。数年前までは全試合が地上波で放映され、十数%の視聴率を持っていたジャイアンツ戦すら、いまや地上波放送は数えるほどしかなく、しかも平均視聴率は一桁台である。

現在でこそスポーツニュースのトップにプロ野球が来ることが多いが、それもいつまで続くか分からない。20年後にはサッカーや海外スポーツにその座を奪われる可能性もある。

政治家や官僚が、先述の国税庁通達を覆して赤字を全額は損金とみなさないと決めれば、そもそも「広告費ビジネスモデル」そのものの効果性が下がってしまうが、財政難が続く昨今、その可能性もゼロとは言えない。

そうした中、どのようなビジネスモデルが日本のプロ野球にとって可能だろうか?いくつか可能性を考えてみよう。

(1) 地域密着型ビジネスモデル
これはJリーグをはじめとするサッカークラブのモデルに近いものだ。地域に密着し、溶け込むことで、地元からの強い愛着と支援を得る。地元の観客にスタジアムまで来てもらい、地元のスポンサー広告や地元テレビ局の放映料を増やしていく。スタジアムとの関係も極力Win-Winになるようにし、使用料を押さえ、飲食代やノベルティグッズの販売代の一部が球団に入るようにする(ちなみに、現在でも、飲食代やノベルティグッズの販売代は別組織のスタジアムに入るという球団は多い。横浜スタジアムが敬遠される理由にもなっている)。

イベントや地域との交流なども積極的に行い、試合だけではない楽しみや愛着を顧客に対する新たな提供価値として最大化していく。提供価値も増やし、収益化の方法も増やすというモデルだ。すでに東北楽天ゴールデンイーグルスがこれに近い取り組みをしている。

このモデルの弱点は、日本では東京や大阪、名古屋の集中度が高すぎる点だろうか。特に東京は最大市場でありながら地元愛を感じにくい都市であるし、大阪は歴史的経緯から阪神タイガースの独壇場となっており、2チームが健全に球団経営できる環境にない。名古屋も同様だ。こうした点をどうクリアするかが課題になりそうだ。

(2) NFL(National Football League)型リーグ主導モデル
これは、現在の各球団バラバラの意思決定の仕組みを止め、プロ野球機構に権限を集中して、プロ野球全体で繁栄を享受し、各チームに分配しようというものだ。あらゆるスポーツビジネスで最も洗練された経営がなされているというNFLでは、コミッショナー主導により、「戦力の均衡こそが好試合、スリルを生む」との信念のもと、完全ウェーバー式のドラフトや、ハードサラリーキャップなど、戦力均衡ためにさまざまな工夫をしている。また、テレビ放映権やビデオ販売事業などはリーグが一元管理している。その結果、グリーンベイ・パッカーズのような地方の小都市のチームがリーグ屈指の人気球団となったりもしている(それに対して野球のメジャーリーグでは、ピッツバーグ・パイレーツやカンザスシティ・ロイヤルズが「小市場」ゆえの資金不足でここ20年以上、常に下位に甘んじている)。

この場合の新たな提供価値は、「追いつ追われつの好ゲームが今まで以上に期待できること」「最下位のチームでも、すぐに戦力を整え、優勝戦線に絡めること」などとなるだろう。その結果として、地元チームへの関心や愛着がさらに増すことも期待できる。

収益モデルとしては、先述の地域密着型の要素に加え、「NPB(日本プロ野球)」全体をNFLのように商品化し、ビデオアーカイブや記録(野球ファンには記録マニアが多い)を収益源にするなどが考えられる。

このモデル実現のためには、コミッショナーの強い権限と、本部の卓越したマーケティング力、構想力、知恵などが必須である。

(3) 他国リーグ巻き込み型モデル
これは、他国のリーグと共同歩調をとってキラーコンテンツとなるチャンピオンシップリーグをシーズンと並行して開いたり(サッカーのUEFA チャンピオンズリーグのイメージ)、最終的には他国リーグと合併するようなモデルである。サッカーなどに比べると野球はナショナリズムに訴えにくい側面があるため、国対国という新たな提供価値を打ち出すことには一定の効果はあるだろう。

収益モデルとしては、そうしたキラーコンテンツのテレビ放映料やグッズの販売、スポンサー収入などを新たな収益源とすることが考えられる。また、グローバル化が叫ばれる昨今、海外への広告効果も期待される。

ただし、各国リーグとの利害調整や地理的障壁、国内リーグとの両立などを考えると、実現へのハードルは低くはない。

(4) 良いとこ取りモデル
これらのモデルの良いところを組み合わせたものだ。チームは地元密着し、提供価値と収入源を増やしながらも、リーグの強い権限とリーダーシップの元で、プロ野球全体の人気回復が図られている。UEFA チャンピオンズリーグやワールドカップの野球版が日米、アジア、中南米を巻き込んで行われており、国民的関心事項となっている。

そして現実的には?

前で4つの典型的なビジネスモデルを紹介したが、それ以外にもおのおの中間的なモデルや、より斬新なモデル(例:よりエンターテインメント性を高める)も考えられよう。個人的には(4)を期待したいが、球団ごとに人気のバラつきがありすぎ、またメジャーとの実力差、資金力の差がありすぎる現状では、おそらく実現はしないだろう(仮に最適解があっても、さまざまなしがらみや経緯があってその通りにならないのがビジネスである)。

となると、実現性が高いのは、すでにパリーグ球団を中心にその方向に進んでいる(1)、あるいは(1)と(3)の融合型だろうか。

あくまで個人的な見解ではあるが、日本人がプロ野球に抱く関心や好意が、アメリカ人がメジャーリーグに抱くそれと比べて低いとは思わない。にもかかわらず、1球団あたりの収入がメジャーリーグの半分以下というのは、ビジネスモデルのブラッシュアップを怠ったつけに起因すると言わざるを得ない。ビジネスモデルが改善され、優秀な選手が集まるようになれば、有名選手のメジャーへの流出にもある程度は歯止めがかかるだろう。野球版チャンピオンズリーグはその意味でも効果を持つはずだ。

改めて日本のプロ野球界が持つべきは、結局、どのような価値を顧客に提供し、それをどうキャッシュに変換していくかという知恵である。

確かにプロ野球の地上波放送は激減したが、一方でCS放送は増えているし、少子化にもかかわらず、高校野球の参加校数はほぼ横ばいを保っている。国民が野球を急に嫌いになったわけではない。

プロ野球の場合、チームとしてのビジネスモデルと、機構全体としてのビジネスモデルの両方を考えなくてはならないという難しさはあるものの、それは決して人知を超えるものではないはずだ。抵抗勢力となるであろう特定球団にもベネフィットを提示しつつ、プロ野球全体のテコ入れを図る、知恵と勇気ある人材の登場を期待したい。

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