これまで長期間のキャリアを考える意義について述べたが、次に、キャリア=自分の人生を考える際の基軸になる「志」について考えていく。
「志」という言葉を聞くと読者の皆さんはどのようなイメージを抱くだろうか。坂本龍馬、松下幸之助など偉人たちを思い浮かべる人も多いかもしれない。
志を胸に抱いて生きていく姿を「よい」と思っても、「自分には志と呼べるようなものはない」との思いを持ったり、「まだ志を見つけ出すことができていない」と落ち込んだりして、考えたくないと逃げてしまう人も少なくないのではないだろうか。
一般に志が大事であるという趣旨のことを言う人々は、いわば「志有段者」なのだろう。その域に達していない人からすれば、どのように志を醸成していくのかの話がないままに、重要性だけを説かれても困ってしまう。
私はそのような状況になっている多くの人に少しでもヒントを提供できないかと、数十人に対するインタビューを実施して、志の醸成過程を明らかにしてみた。志とは、突然何かがひらめいて見つかったり、急に天から降ってきたりするようなものではない。少しずつ、小志ともいえるものを積み上げ育てていく、そして、いつか大志に昇華されていくという姿だったのである。
志について考えを深めていくためには、言葉の定義が大切だ。人それぞれに志という言葉のイメージが異なるからだ。私は志という言葉を「一定の期間、人生をかけてコミットできるようなこと(目標)」と定義している。
「一定の期間」があまりに短いと、行動目標になってしまうので、1~数年程度を想定する。「人生をかけてコミット」という部分は「時間」や「マインド」など、自分でコントロールできる資源のかなり多くの割合を、自主的に割いて何かに取り組んでいることとした。
一般的に「高尚なもの」「他人のために動くこと」が志のように思われている。このため、こういった定義は一見すると、多くの人が想定する「志」のイメージからは、遠いものかもしれない。
一定期間、人生をかけてコミットする目標を「小志」、一生涯を通じて達成しようとするものを「大志」と分けて、大志の実現は無数の小志が積み重なっていきながら、成されると考えれば、納得してもらえるだろう。
このように定義すれば、中学の時に一生懸命取り組んだ野球、大学受験に真剣に取り組んだ一年、学生時代に大会での優勝を目指して頑張った体育会での活動など、その時々の営みを「小志」としてとらえることができるはずだ。
そのひとつひとつの志は、5つのフェーズを持つサイクルとなっている。
ある時に胸に抱いた志を達成するために、必死に活動し、いずれ終焉(しゅうえん)を迎える。それまでの自らの活動の意味や位置づけを客観視しつつ、次に取り組むことを自問自答する。そして、新たな目標を設定し、またその達成に取り組んでいく――。この5つのフェーズは、スパイラル状に成長していく。
継続的に、志を育てていくために、自分自身がこのサイクルのなかでどのフェーズにいるのかを確認し、次のステップに進むことにチャレンジしてみていただきたい。
※この記事は日本経済新聞2013年12月18日に掲載されたものです。
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