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ファッションを、もっと自由に。26億円赤字撤退からの“倍返し” —ジーユー・柚木治社長【前編】

投稿日:2014/01/24更新日:2020/02/13

柚木 治/ユノキ オサム

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柚木 治氏

株式会社ファーストリテイリング上席執行役員、株式会社ジーユー代表取締役社長

1988年3月一橋大学経済学部卒業
1988年4月伊藤忠商事株式会社入社
1999年1月GEキャピタル・コーポレーション入社
1999年12月株式会社ファーストリテイリング入社
2000年3月同執行役員
2002年9月株式会社エフアール・フーズ代表取締役社長
2004年5月株式会社ファーストリテイリング執行役員
2007年12月株式会社ユニクロ執行役員
2008年9月株式会社GOVリテイリング取締役副社長
2010年9月株式会社GOVリテイリング代表取締役社長
2011年9月株式会社ジーユー代表取締役社長

野菜事業で26億円の赤字を出し敢え無く撤退。出した辞表はオーナーの柳井正から“金を返せ”と突き返された。あれから10余年。その柚木治氏率いるファッション衣料ブランド「GU(ジーユー)」が気を吐いている。オンシーズンに低価格でトレンドを身に着けられるというコンセプトが若者を魅了したのだ——。孤高さすら感じさせるユニークネスと、多くの者の共感を呼び揺り動かすビジョン。一見、相矛盾する要素を兼ね備え、圧倒的な価値を生み出す“バリュークリエイター”の実像と戦略思考に迫る連載第3回前編。(企画構成:荒木博行、文:治部れんげ)

文字通り「倍返し」をした。

低価格のファッション衣料ブランド「GU(ジーユー)」は2012年度売上高580億円、利益50億円(※取材時。直近に発表の2013年度業績は売上高837億円、利益76億円)。同社を率いる社長の柚木治(ゆのき・おさむ)は、10余年前、2002年に立ち上げた新規事業を1年半で畳んでいる。赤字額は26億円

今回は、10年足らずで倍の金額を返し切ったビジネスマンの仕事を見る。

「自分のような失敗した人間が上に立ったら、みんなが嫌な気持ちになる」

それは2008年のことだった。ファーストリテイリングの低価格衣料ブランド「ジーユー(g.u.:当時)」の「副社長になってくれないか」と、声をかけられた柚木は当初、固辞し続けた。ジーユーは2006年にファーストリテイリングとダイエーが業務提携して立ち上げたブランドで、ユニクロより安いファミリー向けの衣料品をGMS(総合スーパー)で売ることを目的にしていたが、ユニクロとの違いが消費者にうまく伝わらず赤字が続いていた。

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当時は柚木にとっても低迷期だった。2002年に立ち上げた、いわゆる「ユニクロ野菜」事業が失敗し、1年半で撤退した記憶が新しかったためである。辞表を出そうとしたところ、会長の柳井正に止められた。「お金を返して下さい」という、柳井独特の言い回しで慰留されたことを、知っている人もいるだろう。

辞めることは止めたものの「志ある生産者など、あらゆる人の期待を裏切ってしまった」という自責の念はなかなか消えなかった。人事やマーケティング部門で働きながら「一生、フォロワーとして生きていこう」と本気で思っていた。

一方、ジーユーの副社長はまぎれもないリーダーだ。しかも求められるのは不振事業の立て直し。ダメなら事業を畳むしかない…という状況である。「自分のような失敗した人間が上に立ったら、社員みんなが嫌な気持ちになる」と言う柚木を、当時、ジーユーの社長だった中嶋修一は諭した。「1回失敗したくらいで、何を言っているんですか。ゴルフを初めてやった人が、成績が悪いから2度とやらない、と言うようなものですよ」。

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柚木がおそるおそる副社長を引き受けた翌2009年、社長の中嶋が企画した「990円ジーンズ」がヒットする。リーマン・ショック後の低迷期、消費者に驚きを与える価格設定で話題となった。「ユニクロの半額」という勝ちパターンが一つ、見えてきた。

「うちの服が欲しい?」。答えはノーだった

ジーユーの転機は2011年、ブランドのアイデンティティーを固めたことにある。それは990円ジーンズの勢いに陰りが見えた、2010年終わりのこと。社長になった柚木は、ジーユーの若手社員に聞いて回った。「本当に、うちの服が欲しい?」。答えはノーだった。

当時、ジーユーの製品は「ユニクロの7割の価格」を目安に企画されていたが、消費者にはユニクロとの違いを訴求できずにいたのだ。ユニクロが定期的に行うセールのサイクルと価格設定を熟知する消費者には「7掛けの値段ならユニクロのセールでいい」と思われたからだ。990円ジーンズのヒットはジーユーが「ユニクロとの違いを消費者に認識させるには、ユニクロの半額にする必要がある」ことを学ぶきっかけになった。

そして柚木のもう一つの問いが、ジーユーの方向性を決定づけた。「ユニクロの安い版に、人生をかけられるか?」。この問いに対する答えもノーだった。柚木が話を聞いた若手は総じて「トレンドを捉えた服が必要」と言った。「価格はユニクロの半額で、製品はユニクロのようなベーシックなカジュアルではなく、トレンドを感じるカジュアル」。方向性が少し見えてきた。これを柚木は「“○○のようなもの”をやめて、ファッションに舵を切った年」と位置づける。

安い服ほどトレンドが欲しい——。自分自身を「服にうるさい、おしゃれな人間ではない」と自認する柚木は、若手社員からこの本音を聞き出すに際して、彼・彼女らの話を徹底的に聞いた。「僕ひとりでは分からない。僕は大失敗もしている。だから、みんな、教えて。本気でそう思っています」。

お金はあまりないけれど、おしゃれを楽しみたい顧客層の気持ちをつかんだ時、柚木は気づいたことがある。「みんな、我慢している。百貨店に行って『これ、欲しいな』と思っても、定価では買えないから、バーゲンまで待つ。こういう人たちのために、ジーユーは、トレンドのど真ん中を、今すぐ買える価格で提供したい。『ファッションを、もっと自由に。』というコンセプトは、そうやって生まれました」。

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ファッション性重視で低価格衣料を生産することには、リスクも大きい。「デザインが複雑になると生産に手間がかかる。消費者の好みに合わないと売れ残る可能性もありますし、地方のロードサイド店では売りにくいし、考え出すと色々ありました」と柚木は振り返る。約30名のデザイナーが1年半にわたり、トレンドを見極め、素材や色、縫製を検討する。製品を個々の店舗内で売り切ることで、売れ残った製品を他店に回す時間的・経済的コストをかけない工夫もしている。

「店内売り切りの仕組み」を考えた柚木は、店舗を見て回る際、店長にまめに声をかける。「この一番、目立つところに置いてある商品は、本当によく売れるの?」。社長から問われたことは、若い店長の記憶に残り、日々の店舗運営に反映されていく。

→後編はこちら

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