代替財とは
代替財とは、ある製品やサービスに対して、顧客の同じニーズを満たすことができる別の製品やサービスのことです。代替品とも呼ばれます。
身近な例で説明すると、メガネに対するコンタクトレンズやレーシック手術、レコードに対するCDやストリーミング配信などがあります。これらは形は全く違いますが、顧客が求める本質的なニーズを同じように満たすことができます。
企業にとって代替財は、同じ業界の直接的な競合他社よりも見えにくい脅威となることが多く、気づいた時には大きなダメージを受けてしまうケースが少なくありません。そのため、代替財を理解し、適切に対策することは現代のビジネス戦略において非常に重要な要素となっています。
なぜ代替財が重要なのか - 見えない脅威こそが最大の危険
代替財を理解することが重要な理由は、企業が本当に注意すべき競争相手は、必ずしも同じ業界にいるとは限らないからです。
①見落としがちな真の競合相手
多くの企業は、同じ業界内の競合他社や新規参入者には注意を払います。しかし、代替財については見落としがちになる傾向があります。映画館業界を例に考えてみましょう。映画館同士の競争には注目していても、テレビの普及という外部からの脅威に対しては準備不足だったのです。
②業界の常識を覆す破壊的な変化
代替財による影響は段階的ではなく、一気に市場を変えてしまうことがあります。国内旅行業界では、海外旅行が身近になったことで、特に新婚旅行などの特別な機会において大きくシェアを奪われました。このような変化は、従来の業界の枠組みを超えて発生するため、予測と対策が困難になります。
代替財の詳しい解説 - 顧客ニーズから見えてくる本質
代替財を正しく理解するためには、顧客が何を求めているかという根本的なニーズに着目する必要があります。
①顧客ニーズの本質を理解する重要性
現在の顧客がどのようなニーズを満たすために自社の製品・サービスを利用しているのかを深く理解することが、代替財の脅威を見抜く鍵となります。
パソコンを例に考えてみましょう。インターネットやメールを利用したいという顧客にとっては、スマートフォンが強力な代替財となります。一方、ゲームが主目的という顧客であれば、ゲーム機が注意すべき代替財となります。同じ製品でも、顧客のニーズによって脅威となる代替財は変わってくるのです。
②競合と棲み分けの可能性
興味深いことに、ある場面では競合する代替財も、満たそうとするニーズが異なる場合には棲み分けが可能です。
コンドームの事例で考えてみましょう。避妊というニーズが重視される場面では、経口避妊薬と強く競合します。しかし、性感染症の予防が主要ニーズである場合には、これらは競合しません。つまり、同じ製品でも使用目的によって代替財との関係性が変わるのです。
③時代の変化と代替財の進化
技術の進歩や社会環境の変化により、代替財の関係性も変化します。かつて長距離間の主要伝達手段だった電報は、電話の普及によってほとんど置き換えられました。
しかし、電報は完全に消滅したわけではありません。電話では満たしにくいニーズ(視覚や嗅覚にも訴えたい、保存してほしい、時間指定したい、代理発信したいなど)を満たせることから、慶弔という特定の市場で現在も命脈を保っています。
代替財を実務で活かす方法 - 戦略的な視点で市場を見る
代替財の概念を実際のビジネスで活用するためには、戦略的な視点で市場を分析し、適切な対策を講じる必要があります。
①市場環境の継続的な監視と分析
自社の製品・サービスに対する代替財を特定するためには、業界の枠を超えた広い視野での市場分析が必要です。
まず、顧客が自社製品を利用する際の根本的なニーズを明確にしましょう。次に、そのニーズを満たす可能性のある他の製品・サービスを幅広く洗い出します。技術の進歩や社会環境の変化により、新たな代替財が登場する可能性も常に考慮する必要があります。
定期的な顧客アンケートや市場調査を実施し、顧客がどのような代替手段を検討しているかを把握することも重要です。また、異業種の動向にも注意を払い、自社の事業領域に影響を与える可能性のある変化をいち早く察知する仕組みを構築しましょう。
②代替財脅威への対策と戦略策定
代替財の脅威を特定した後は、具体的な対策を講じる必要があります。
一つの方法は、自社の製品・サービスの差別化を図ることです。代替財では満たせない独自の価値を提供することで、顧客の選択理由を明確にします。また、代替財の利点を取り入れた新しい製品・サービスの開発も有効な戦略となります。
価格戦略も重要な要素です。経済学的な観点から見ると、一方の製品・サービスの価格が上昇すると、他方の製品・サービスの需要が増加する関係が代替財の特徴です。この関係性を理解し、適切な価格設定を行うことで、代替財との競争を有利に進めることができます。
さらに、代替財が満たしにくいニーズを強化することで、特定の市場セグメントでの地位を確立することも可能です。前述の電報の例のように、完全に市場から撤退するのではなく、自社の強みを活かせる領域に特化することで生き残りを図ることができます。