CAPM(資本資産価格モデル)とは
CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)は、株式などの個別銘柄がどれくらいのリターンを期待できるかを計算するための理論モデルです。
1960年代にスタンフォード大学のウィリアム・シャープ教授やハーバード大学のジョン・リントナー教授らによって開発されたこの理論は、それまで感覚的だった投資判断を科学的なアプローチに変えた画期的な発明でした。
CAPMの最大の特徴は、投資のリターンを「時間的価値」と「リスクに対する報酬」の2つの要素に分けて考える点にあります。これにより、「なぜこの株式はこの程度のリターンが期待できるのか」を論理的に説明できるようになったのです。
なぜCAPMが重要なのか - 投資判断の科学化を実現
CAPMが投資やファイナンスの世界で重要視される理由は、投資判断を客観的で科学的なものに変えたことにあります。
①投資の「当たり前」を数式で表現
投資の世界では「ハイリスク・ハイリターン」という考え方が当たり前とされてきました。しかし、CAPMはこの関係を具体的な数式で表現することで、どの程度のリスクを取ればどの程度のリターンが期待できるのかを明確に示したのです。
これにより、投資家は感覚に頼った投資判断から脱却し、より合理的な意思決定ができるようになりました。特に機関投資家や企業の財務担当者にとって、投資の妥当性を客観的に評価できる手法として欠かせないツールとなっています。
②企業価値評価の基準を提供
CAPMは単に個人投資家の投資判断に役立つだけでなく、企業の資本コスト計算や投資プロジェクトの評価にも広く活用されています。企業が新規事業に投資する際、その事業がどれくらいのリターンを生み出す必要があるかを判断する基準として、CAPMは重要な役割を果たしているのです。
CAPMの詳しい解説 - 数式に込められた投資の本質
CAPMの核心は、次の数式に集約されています:
E(rz) = rf + βz × [E(rM) - rf]
この一見複雑に見える数式には、投資の本質が詰まっています。
①各要素の意味と役割
数式の各要素を分解してみましょう。
- E(rz):株式Zの期待リターン(これから求めたい値)
- rf:リスクフリーレート(無リスク資産の利回り)
- βz:株式Zのベータ値(市場全体との値動きの関係性)
- E(rM) - rf:マーケット・リスクプレミアム(市場の超過リターン)
リスクフリーレートは、実務的には10年物の国債利回りを使うことが多く、これは「時間的価値」を表しています。つまり、お金を1年間貸し出すことの対価として得られる最低限のリターンです。
②ベータ値が示すリスクの大きさ
ベータ値は、その株式が市場全体と比べてどれくらい値動きが激しいかを示す指標です。ベータが1の場合、市場全体と同じ値動きをし、1より大きければより値動きが激しく、1より小さければより値動きが穏やかということになります。
たとえば、ベータが1.5の株式は、市場が10%上がった時に15%上がり、市場が10%下がった時に15%下がる傾向があります。つまり、ハイリスク・ハイリターンな性質を持つということです。
③証券市場線という概念
CAPMの数式をグラフで表したものを「証券市場線(Security Market Line)」と呼びます。横軸にベータ値、縦軸に期待リターンを取ったグラフ上で、この数式は一本の直線として表現されます。
この直線より上にある株式は「割安」、下にある株式は「割高」と判断されることが多く、投資判断の重要な指標となっています。
CAPMを実務で活かす方法 - 理論を実践に活用するポイント
CAPMは理論的なモデルですが、実際のビジネスシーンでも幅広く活用されています。
①投資ポートフォリオの構築と評価
個人投資家や資産運用会社は、CAPMを使って効率的なポートフォリオを構築します。異なるベータ値を持つ株式を組み合わせることで、目標とするリスクとリターンのバランスを実現できるのです。
たとえば、安定的な運用を目指す場合はベータの小さい株式を中心に、積極的な運用を目指す場合はベータの大きい株式を多く組み入れるといった戦略が考えられます。また、ポートフォリオ全体の期待リターンをCAPMで計算し、運用成果を評価する際の基準としても活用されています。
②企業の投資判断と資本コスト計算
企業の財務部門では、CAPMを使って自社の資本コストを計算し、新規投資プロジェクトの評価に活用しています。プロジェクトの期待リターンがCAPMで計算した必要リターンを上回る場合に、そのプロジェクトを実行するという判断基準を設けているのです。
特にM&A(企業買収)や大規模な設備投資の際には、CAPMによる評価は欠かせません。投資額に見合うリターンが期待できるかを客観的に判断できるため、経営陣の意思決定をサポートする重要なツールとなっています。
ただし、CAPMで計算される値は「期待」リターンであり、必ずその通りの結果が得られるわけではないという点は十分に理解しておく必要があります。市場環境の変化や個別企業の事情により、実際のリターンは大きく異なる可能性があるからです。