グロービスのアクセラレータープログラム、G-STARTUPの第3回から第5回までで最優秀賞を獲得した3名の起業家、そしてG-STARTUP事務局長の田村菜津紀の4名で鼎談を実施。プログラム期間中を振り返って得たものを振り返った前回に続き、今回はその後の事業成長について語り合いました。
起業家から経営者へと変わるなかで向き合うこと
田村: G-STARTUP(以下G-STA)を経て、その後、皆さん組織を大きく成長させてきていて素晴らしいですね。Resilireは去年総額約6.2億円の調達も行いましたが、新たに出てきた課題などはありますか。
株式会社Resilire(レジリア)代表取締役 津田裕大氏(以下敬称略):人数は増えましたが全員がしっかりとワークしている状態で、良い人を採用できていると思っています。また、チームワークという観点でも、それぞれ協力し合いながら一つ一つ課題を乗り越えている感覚があり、この組織ならやれるぞ!という強い組織効力感を持つことができていて、とても良い状態だと思っています。
一方、そのような状態を作れているのは、マネージャー・役員経験者等、成功体験を積んできて自走できる “マチュア”な人が多いからこそでもあります。属人性を如何に減らしていけるか、今の良い状態を人がもっと拡大しても維持できるようなカルチャーをどうつくっていくかが重要な課題だと考えています。
また、まだ役員が私のみで組織としての階層もほとんどない状態にありますので、マネジメント機能をどう委譲していくかという部分もあると思います。
田村:ビジネスがこれだけ大きくなる中、経営者としての成長もかなりのスピードで求められてきたと思います。何か参考になったアドバイスはありますか?
津田:先ほどの話につながりますが、採用に強くなったきっかけはG-STA中にあったんです。ひとつめはビジョナルの代表取締役社長である南(壮一郎)さんのセミナーを聞いたこと、そしてもうひとつがSTRIVEの根岸(奈津美)さんとお話したことです。
ビジョナルの南さんは「俺でもいまだに週7、週8は面談してる」と話されていて。言外に「お前はもっと会ってるのか?」と言われた気がしたんです。そしてSTRIVEの根岸さんからは、「愛を伝えるのが大事。例えば私でも0.1%はResilireに行く可能性はある。0.1%でも確率があるなら、好きだって言い続けたらいつか来てくれるかもしれない。しつこく言うのが大事だよ」と言われて。それから、毎日数人は面談して、いい人には「好き」と言い続ける、を遂行してきました。だからいまの組織を作れたんだと思います。
田村:私から見ていて、津田さんは初めてお会いした時から特に表情が変わったひとりだと思っているんです。そんな機会がG-STA中にあったんですね。
先ほどの組織としての価値観共有については、萩原さんも悩んでいる時期があって、一度話したことがありましたよね。最近はどうですか?
株式会社any style 代表取締役 萩原 湧人氏(以下敬称略):ミッション、ビジョン、バリュー(MVV)の策定を含めた言語化は、今の段階ではまだしないでおきたいと考えています。というのも、この段階で決めてしまったら、変化を起こしにくくなってしまう。まだ常にもっと良いものが見つかってしまう段階で、自分自身が朝令暮改しちゃうんです。幸いいまは帰属意識の高いメンバーが集まっているので、それでも問題なくついてきてくれていますが……
同時に思うのが、いまの自分のことを2年後、3年後の自分が見たら絶対未熟だと思うはず。ここで決めたことを定数にしたくない。最近もフルタイムの正社員が増えてきて、起業というよりは経営しなきゃ、という意識が芽生えはじめているのですが、今後さらなる成長をして、PMFしてあとはグロースするだけになったときに、その時のメンバーの最大公約数を言語化したいと思っています。
田村:それが萩原さんの、悩みながらも作られてきた経営スタイルだと感じます。
「やるならユニコーン」そのためには?
田村: スタートアップにとって大きな課題になるのが、事業の方向転換や路線変更=ピボットです。any styleはG-STAの後もピボットを経験していますね。
萩原:G-STAでもよく出るワードですが、「やるならユニコーン企業」とずっと思っていました。では時価総額1千億円になる事業とは何か?と考えると、全て決めるのは市場選定です。てっぺんまで登っても小さい山では届かない。となると、もともとのビジネスで狙っていた市場では山が低いという結論になったんです。
そこでG-STAではメンターだった都さん(当時Z Venture Capital:都 虎吉氏)と毎週話して戦略を練って、ピボット前提として「デカいことを言おう」と最終のDemo Dayに臨みました。そして今野さんに、「これからはエンタメが来る」、と予言されて優勝させてもらった。それが2022年の3月だったのですが、その後3か月後にANYCOLORが上場してユニコーンになったんですよね。そうしてやっぱりそうだ、もうエンタメに突っ込もう!と、VTuber関連にシフトしていきました。
田村:IssueHuntはBtoC寄りだったところから、ピボットして完全BtoBになりましたね。この過程の中で変化はありましたか。
IssueHunt代表取締役 横溝 一将氏(以下敬称略):もともと、もの作りが得意なチームだったのですが、完全BtoBになることで営業の重要性が高まり、そこへの適応は必要でした。僕のロールも完全に営業に振り切りましたし、営業メンバーも採用し始めました。
田村:営業の強化もあって、G-STA参加当時は顧客が3社だったところから、名だたるエンタープライズ企業に採用され、業界でトップになっている。海外では先行している企業があるものの、国内ではマーケットを開拓していく必要もある中で、当時チャレンジングだったことや、取り組みの中での学びを教えてください。
横溝:バグバウンディという事業領域は国内におけるセキュリティ領域の中では新しい分野で、確かに完全な競合は当時も今もあまりいません。だからこそ、全方位外交をやりながら、いろいろなベンダーさんと協力関係を構築することは意識しています。敵は作らず仲間を増やす、という感じでしょうか。
また、コミュニティをしっかり作ることも工夫している点です。まだ日本に根付いていない概念だからこそ、一社でそれを広げるのではなく、お客様も巻き込みながら市場を作っていくことを意識しています。
視座が高まれば、目の前の課題もちっぽけに思えるはず
田村:最後に、今後の展望やその中で意識していることを教えてください。
横溝:さっさと兆円規模の挑戦がしたいです。そのためには、やはり人が全てなので採用が課題だと思っています。また事業柄、成長の中でイビル(evil)にならないことは気をつけたほうが良いなと思っています。セキュリティという領域に取り組むからこそ、正しいことに僕らの会社や世の中の資産を使わないといかんな、とは思っていますね。
田村:萩原さんはグローバル展開への想いをよくお話しされていますね、そのための一手としてやりたいことはありますか?
萩原:今の事業モデルは基本的にライバー事務所モデルを取りつつ、VTuberにとって活動のインフラとなるプロダクトも提供しています。国内でANYCOLOR、カバーがユニコーンになり、そこでそれによって個人系のVTuberも増えてきているので、彼らを囲っていく。同じことがUS、チャイナ、ヨーロッパで起きているので、全てそのまま海外展開できるんです。アメリカだからといって例えばスパイダーマンのようなキャラクターが求められるのではなく、ローカライズ不要で日本の美少女キャラクターをそのまま持っていけるのもこの領域のポイントです。国内で成功すればグローバルでも再現性もって成功できるはず。そんなストーリーでやっています。
取り急ぎは国内で足元を固めていきますが、海外企業のインバウントにまつわる案件や、逆に日本の企業のアウトバウンドでやりたいときに介在できるよう、海外VTuberを通じてネットワークを作っていく方向があると思います。そのためにはやっぱり大きく調達もしていきたいですし、将来的には海外拠点を作って移住したいなとも思っていますね。悔しいんですよね、日本の市場だけでおさまると思うと。
田村:私も先月、月の半分ぐらいサンフランシスコにいたのですが、みなさんにあの場所でもぜひトライしてほしいなと思いましたし、できると思いました。G-STAとしても機会は作っていきたいですね。
津田:うちもさっさと1兆行きたいんですけど(一同笑)、目下は業界を代表するような製造企業に導入して、企業とともに取引先の企業をどんどん巻き込み、見えなかったサプライチェーンデータを透明化していきたいと思っています。
特に日本の製造業では、サプライチェーンの情報はなかなか出したがらない。しかしさまざまなリスクがある中で、そういう情報を隠すのはやめて、Resilireが繋いでいくことで製造業のサプライチェーン全体としてのレジリエンスを実現していく方向に導いていければと思います。
田村:ここまで貴重なお話を伺ってきました。最後に、G-STAへの参加を検討する起業家たちへメッセージをお願いします。
横溝:悩んだら応募したらいいと思います。特に立ち上げ期であれば、デメリットは全くないはず。とりあえず入ってみて、悩んだら田村さんたちが寄り添って何とかしてくれるので (笑)どんどん活用してみればいいと思います。
萩原:さっきもお話したんですが、自分は当たり前のように「ユニコーン」という単語を使うんです。でもCOOから以前指摘されたのですが、どうやら普通はそういうことを言わないらしくて。横溝さんが「1兆でしょ」って横で言ってるのをいいじゃんって思うんですけど、普通はまず横にこういうことを言う人がいないんですよね。
その点、G-STAが繰り返し繰り返し「ユニコーン」と言っているのは良いことだなと思っています。
津田:視座を上げてもらえるのはまさに。目の前のことだけを考えていると、どうこのアイディアがお客さんに使われるのかで頭がいっぱいになってしまうのですが、ユニコーンを目指すんだっていう気概を作っていくと、目の前の課題もちっぽけに思えたりとかもしてくるはずですよね。
萩原:いい意味で感化されるはずだから、その環境に身を置けるのはすごく良いことだと思います。
田村:皆さん会うたびにそれぞれ爆速で成長されていて、いつも感動しながらお話を伺っています。
アクセラレーターやシードVCという存在が国内でもだいぶコモディティ化してきた中で、改めてG-STARTUPはスタートアップエコシステムの中心地として、スタートアップ・起業家が本当に必要とするナレッジやネットワークを提供できるような存在でありたい。これからも皆さんのような起業家が集まってきて、互いに切磋琢磨できる場作りをし続けていきたいと思います。
巨大なマーケットに挑もうという起業家同士がコミュニティの中でつながり、互いに視座を高めあう存在になることも、G-STARTUPとして作っていきたい機会なので、今日の場も良いきっかけになればと思います。本日はありがとうございました。
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