スワローズとともに絶好調のミルミル
ミルミルは1978年から27年の間、販売されていたが2005年に発売を終了。後継商品「ビフィーネM」に引き継がれていた。そのビフィーネMを2月末で販売終了させ、ミルミルを再投入してきたわけだ。
野球好きの方なら、東京ヤクルトスワローズの選手たちが使用しているヘルメットやユニホームに、「ミルミル」と掲出されているのをご覧になったかもしれない。開幕ダッシュに成功したスワローズと歩を合わせるように、ミルミルもすこぶる調子は良いようで、4月2日付日経MJによると、飲料カテゴリーで2週連続に渡って、首位を獲得している。
ミルミルはヤクルトがビフィズス菌を発酵させた世界初の商品として登場した経緯がある。今日ではポピュラーになったビフィズス菌飲料の元祖なのだ。ビフィズス菌を摂ることは、整腸作用と健康維持に欠かせないといい、さらにそれを生きたまま腸に届けるのがポイントらしい。
さて、この「生きたまま腸に届く」というフレーズ、最近よく耳にしないだろうか。実は最近都内各所でキッコーマンが「YU株」なる乳酸菌を生きたまま腸に届けるというヨーグルトをサンプリングしている。明治乳業も「特別な乳酸菌」としてLG21で攻勢をかけている。小田和正がCMで「今日もどこかで」を切々と歌う。なんだかカラダの調子がよくなる希望が見えてきそうな気がしてくる。ヤクルトはというと、「ヤクルト」もしくは「ヤクルト400」で「シロタ株」なる菌を届けることに注力している。俳優・渡辺謙がCM「腸を鍛える編」で「私は乳酸菌シロタ株で、毎日腸をトレーニングしています」といって飲んでいる。
しかし、こんな混戦状態では何を摂って、腸に何菌を届ければいいのかわからなくなってくるのが正直なところだ。自分の腸は1本しかないのに。
ミルミルが狙う腸は誰の腸?
そこで、世界初のビフィズス菌飲料「ミルミル」の知名度が効いてくる。販売終了5年経っても、依然高い支持があったとヤクルトのニュースリリースは伝えている。「ヤクルト」は「シロタ株」。「ミルミル」は「ビフィズス菌」。どちらも必須だという。なかでも、ビフィズス菌は、生後間もない乳児期に大腸内のほとんどを占めるまでに一気に増え、有害菌等から赤ちゃんの体を守ってくれますが、その後、加齢やストレス、食生活の変化により大きく減少してしまいます(同社ニュースリリース)という。
実はここがリニューアルに際しての、一つ目の「引き算」だ。旧ミルミルは「家族みんなで飲む」という訴求をしていたが、何故かメインは子どもに置かれていたような訴求をしている。1980年のCMを見ると、明らかに表現が幼児向けだ。その後、1980年代はタレントの故・清水由貴子が肝っ玉母さんを演じるシリーズCMのなかで、家族が各種ヤクルト製品を飲む姿が描かれているが、ミルミルは大人も子どもも飲んでいる。
少子化で子どもは減る。競合も大人向けの製品を続々投入している。そうしたマクロ環境、競合環境に応じて、「ミルミル再投入」において、バッサリと子どもをターゲットから削って「大人のための」というポジショニングを明確化したのだ。
ターゲットとポジショニングが絞れると、製品特性も明確化できる。成分表示を見ると、ビフィーネMに投入されていた「DHA含有魚油」「リン酸Ca」「ラクトフェリン」などが姿を消している。すっかりポピュラーになって、他の商品でも摂れるDHAなどはあえて「引き算」して、ビフィズス菌に特化しているのだ。砂糖も引き算だ。甘味料のパラチノースを使用している。大人が気になるカロリー対策だろう。
ターゲティング絞りきるのが怖くてつい、幅広にしてどっちつかずになる。製品にもあれこれと投入してしまう。しかし、そんなエッジの立っていない戦い方で生き残れるほど昨今の環境は甘くはない。ヤクルトはミルミルブランドの復活を「大人の腸」に賭け、日経新聞に広告を出したのである。その「引き算」の戦略には学ぶべき所があるだろう。