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子供たちはスーパーカーに乗る夢を見るか?!

投稿日:2009/10/30更新日:2019/04/09

若年層の車離れを止めろ

「開発目標は、ドリフト性能世界一です」

そんな開発リーダーのコメントが報じられた、コンセプトカーとして東京モーターショーに出展中のトヨタ「FT-86Concept」。そこには、どんな狙いが隠されているのだろうか。

日経トレンディネットに『トヨタ「FT-86Concept」、新ハチロクの開発目標はドリフト性能世界一』と題したレポートが掲載された。

「FT-86」に付けられた「ハチロク」はトヨタが1983年に発売したスポーツカー「カローラレビン」「スプリンタートレノ」の車両型式番号「AE86」が原型だ。大ヒットマンガ『頭文字D』(講談社)の中でドリフト走行のテクニックがピカイチの主人公が乗る無敵のクルマでもある。

うーん、ハチロクで「ドリフト性能世界一」とはまさにマンガの世界……と思うと同時に、「誰がターゲットなの?」とも思った。開発リーダーのコメントは続く。

「ゴルフのスコアで100を切れるくらいの運動能力がある人ならドリフトが決められる、そんなクルマを目指しているんですよ」

ゴルフのスコアで100……やっぱりオジサン、往年のファンがターゲットであるようだ。その狙いを開発者はズバリ語っている。

メインターゲットは40〜50代の男性。つまり80年代の若いころに、かつての「ハチロク」に乗っていた、あるいは憧れていた人々だ。「目指すのは、オヤジがカッコよく見えるクルマ。運転するお父さんを見て、息子が自分も乗ってみたい、運転したいという憧れや夢を抱くクルマにしたい」

「若者のクルマ離れ」といわれて久しい。若年層の就業環境や収入の問題も大きな要因であるため一概には言えないが、若年層の興味・関心がクルマから他のことに移行しているという。

しかし、既に興味・関心を失っている層に「クルマはステキだ!クルマは素晴らしい!」と言っても耳を貸してもらえるものではない。例えば、「陶芸」に興味がない人にその美しさや文化的な意義を説いても無駄なのと同じだ。

ゆえに、「将を射んとせばまず馬を射よ」。まず、脈のあるオジサンを取り込んで、一子相伝でその魅力を教え込ませようという戦法なのだ。開発者の願いは、オジサンたちの楽しそうな姿から、若い人にも関心が広がってほしいと考えているということである。

世界的に見れば、新興国の需要は活発化している。インドや中国といった経済発展の著しい国々だけでなく、さらに後発のインドネシアでも二輪車の生産が急増しているらしい。この先、さらに需要が高まる新興国も控えていることを意味している。しかし、そこで求められているのは、低廉で利益率の決して高くないクルマである。

国内を見渡せば、少子化によって、マーケット縮小はいかんともしがたい。しかし、それよりも急速な若年層の「クルマ離れ」によるマーケットの縮小は何としても避けたいところだろう。ましてや、業界最多のシェアを持つリーダー企業は、その流れを食い止める必要、いや責任がある。

さてあなたがマーケティングの責任者だったらどうするか。若者の意識まで一企業が変えられるのか。ファストファッションに身を包み、「身の丈消費」を心得ている、子供たちの心を動かせるのか。

トヨタは「若年層の親狙い」よりも、さらに壮大な戦略も展開している。

メッセンジャーとしてのスーパーカー

再び日経トレンディネットの記事「レクサスLFA開発者に聞く、3750万円のスーパーカー誕生のワケ」を見てみよう。

3750万円といえば、フェラーリのトップクラスとも比肩する価格であり、超富裕層ターゲット向けのクルマである。しかし、限定500台、採算度外視で作られたこのクルマの狙いはそこだけではない。

LFAの使命は、クルマがもたらす官能・感動の領域を極限まで追求して、レクサスのブランドイメージのさらなる浸透を図ることという、トヨタの旗艦ブランドへの貢献もさることながら、そして未来を担う子供たちに、クルマの素晴らしさを伝えるメッセンジャーとなってほしいという意図も込めているのだ。

若き日に前出の「ハチロク」に乗ったり、あこがれたりしたオジサンたちは、もっと小さかった頃にはキラ星のごとき「スーパーカー」にドキドキしていた。そのドキドキを今の子供たちにも伝えようというメーカーとしての夢と意志が込められている。

トヨタは、ハイブリッドや電気自動車、エコカーの開発と同時に、こうしたガソリンエンジンのスポーツカーも開発するという、全方位型の展開をする。それは自動車業界のリーダー企業ならではの戦い方だ。

体力に劣るチャレンジャー企業であるホンダは、フラッグシップスポーツ「NSX」後継車の開発を既に中止している。しかし、「次世代にクルマの魅力を伝えたい」という熱い想いは同じだ。集中戦略に徹し、ハイブリッドの上で結晶化させた。

日経トレンディのレポート『ホンダ「CR-ZCONCEPT2009」、ほぼそのままの形で来年2月市販化』を見てみよう。

ホンダは「ハイブリッドスポーツ」というコンセプトを世に問うている。正直言って、カッコイイ。記事によると、展示ブースの上に、「コンセプトカーのデザインのまま、世に出せないか。」という挑戦的なコピー掲げられているが、これがこのまま街を走り回ったらさぞやドキドキするだろう。

同社のデザイン担当者はハイブリッドスポーツの使命を語る。

「次世代につながるスポーツカー像や、その楽しみを提案していくのが目的です。今のままでは、スポーツカーというジャンルが世の中から取り残されて、一部のマニアしか目を向けなくなってしまう。子どもができてミニバンに乗る前に、一般の人たちもこういったクルマを楽しんで欲しい、そのためのCR-Zです」

出展社数大幅減、外国勢参加は3社のみで、開催期間も短縮と、どこか寂しさだが感じられる今年の東京モーターショー。今年から、小学生以下だけでなく、中学生も無料にした。月〜木曜日は小中学校の特別見学日とし、昼食スペースも確保するという。

大人たちがこぞって演出する「車に憧れましょう」キャンペーン。その成否が分かるのは、5年、10年後かもしれない。子供たちはスーパーカーを前に、どんな表情を見せるのだろうか。一人の車好きとして、メーカーからの熱い想いが、伝わることを願ってやまない。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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