コロナ禍で生まれた新たな挑戦~革新の連続が、やがて伝統になる~江崎貴久×大樋年雄×徳岡邦夫×樋口宏江×大島千世子

本記事は、G1中部2020「中部地方が誇る食と美 ~伝統を守り革新を起こす~」の内容を書き起こしたものです。(全2回 後編)

大島千世子氏(以下、敬称略):ここからは、この半年間におけるコロナ禍の影響や、そこで皆さんがどんなことを感じていらしたのかという点を伺ってみたいと思います。

コロナ禍で行なった働き方、意識改革

大樋年雄氏(以下、敬称略):3密という言葉が出てきた瞬間、私は「あぁ」と思ったことがあります。小間の茶室にたくさんの人が座って、お濃茶を回して飲む。これはもう、確実に「コロナになりましょう」というようなものですよね。それが日本では究極の茶会なわけですから、「これはどうしたものかな」と。そう思っていたら、やはり三千家すべてがお茶会を中止しました。世の中の流れとして「大丈夫」という状態になるまで中止という指示が出て以来、いまだに大きな茶会は開かれていません。

では、昔からそんな風にしていたのかというと、実際、疫病が流行った時期は「各服」といって、皆が距離を取ったうえで、それぞれ一碗でお濃茶を飲んでいました。そんな歴史があります。それで家元のほうも、「では、今の時代に合ったお手前を考えよう」と。そんな風にして、400年にわたる歴史のなかで改革があったわけですね。

それで僕も8月に、何度か家元の方々に呼ばれて打ち合わせをしてきました。そうして家元のお気持ちを伺って、「それであれば、一人一碗で、それでいて今まで皆が回して飲んでいたような気持ちになれる茶碗をつくりましょう」と。そんな風にして、むしろ新しいアイテムが生まれていきました。それを裏千家に披露したりするということにもつながっています。ですから、決して否定的な話ばかりではないのですね。危機を乗り切るときには新しいアイディアが生まれるし、それを昔のこととうまく融合させながら進めるといった形が、今はできあがってきています。

徳岡邦夫氏(以下、敬称略):変化や気づいたことという意味で申し上げると、コロナ禍で効率的になりましたね。効率的という表現は少しおかしいかもしれませんが、とにかく固定費を圧縮しなければいけない。いつまで続くか分からない状況ですし、借入ばかりでどんどん垂れ流していると長続きしませんから。それで、たとえば1日単位の生産にしていくわけです。予約制にして、その予約に見合うよう、「スタッフは何人に、誰々にしていこう」ですとか。食材と献立についても同様です。今までは月単位でやっていましたが、1日単位で毎日考えるようになりました。で、それを役員も含めて全店舗が報告していく。「こういうお客様がいらして、こういう風にしました」という日報は、それまでもメールやラインで毎日伝えていましたが、そこにプラスアルファして、1日あたりの利益を共有していくようなやり方に変えていきました。

とにかく、コロナ禍となった最初の5月の段階で、僕はスタッフ全員に「誰も辞めさせないし、給料も減らさない方針でいきたい」という話をしました。その辺の気持ちを受け取ってくれたスタッフに頑張っていただいたからこその変化ですね。そんな風にして効率化し働き方、意識改革をしたことで、我々は6月頃から黒字転換していきました。ただ、大変な業態の店もあるだろうなと思います。そこで我々として何かできることはないのかもしれませんが、そういう部分についても今後は皆で考えていくことが必要だと思っています。

そんなことを考えつつ、これまでも続けてきた地域活性化の取り組みという流れのなかで、今は宅配料理のようなこともはじめました。地域活性化というと6次産品になります。食材をそのまま売るのではなく、たとえばそこに京都吉兆のノウハウを入れて付加価値を乗せた6次産品を提供していく。ただ、そういうことを地域や自治体と進める場合、予算の都合で進めにくいこともあります。

私たちはそういう取り組みを1995年頃からはじめていたのですが、5年ほど前からは、色んな企業にも協力してもらっています。先日9月1日には江崎グリコさんとのコラボ商品も発売しました。コンビニでも売っている『アイスの実』という商品はご存知ですか? あれ、今までは果物のフレーバーが中心だったのですが、野菜バージョンで香料、着色料、人工甘味料不使用の『アイスの実』をつくりました。あるとき、G1メンバーでもある江崎(悦朗氏:同社代表取締役)さんにそういう話をしたら、「面白いね」ということで、次の週ぐらいには担当役員の方から工場長の方から、10人ほど京都吉兆にいらして(笑)。それでスタートしたのが3年前です。

当初は、「無添加ではできません」と言われていたんです。でも、私たちのほうでそれをつくって、実際に食べてみてもらったりしながら、いろいろとやりとりを重ねて商品化していきました。それで3年かかりましたが、今年9月1日に限定60万食で全国発売した結果、店頭へ行ってもすぐに売切れという状況でした。

大島:コロナ禍の前から考えていたことが、ちょうど今のタイミングで結実したという形ですか?

徳岡:そうですね。ですから「コロナ禍だから」という話でもないのですが、そうしたアプローチも含めて、コロナ禍での判断というものが早くなっているのはたしかです。

コロナで「ほたる」が減っていく? さまざまな形で現れる影響

樋口宏江氏(以下、敬称略):天然の産物が多い三重県ですが、やはりコロナ渦によって養殖のお魚ですとか、野菜やお米も含めて輸出できなくなったりしていました。オリンピックを控えてたくさん生産していたにも関わらず、出荷できなくなったという状況もあります。ですから、そうした産品を私たちとしては積極的に使わせていただいています。そのうえで、先ほどのお話にもありました通り、今は自粛ということでご自宅にいらっしゃる時間も長いので、おうちでも召し上がっていただけるようなものも開発してお届けしています。

大島:そうした取り組みによって、たとえば新しいお客さまですとか、今までいらしたことのない方にお料理を提供できたりしているような状況なのですか?

樋口:そうですね。ホテルの味をおうちで召し上がっていただけるようなメニューにしましたので。今まではホテル内のお料理を考えるのがお仕事でしたけれども、それ以外の部分でも新しい挑戦がはじまっているという感覚です。

江崎貴久氏(以下、敬称略):コロナ禍は春頃からはじまったわけですが、この辺の地域では、まだ4月は伊勢海老漁が行われていたんです。その伊勢海老が急に売れなくなってしまった。そのときはSNS等で観光のお話も含めて発信していったりして、売れたのは売れましたが、やはりすごく安価だったからという部分があって。キロ2,000円ほどで売っていたので、それは買っていただけますよね。その後、鳥羽では9月16日に伊勢海老漁の解禁、というか試験曳きがはじまって、三重全体では10月1日に解禁となります。そこでまた同じようなことになるのかどうか分かりませんが、「“安くしてでも捌く”ということを何回も続けるのが、本当に良いことなのか」というのは、よく考えたりしています。

結局、そんな風に伊勢海老が安くなったので、たとえば海女漁のほうも、アワビ自体が減っている状況ですし、「安く売れてしまうなら採らないほうがいいよね」ということで調整されたりもしていました。そのあたり、やはり天然資源を扱っているので敏感に調整することも必要なのかなと思います。ただ、その場合はやはり収入が減ってしまうこともあるので、どうやって皆でそこを補填していくのか。そういう部分まで考えると、とにかく、「より良いものを、きちんと価値の分かる方に買っていただける努力をする」という話に尽きるのかなというのが、今はひとつ考えていることです。

それともうひとつ。私としてはすごくショックだったことがあります。私たちは毎年6月から7月頃、ほたるを皆さんに見ていただくツアーを実施しているのですね。ところが今年、ほたるが現れる筈の場所に行ってみると、去年まであった田んぼがなくなっていました。というのも、例年はGW頃に皆さんが都会から田舎が帰ってきて、このあたりの田んぼで作業のお手伝いをしてくださるんです。でも、今年はコロナ禍で手伝いに帰れない方が多く、無農薬等でやっていた田んぼで作物がつくれなくなってしまっていました。それで、今までほたるが飛んでいた田んぼも、半分ぐらいになってしまったところがあります。今年は去年の残りのほたるが飛んでいますが、「来年はもっと少なくなるんだろうな」と。こういうところにも影響が現れるのだと思いました。

若い方々に、もっと「食」と向き合う工芸を

大島:ありがとうございます。会場とのやりとりへ移る前にもうひとつ、皆さまが今後やってみたいと考えていること、または今興味があることも伺ってみたいと思います。

江崎:私はコロナ禍で人と会えなかったり話せなかったりしたことがすごく寂しかったので、なんとか人とつながる努力をしていきたいと思っています。そのなかで、たとえばエコツアーも含めて、バーチャルまで活用した“非接触の触れ合い”のような機会をつくっていけたらと考えていますね。

大樋:ソーシャルディスタンスという言葉は、英語圏の人からするとおかしいそうですね。‘ing’を付けなければおかしいという指摘を先日受けたことがあります。いずれにしても、僕らはコロナのことを少し考え過ぎて、人と人との距離についても、建築のなかでの距離を含めて、もしかしたら取り過ぎてしまっているのかもしれません。でも、そのままの状態で建築物等を設計してしまうと、5年後や10年後、“空き”だらけの変な空間が生まれてしまっていたりするのではないかな、ということを考えています。

今、工芸の世界では皆、どんどん現代アートのほうに寄っているんですね。それ自体はいいのですが、僕のほうはその動きを少し戻したうえで、食と関わって真剣に「器」をつくっていく方向も広げたいと思っています。現代アートに走ればマスコミも注目するし、ギャラリーも注目するので、若い人たちがそちらの方向へ行ってしまうのですね。それで、食器をつくっているとバカにされるような風潮でもあるので、そこでもう少し、たとえば徳岡さんですとか、料理人の方々ともつながっていって欲しい、と。そのうえで、どうすれば衣食住すべてにおいて完璧におもてなしができるか。そういう点で世の中を少し変えていきたいと考えています。ただ、それは僕ひとりではできないので、皆を巻き込んでいきたい。

徳岡:僕も今のお話に賛成です。自分たちだけでできることに加えて、海外の方も含めて、いろいろな地域の方々と一緒に何かやっていきたい。今後はそうした動きがどんどん深まっていくのだろうなと思います。その流れのひとつとして、うちでは今江崎グリコさんとつくったアイスがかなり売れているので、それを通年商品にしたいと私は思っています。『アイスの実』のような量産のお菓子として、今まで自然由来の食材だけでつくっている商品はなかったので。それを今回、江崎グリコさんとのコラボで、うちのノウハウをご提供しながら達成できた。世界の親御さんたちが「自分の子どもに食べさせたい」と感じるようなお菓子になったと思います。コロナ危機だからというわけではないですが、今後もそういった切り口でいろいろなものをつなぎながら、多くの人の役に立つものをつくりたいと思っています。

樋口:コロナによる休業が明けてから、私どものホテルは本当にたくさんのお客様にお越しいただけるようになりました。人と人とのつながりを求めてホテルにお越しいただいているということが、従業員一同、本当によく分かりました。そしてお客様と従業員に加えて、ものをつくっていらっしゃる方々とのつながりも大事にしていきたい。(物理的な)距離を取りながらでも、やはり人と人とはつながっていないと、生活していくうえで心が寂しくなりますので。たくさんのお客様にお越しいただけるよう、今まで通り、お迎えできればと思っています。

大島:では、会場の皆さまからご質問をいただきたいと思います。

会場質問者A:今後、コロナによって「美」やファッションの世界はどのように変化していくとお考えでしょうか。あるいは、「こんな風になればいいな」といったお考えがあれば伺いたいと思っています。

会場質問者B:コロナ禍を通じて、今後は若い人々に伝統をきちんと知ってもらうための工夫も大切になると感じています。そうした点で、何かアイディアやお考えが何かあれば教えてください。

「温故知新」でなく「温新知故(おんしんちこ)」。その心は?

大樋:たとえば全日空は今、機内アナウンスを歌舞伎俳優の方の声で流していますが、本当に面白いですよね。海外の方々に、「日本というのは古いものを今こんな風にアレンジしているのか」と思わせるような、面白い日本の魅せ方をしていると思います。そのうえで、伝統について申し上げると、いつも同様にご質問をいただくのですが、今やっていることも明日になればそれは伝統になりますよね。そのうえで、明日「やりたい」と思っていることを常に持っていなければ、昨日のコピーになってしまう。

一方で、今の若い人たちに「伝統や工芸って何?」と質問するとどうなるか。アメリカの若者も‘Craft’という言葉についてほとんど同じ答えを返すのですが、「辛い」とか「白黒」とか「忍耐」とか、悪い表現しか出てこないんです。ですから、僕は「温新知故(おんしんちこ)」という言葉を造りました。もともとの「温故知新」という言葉は、「古いものを積み重ねていくことで初めて新しいことができる」といった意味ですが、その逆で「温新知故」。どういうことかというと、今の人たちは新しいことをやりたいわけですね。でも、やってみると、「君のやっていることは浅いよ」という話になる。そこで、「どうすればそれを深めることができるか」という課題を出すと、彼らは必ず古典を見るようになります。美術館を歩いていても、何をしていても、たとえばお年寄りが持つ“業(わざ)”のような部分に興味を向けるようになったりする。

ですから、それを止めてはいけないのだと思います。「苦しい」「嫌だ」と思うようなことについて、「そうじゃないんだよ?」と思わせる努力は、今実際にやっている人たちが発信しないといけない。そうでない限り、若い人たちもやる気にならないだろうと思います。

それから、ファッションについて申し上げると、僕は衣食住すべてをファッションに例えたらいいのかなと思っています。和食であれば、お料理だけではなく、そこで使われている器とか、運んでくる女性の着物とか振る舞いとか、そうしたものがすべてファッションになりますよね。一部だけを見ると工芸や着物や料理なのですが、それぞれの立ち位置から見ていくとファッションになる。和食は世界遺産になりましたが、あれも着物からすべて入っているというのが、おそらく国の見解だと思います。

「美の根源は驚きである」(高橋忠之)

会場質問者C:伝統を守ろうという意識と、新しいものを造りだそうという意識、皆さまはどちらに重点を置いていらっしゃいますか?

樋口:私どものホテルは来年70周年を迎えます。そこで、伝統的なお料理はたくさんありますから、それを守っていくことも不可欠ですが、新しいお料理に挑戦することも大切だと考えています。先ほど大樋さんからもご紹介がありました先々代の高橋忠之さんは、「フランス料理をつくるということは、進化を続け、新しいことに挑戦し続けていくこと」とおっしゃっていました。その積み重ねがあって、それが伝統や歴史になっていくのではないかと考えています。ですから、私もそうした思いを持ち続けて新しいことに挑戦し続けていきたいと思っています。

徳岡:伝統と革新の両方が必要なのだと思います。今のお話にもあった通り、1日1日積み重ねていくうち、それが伝統になる。新しいものをつくり出していくことが、新しい伝統につながるのだと思います。ただ、その核心の部分は、時代や環境によって伝え方が異なるだけで、おそらく一緒なのだと思うのですね。ですから、その根本は何かというのを私たちは探っていくべきなのだろう、と。昔の表現の仕方、積み重ねの仕方をそのまま現代に置き換えても、おそらく響かないというか、伝わらないと思います。海外の方々や国内の若い世代にも良いと思ってはもらえない。ですから、そうした方々にも伝わるような表現の仕方に変えるべきなのだろうなと考えています。

大樋:伝統というお話にひとつ付け加えさせてください。今の若い人たちにとって、知らなければそれは伝統でなく新しいことだし、それは外国の方にとっても同じ。僕らが伝統だと言っている日本の文化も、見たことがない人にとってはとても新鮮で新しいものなのですね。ですから、頭を抱えて「伝統だ。やりようがない」という風に考えるべきではないと思います。外の人たちから見れば、本当はバラエティに富んだものなので。伝統に生きている人にとっては、そんな見方がすごく大事になると思います。

会場質問者D:現在のような緊急事態のもと、人は「美しさ」というものを一層強く求めていくようになると感じています。皆さまにとって、「美」とはどんなものになりますか?

江崎:たとえば自然のなかで頑張っている姿ですとか、なにかこう、強さが感じられたときですね。儚いなかに強さがあるものを目にすると、私は「美しいな」と感じます。

大樋:人が苦しんでいるときや悩んでいるとき、あるいは辛いと感じているとき、助けてくれることだと思います。

徳岡:内側に人の「思い」ですとか、そういうものを見出したときに「美」を感じます。

樋口:高橋さんの言葉のなかに、「美の根源は驚きである」というものがありました。その言葉を私は今もずっと胸に抱いています。

大島:ありがとうございます。最後のご質問で皆さんの“軸”のような部分を少し見ることができたような気がして、とても嬉しく感じます。かなり広いテーマだったので、皆さんのお話をまとめるというわけでもないのですが、パネリストの方々がどういったことを感じながら日々活動しているのかを、本セッションで感じ取っていただけていたらと嬉しいと思います。そしてそれを、会場の皆さま自身が今後、伝統を守り、革新を起こすうえでの参考にしていただければと思いました。本日はありがとうございます(会場拍手)。

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