コロナ禍で内定者/新人育成に不安を抱く企業が増える一方、変化のスピードが加速し、若手に求められる能力のレベルは一気に高まりつつある。そのような変化の激しい中で、自分で考えて動く自律型人材を育成するために、絶対不可欠となるのはどんな学びなのか。学習サービス「グロービス学び放題 フレッシャーズ」の事業責任者を務める寺内健朗に聞いた。
「新しいアイデア」「ビジネス化する力」若手の活躍に対する期待
―若手と企業を取り巻く状況はどのように変化していますか。
寺内:世界の潮流を見れば、ビジネスは複雑化し、変化のスピードは加速しています。個人の価値観やニーズも多様化している。かたや日本の潮流に目を向けると、少子高齢化が深刻になり、ベテラン層が退職し若手人材の確保も難しい。つまり、ビジネスが難しくなっているのに企業を支える人材は減り続けている。今の若手にはかつてなかったほど活躍が期待されています。
-何が若手に求められているのでしょう。
寺内:企業は、若手に対してデジタルネイティブならではの価値を創出してほしいと願っています。「事業やサービスのオンライン化」「SNSを活用したマーケティング」「スマホ時代の新たなビジネスプラン」など。もちろんアイデアも重要ですが、それをビジネス化できないと困る。
そのため、「自分の頭で具体的に物事を考えられる」論理的思考力と「それを実際に行動できる」自律性の両面が重視されます。これらはコロナ以前から重要な要素でしたが、コロナショックでテレワークが広まったことから、ますます重要になっています。
加えて、コミュニケーション力です。コロナショックで、「まだオフィスに出社したことがない」「上司と直接対面で会ったことがない」といった状態で仕事を開始しなければならなくなった。互いの関係性が薄い状態で、上司が自分に何を求めているか把握し、わからない点は周りに確認し、自分の成果を上司に伝えなければなりません。今求められるコミュニケーション力は、従来の協調性という意味合いだけでなく、周囲と的確にやりとりができるという意味合いが強くなっています。
―それは新人でなくても難しい状況ですね。企業はどのような変化を?
寺内:企業側は若手に対して期待する一方、不安もこれまで以上に大きくなっていると感じます。Z世代やポスト・ミレニアルと言われる若手は、自分の価値観を大切にし、場合によっては早期離職の懸念がある。コロナショックで従来のような新人研修ができないなかで自社への愛着をどう形成するかは企業の大きな課題です。また、マネジメント側もオンラインでのマネジメント経験がないため、上手くやれる人とそうでない人が浮き彫りになってしまいます。
減点主義から加点主義へ。コロナで変わる新人育成ルール
―今、どのような育成が求められていますか?
寺内:何より求められているのは人材の早期育成です。ビジネスが多様化しスピードが増している状況で若手が率先してビジネスを起こしていかなければなりません。必然的に若手に頑張ってもらうための早期育成が必要になってきます。
-直接会ったこともない新人たちをビジネスができるように育ていかなければならない。
寺内:これは協調性を重視する日本の文化的にもあまりやってこなかった難しい部分だと思います。育成する側は相手の能力を客観的に把握し、テレワークを通じて実施できる育成内容を考えなければなりません。さらに、従来の、例えば「名刺をきちんと渡せないと社会人として恥ずかしい」といった減点主義の育成は重視されなくなってくると思います。
これからの社会は、役割を自分で見つけ、成果を出し、それを上司に伝えなければ評価されない加点主義になってくると思います。成果を見える化しなければならないため、「何ができないか」よりも「何ができたか」に重きが置かれるようになります。
-何が加点の対象になると考えられますか。
寺内:1つは「新しいことに果敢に挑戦する力」です。今、企業はアフターコロナの新しい時代に合わせて自社の強みをどう捉えるのか、そして、それをどう活かすかが問われています。だからこそデジタルネイティブである若い世代のチャレンジに期待が集まっているのです。
もう1つは、社会人になったあとも学び続ける「自分を変化・成長させていく力」です。変化に適応することの重要性はますます高まっており「何を学ぶか」を適切に選べる人は、おのずと加点されることになります。
内定者/新人の場合は、自身の役割を正しく捉え、果敢に挑戦することが求められます。そのため、まずはビジネスの基礎知識や、ビジネスの全体領域を学んでいくことがこれからの加点につながります。「世の中の動きはこうなっている。我が社のビジネスはこのような構造だから、自分はこれをやろう」と自分の頭で考えられるようになってほしいです。
-昔なら中堅クラスに求められていたレベルでは。
寺内:たしかにそうです。団塊の世代が活躍した時代は、何をしたらいいかが明確で頑張った分だけ成果が出て報酬にもつながるというわかりやすい世界観でした。ところが今は何を頑張れば成果が出るかわかりにくい時代です。その分、内定者や新人のような若手時代から、最低限の知識としてビジネスの全体観などの地図を把握する必要があります。
若手もビジネスを幅広く学ぶ時代に
―若手がビジネスの地図を持つためには、どんな育成が必要になるのでしょう。
寺内:まず大切なのは、若手育成に対する企業の意識変化が必要です。若手に対して「まだ早い」と言わず、ビジネスについて幅広く学ばせるべきだと思います。
我々が提供する「グロービス学び放題 フレッシャーズ」では、会社ってなんだろうという基礎の基礎から始まり、論理思考、コミュニケーション、マーケティング、ビジネス定量分析、プレゼンテーション、アカウンティングといったビジネスの基礎知識となるヒト、モノ、カネを網羅しています。さらにリーダーシップ、ビジネスマナー、ビジネスマインドといったビジネスパーソンに求められる心構えや姿勢まで押さえた学習ツールです。ビジネスの全体感をつかみ、ビジネスパーソンとしての土台作りするためのサービスを、法人向け、内定者/新人を対象に提供しています。
同僚と一緒に学べるSNS機能もあり、学んだ内容について自分の意見を書いたり、質問をしたりすることができるので、内定期間中やリモートワーク中の学習や同期との関係づくりに役立ちます。
―コロナ禍のフレッシャーズに対する反応は?
寺内: 緊急事態宣言の影響で新人研修ができなくなった4月に無償提供を行いました。その結果、1000社以上4万人近いIDのお申込みをいただき、非常に大きな反響がありました。
ユーザーである内定者/新人のみなさんからは「わかっていないところがわかった」「社会に出るのが不安だったけれど、自信がついた」などの感想を多数いただきました。企業の担当者からは「リモートワークのなか、SNSで議論をしているのを見て安心した」「昨年度と新人から出る言葉が違う」「オンラインで学習させることのメリットも見えた」という声もいただいています。
― 頼もしいですね。今、内定者や新人といった若手に期待される力は、実はあらゆるビジネスパーソンに必要な能力だと改めて時代の変化を感じました。
寺内:そうですね。内定者/新人のみなさんにとっては大変な時代ではありますが、このピンチをチャンスに変えることが求められています。年上世代の私たちも彼・彼女らの手本となれるように学び続け、どんどん挑戦していきたいですね。