あなたが昔頑張れた理由は何ですか?
「なんであの時頑張れたのだろう」。そう思うことはありませんか。そしてその理由は「お金」でしょうか。それとも「役職」でしょうか。社員のモチベーションが上がらずにお困りの経営者やリーダーの方。ご自分が頑張れた時のことを思い出してみませんか。
「若手主任が店長になりたがらない風土をどう変える」
我々がお手伝いする組織改革プロジェクトでは、こんな議題も上がります。プロジェクトメンバーの店長たちを前に思うところのあった私は、極めてシンプルな質問を投げかけました。
「皆さん主任時代に『頑張れていた』理由は何ですか?」
「そりゃ給料ですよ」
「役職だよ」
そんな声が飛び交う中、じっと考え込んでいたA店長が絞るような声でつぶやきました。
「僕は、給料や役職じゃなかったな……」
一瞬静まる会議室。B店長が揶揄するように返します。
「じゃAさんは何で頑張れてたの?」
「お金も大事だけど……。でも僕の場合いろんな場面で『自分が店の中心に居た』感じで、なんか俺の、俺たちの店という実感があったんだ」
「どんな時にそう感じた?」とC店長。
「僕が主任の時、店長は困り事があると必ず僕に『どうしたらいい?』と聞いてくれた。一所懸命答えると店長は『それでやろう』って。自分が店を動かしているという気がしてたな」
「あ、俺も主任になった時、店長が『稼動で初めて対抗店を抜いた、やったぞ!』って真っ先に報告してくれて嬉しかった!自分が重要なポジションにいる気がしたよ」とB店長。
「あぁ。逆の立場で自分が店長になった今、主任を巻き込んでない事に気付きました」とC店長。
「俺も…」とA店長。
「自分も…」B店長。
そう、私の「思うところ」とはこのことなんです。
部下の承認欲求を満たしてあげる
人の欲求を段階的に分類した「マズローの欲求五段階説」によると、人間は
1生理的欲求
2安全欲求
3愛情欲求
4承認欲求
5自己実現欲求
を持つといい、生理欲求が満たされれば安全を欲し、その次は愛情、その先が承認、そして全て充足すると自己実現を求めるといいます。
会議の冒頭で店長たちが悩む様子をみて、これら問題の根幹は4番目の「尊厳欲求」だとピンと来たのです。
承認欲求とは、「確固として基盤のある安定的な高い評価への欲求」で、これは「内発的」と「外発的」に分かれます。
「自分の力、成績、自信、独立、自由、重要性に対するもの」を内発的とすると、「社会的な認知、名誉に対するもの」が外発的となり、なかでも外発的な承認欲求は、社会的な存在としてのヒトにとって極めて重要。
そこで私は「皆さんが頑張れていた理由は?」と、過去を尋ねたのです。役職が動機づけに働くのは、それが「自分は重要な存在だ」「人から認められている」という印だからです。しかし役職はあっても一般社員と同じ扱いだったらどうでしょう。
要な事柄を一切相談されず店長だけで決められたら?役職になっても残業代ナシになるだけで管理職としての扱いを何一つ受けないとしたら?
彼らの承認欲求はたちまち否定され、ヤル気も失われるでしょう。何か困ったら主任に相談する。
嬉しいことがあれば真っ先に報告する。時には経営の機密事項をこっそり「オマエだけだぞ」と耳打ちする。
「ちょっとしたことで、主任、ひいては若手全員が『自分が重要な存在だ』と実感できるんだね。大事なことを忘れてたよ」
B長の発言です。メンバー全員、大きな気付きを得た瞬間でした。