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「どう生きたいのか」——逆算から始める健康管理で後悔のない生き方を

投稿日:2020/01/01更新日:2020/01/10

人生100年時代を生きるビジネスパーソンにとって健康は欠かせません。そこで今回は、救急医療に携わった経験から予想医学の重要性を痛感し、医療リテラシー向上のための啓蒙活動に力を注ぐ菅原脳神経外科クリニック院長の菅原道仁氏に話を聞きました。(全2回前編)

患者の医療リテラシーを高め、後悔する人を減らしたい

田久保: 先生は「予想医学」に取り組まれています。そもそも予想医学とは何ですか。予防医学とは違うのですか。

菅原:予想医学とは、「予防医学」の一種です。病気になる前の段階にアプローチして健康管理をするという点は、予防医学と同じです。予想医学はいわばオーダーメイドの予防医学で、人の体質を基に健康管理をします。

具体的には、血液検査や遺伝子診断などから、「がんになりやすいが、動脈硬化にはなりにくい」といった自分の健康リスクを知り、その上でどんなふうに人生を全うしたいかを考えてもらうことが目的です。

田久保:なぜ脳外科医でありながら、予想医療に関心を持ったのですか。

菅原:私は医師になってから15年間、脳外科医として救急医療に携わっていました。とにかく毎日忙しく、現場は疲弊していました。解決策は病院や医師の数を増やすか、患者数を減らすかの2つしかない。ただ、前者は個人の力ではなかなか実現が難しい。

では患者の数を減らすにはどうしたらいいか。そこで考えたのが、患者自身が医療リテラシーを高め、救急にかかるべき症状かを判断したり、積極的に自身の健康管理をしたりすればいいのではないか、と考えたのです。

これまで患者やその家族の嘆き悲しむ姿をたくさん見てきました。そのときに「血圧が高いのに放置していた」とか、「肥満を指摘されていたが何もしなかった」と悔やむ人が多かった。そういう人たちを何とか減らしたい、その思いが今の仕事につながっています。

自分の健康リスクを知り、どう生きたいかを先に決める

菅原:人間が死に至る病気は、大きくがん血管の病気の2種類しかありません。例えば、脳梗塞や心筋梗塞、腎不全などはいずれも血管が詰まる病気です。また、高齢者に多い肺炎は、寝たきりの人がかかりやすいのですが、寝たきりになる原因の1位は脳血管障害です。つまり、この2つの病気に気をつければ、大体の病気は避けられます。

最近は自分がどんな病気にかかりやすいか、遺伝子や家族歴で分かるようになってきています。

田久保:ネットで購入できる遺伝的リスクが分かるDNA検査キットはどうですか。

菅原:まだまだ精度が上がってほしいと思いますが、自分がどういう病気になりやすいのかを知ることは大事でしょう。それが分かれば、生活習慣を見直せますよね。

田久保:健康リスクを知る方法はほかにありますか。

菅原人間ドック、脳ドックは受けるべきです。コレステロールや血糖値の数値が高かった場合、血管の病気になりやすいといったことが分かります。また、家系に肺がんや胃がんが多ければ、そこは注意しなければなりませんし、喫煙者や酒量の多い人はがんをチェックする必要があります。

田久保:人間ドックの検査結果や家族歴、生活習慣からある程度、分かるわけですね。

菅原:よく「逆算して考えていきましょう」と話します。ビジネスでも、何か新しい新規事業を始めるとき、ゴールから設定することが多いじゃないですか。健康管理もまず「自分がこの先どう生きたいか」というゴールから決めればいい。

「何としても長生きしたい」なら、がんや血管の病気に注意する。「できる限り、世界各国を旅したい」という夢があるのであれば、動脈硬化の予防より、けがをしないような体力づくりが優先されるでしょう。

田久保:人間ドックには何歳になったら行くべきですか。

菅原:私の経験上、40歳を超えると健康トラブルが起きてきます。可能なら40歳から、50歳を超えたら必ず受けたほうがいいでしょう。少なくとも会社の健康診査くらいは受けてほしいですね。

田久保:人間ドックに加えて、胃と大腸の内視鏡検査はどのくらいの頻度で受ければいいですか。

菅原:理想を言えば、胃カメラは1年に1回、大腸は2、3年に1、2回でしょう。

健康、不健康は医療リテラシーの差

田久保:自分の健康リスクや今後の生き方を踏まえて、食事や運動など対策を練ることが大事なのでしょうね。ほかに医師として「これはやっておいてほしい」いうことはありますか。

菅原:健康情報に興味を持ってほしいですね。

田久保:ビジネスのことだけじゃなくて、健康情報についても。

菅原:健康や医療に関する情報を入手したり、活用したりすることは、失敗しないためにグロービスで経営やマーケティングを学ぶのと同じ。難しいことではないですよね。

今までどちらかというと、医師側もあまり患者を教育してこなかったし、患者の多くは「先生にお任せします」という感じだったと思います。しかし、人生100年時代になると、自分の体や長い人生をどう生きるかを人任せにするわけにはいかなくなっています。

例えば、「がんって何ですか」「動脈硬化って何ですか」と聞かれたら、説明できますか。それぐらいの基本的なことは知っていてほしいと思っています。多少なりとも知識があれば、医師の説明が理解できます。反対に知識がないと、医師が何を言っているのか分からなかったり、誤った情報に惑わされたりする危険性もありますから。

田久保:自分の健康にまるで関心がない人も中にはいますよね。

菅原:健康講座などで話すことがありますが、いつも「健康講座が開催されるという情報を知って、この場に参加しただけでみなさんは健康です」と言っています。問題なのは、健康に無関心で、講座が開かれていることを知らない人たち。そういう人たちにいかに届けるか。それが今一番やりたいことです。

福沢諭吉の『学問のすすめ』には、有名な「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という一文があります。あの文章には続きがあって、「『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』と言えり」と書いてあります。

諭吉が本当に主張したいのはここからです。天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、人間は平等だと言われていますね。だけどごらんなさい。気高い人もいるし、貧乏な人もいる。なぜこんな差が生まれるのか。その違いを生んでいるのは何かと言えば、知識があるかないか。だから私たちは知識をつけないといけない。学問をしないといけない。だからあの本のタイトルは『学問のすすめ』なんですよ。

患者が自分の身体に興味を持ち、医療知識を身に付けることで、より良い医療を受けられます。ぜひみなさんには医療リテラシーを高めていってほしいと思います。(後編に続く)

(文=荻島央江)

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