覚悟を持って地元に貢献する【北海道コンサドーレ札幌アカデミーダイレクター/北原次郎氏】

北海道コンサドーレ札幌でアカデミーダイレクターを務める北原次郎氏に、スポーツビジネスを通じて地元北海道に貢献するにいたった背景を伺った。一旦地元を離れた北原氏が地元に戻って活動する際に必要だった”覚悟”とは。

地元・北海道のクラブチームだからこそ、覚悟が必要だった

広瀬:北海道コンサドーレ札幌でどんなお仕事をされているのか。

北原:トップチームのゲーム分析の仕事をした後、子どもたちの指導にあたり、今はアカデミーダイレクターとして子どもたちを指導するグループを統括する立場で仕事をしている。マネジメントとスタッフの人事、評価が主な仕事になる。

広瀬:もともとどのようなキャリアプランを描いていたのか。

北原:実はプロのサッカー選手になりたかった。在籍していた筑波大学の体育専門学群では、体育の先生になることが1つの大きな目標になる。だが、私は先生になるよりもプロ選手になりたかったし、もしなれなかったらサッカーコーチ学を学んでいたこともあり、サッカーを教える仕事に就きたいと思っていた。

結局、大学を卒業したもののプロ選手にはなれなかった。Jリーグの世界で仕事を得るのは簡単ではなかったが、幸いJリーグの他のクラブに入団することができ、トップチームのゲーム分析の仕事を主にしていた。それを10年ぐらいやった後に、地元・北海道のために何かできたらということで戻ってきた。

プロ選手としての経歴があるプロコーチ候補がいる中でどうしていくのかを考えたとき、ゲーム分析という仕事を長くやってきたことが自分にとってプラスに働いたとは思う。とはいえ、そんな人はごまんといるので、この世界ではベースにはなるけれども、ストロングにはならない。

広瀬:そのような状況の中で、どうやって自分の強みを見つけ、際立たせていったのか。

北原:この業界は特殊な世界だし、簡単な世界じゃないので、与えられるものには限りがある。与えられた環境の中で必死に頑張っていたら、ちょっとずつ広がっていって今に至った、と感じている。1個1個を全力でやってるだけだと思っている。

広瀬:なぜ北海道に戻って仕事をしようとなったのか。

北原:オファーをいただいたというのは大きなポイントだった。とはいえ、話が来たから自動的にそこへ行く、と決めたわけではない。北海道は自分の故郷なので、両親がいて、恩師がいて、仲間がいる場所。地域に貢献するというJリーグの理念を考えたとき、自分がどこに貢献したいかを考えると、すごく魅力的な場所だと感じた。

それと同時に「覚悟がいるな」と思った。今までやってきたことを北海道で成し遂げなきゃいけないんだ、と。これまでトライアンドエラーをしていた期間を経て、自分がここで何かを成し遂げるために、今ここから一歩進んで行かなくてはならない、という覚悟は必要だった。

他の地域にもクラブがあり、様々なチャンスがまだあるとは思う。だが、「仮にここで失敗しても他があるから大丈夫、あくまで人生のプロセスの中の1つだ」という考えにはならなかった。成功の半分は運だ。それと、この世界はいわゆる終身雇用制のようなものはないので、個人的な繋がりでやっていく世界。だからこそ、「自分はここで何かを成し遂げたい」と思って、覚悟を決めてやっている。

広瀬:北海道で何か成し遂げたい、とは具体的にどのようなイメージを持っているのか。

北原:現時点では、やっぱりいい選手を輩出したいという想いがある。この10年間で20人から30人ぐらいの選手がプロになっているが、まだ日本代表には1人もなっていない(※2019年6月開催の南米選手権に出場する日本代表チームに、小樽市出身でU-12からクラブのアカデミーグループに所属していた菅大輝選手が選出された)。ワールドカップに行った選手も1人もいない。世界で戦う選手を輩出するクラブになりたい。

あとは、北海道の中でももっと地方の人口が少ないようなエリアで、本当はすごくサッカーも上手くてすごく努力もしてるんだけどチャンスに巡り合えない、という子供たちのために、北海道のどのエリアにいても夢を叶えられる環境を作っていきたいとも考えている。

広瀬:世界で戦える選手を輩出するために、取り組まれていることはあるのか。

北原:私自身はマネジメントの立場にあるので、まずは指導者スタッフたちが安心して、かつ思い切って子どもたちと向き合えるような環境をつくること。また、日頃のサポートだけでなく、様々なディスカッションを通して彼らが自分自身の個性を発揮できるように工夫している。

2つ目は、小学生や中学生の頃から本州遠征だけでなく海外遠征の機会をできるだけ多く提供するようにしている。彼らの価値観を高めるような経験の機会を作ってあげたいと思っているので。我々は北海道基準でもなく、日本国内基準でもなく、世界基準に広げることが大事だと思っている。

あとは、組織としての質を高めていかなきゃいけないとも思っている。ヨーロッパのサッカークラブが持ってるようなフィロソフィーやカリキュラム、指導方法を、属人的ではなく仕組みとして落とし込んでいきたいと思っている。最初の2つが主の活動にはなるが、組織としてのフレームワークを固めていきたいと思って取り組んでいるところ。

選手の育成に賭ける想いと、育成を通じて見えてきた課題

広瀬:北原さんが考える良い指導者が持つ素質や能力は?

北原:選手のプレーをもっと良くできる指導力が一番大事だと思う。どんな選手でも成長させられるようになるには、選手と信頼関係を築くことが第一だ。

あとは、個の能力を高めるだけでなく、グループの中で力を発揮できるように育てていかなくてはならない。そのためには、向上心や協調性にアプローチすることも大事だと思っている。その両輪だろう。

日本人の指導力は世界でもかなり誇れるレベルだと私は思っている。サッカー競技としてはワールドカップで優勝したこともないし、まだリスペクトされてる段階ではないと思うけれど、例えばしつけの面など、日本人にしかない良さがあると思う。それらは家庭を含めて教育的な姿勢の中で生まれてきたもので、外国の方にも学んでいただけるようなレベルの高いものだと感じている。

広瀬:世界で活躍できる選手の育成を目指す中で、北海道の人材に対する課題感はあるか?

北原:穏やかで、争いごとが嫌い、協調性があるっていうところは多分日本人の特徴でもあるが、北海道の人は顕著だと感じている。例えば、能力の高い優秀なサッカー選手はたくさんいるけれど、野心を持って本気で努力して、もがき苦しんで苦難を乗り越えるというよりも、今自分の手元にあるパイの中で何とか対処していくことがすごく多いと感じている。ちょっと頑張ったけど壁にぶち当たって、すぐに引き下がって、ちゃんと胸の内を言葉に発しないっていう。それは北海道の良さでもあるけど、もったいないとも感じる。

限られたエリアの中で暮らすには、何気ない日常に満足して、小さな幸せを見つける力はすごく大事だ。だけど、現状に不十分さを感じるからこそ野心が出てきたり、欲望が出てきたりするので。サッカーのようなボーダレスなものに取り組んでいくのであれば、一歩踏み出していかないと活躍できないんじゃないかと感じている。

広瀬:サッカー技術の習得以外でどんな選手になってもらいたいと思っているのか?

北原:自立した人間になることをアカデミーとして重要視している。自分のことを自分でできる、あるいは自分自身を高めるために自分で行動できる、そして今何が必要なのかを自分で考えられるっていうような、自立心を重要視している。思考力や人生のとらえ方については、プログラムに沿って指導できていると感じている。小中高とそれぞれのフェーズにおいて、自分の考えていることをしっかりと話せるようになったり、自分自身のことを俯瞰して見られるようになったり、あるいは自分の目標値を分析してどんな努力をすればよいか選べるようになったり。そうやって思考力を徐々に高めながら、プロ選手になっていくことを目指している。

北海道コンサドーレ札幌とスポーツビジネスのこれから

広瀬:北海道コンサドーレ札幌がビジネスとしてさらに成長するために取り組まれていることは。

北原:サッカーだけでなく、他のスポーツにも広げ始めている。具体的に言うと、男子のカーリングやバドミントン。サッカー以外に携わっている方にもコンサドーレという名前を認知してもらえるように、クラブとして努力している。社長が野々村になってから右肩上がりで成長しているので、これから大きなチャンスがあるんじゃないかと感じている。

一方で、危機感もある。例えば、北海道は人口550万人、日本全体の20分の1の規模。ということは、20人の日本代表選手を集めたら1人は入っていてもおかしくないはずだが、そうではないのが現状。ハイレベルな選手をもっと輩出せねば、と思っている。

広瀬:プロスポーツ業界全体で選手のセカンドキャリアについて議論が起きていると思うが、実際に取り組まれていることはあるか。

北原:実際にJリーグでも対策として様々な取り組みを行っているし、最近は選手をやりながら色んなことを経験していくだけでなく、選手をやりながらサッカースクールを始めるような選手も増えてきている。

私の意見を述べさせていただくと、まずお金を得るということの意味や、職業に就くことによって誰かに貢献するということの意味を理解したうえで、プロのサッカー選手を目指すべきだと思っている。そうすれば、いつかサッカー選手じゃなくなったとしても次はどんなことで貢献していきたいのか、自分で選択することができる。セカンドキャリアだけを取り上げて問題視するのではなく、ファーストキャリアの段階からきちんと考えていけば大きな問題にはならないのではないかと考えている。

広瀬:スポーツビジネスに携わりたいと考えている読者へ、伝えたいことはあるか。

北原:毎日好きなサッカーに関わる仕事ができて、毎日が楽しいということはお伝えしたい。「明日も仕事あるのか、嫌だな」と思ったことは本当に1回もない。もちろん、失敗することもあるし、自分が思ってたような評価を得られなかったときの挫折感もあるが、やっぱり自分の人生を捧げてるものだからこそ、うまくいったときの喜びも2倍になる。お金には換算できないロマンみたいなものも自分たちはもらえてると思ってるので、そこはすごくいい面じゃないかなと思っている。

まとめ

北原氏のお話の中で、地元を一度離れたからこそ、北海道を活動拠点にすることには覚悟が必要だったという話が印象的だった。地方創生という言葉では語られていないものの、スポーツビジネスを通じてどのように地域活性化に貢献していくか、という強い想いを感じ取れるインタビューだった。

また、サッカー界ではサッカー技術の向上だけでなく人間性を高め自立心を養うような教育プログラムも行われていることを知り、グロービスの考えている人材育成の在り方と通じるものを見つけることができた。

※インタビューは2019年4月に実施しました

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