「ケンタッキーフライドチキンの調子がいい」というニュースを最近よく目にします。国内展開を担う日本KFCホールディングスの業績を調べてみたところ、2019年3月期までの直近5年では、フランチャイズ店含む全店舗の売上高は1100億円から1200億円の間で推移しており、目立って好調という感じではありません。ただ、別ソースによると、直近12ヶ月中、実に11ヶ月で既存店の客数が前年比を上回ったそう。以前は9ヶ月連続前年割れもあったそうで、一時と比べると苦境から脱し好調に転じていると見ても良いでしょう。
そもそも、日本人がフライドチキンを一番食べる機会といえば、年に1回、クリスマスシーズンではないでしょうか。実際、日本のケンタッキーもクリスマスシーズンには店舗売上が通常の7倍近くになるそうです。一方でケンタッキーの来店客の約4割が年1回の利用に留まっており、このことから来店頻度をいかに上げるかが積年の課題でした。
これに対し、日本KFCホールディングスはおいしいフライドチキンという自社商品が持つ価値への自信に基づき、安売りではなく季節限定商品の投入で客を惹き付けようとしてきました。このマーケティング戦略は結果的に消費者の頭の中に、ケンタッキーは「おいしいけど高い」という、気軽さが売りのファーストフードにとってはありがたくないイメージを構築することに繋がったのでした。
ケンタッキーとしては、「おいしい」というイメージは維持しつつ、「何度も気軽に利用したくなる店」という認知をつくりたかったはずで、マーケティング戦略の見直しが迫られていました。こうした状況では、マーケティング戦略におけるポジショニングだけでなく、実際に消費者が目に触れるマーケティングミックスまでしっかり考えることが重要です。
■マーケティングミックスとは?(視聴時間:1分)
マーケティングミックスとは、顧客に抱いてもらいたいイメージを実際に伝え、自社商品を買ってもらうための活動の組み合わせのことをいいます。要素としては4つのP、すなわちProduct(製品)、Price(価格)、Place(流通チャネル)、Promotion(広告宣伝)があります。マーケティングミックスを考える際には、各要素を個別に考えるのでなく、相互に整合が取れるよう考える必要がありますが、そのためには顧客に抱いてもらいたいイメージ(ポジショニング)をあらかじめクリアにしておくことが大事です。
さて、日本KFCホールディングスのマーケティングミックスの見直しは思い切ったものでした。なんと、割安感のあるランチセットメニューという、今まで敬遠していた製品および価格戦略で挑んだのでした。これにより、9ヶ月連続前年割れの既存客数が一気に回復することとなりました。さらにはついで買い需要の掘り起こしや夜の来店促進にも繋がったそうで、客単価の向上ももたらしたとのことです。
他にも、広告宣伝については従来のテレビに留まらず、SNSにも出稿することで、費用を抑えつつ幅広い層にリーチし、ケンタッキーの想起を高めるなど、従来のマーケティングミックスのテコ入れを進めている模様です。
国内市場に目を転じると、言わずもがなの人口減少に加え、世界的にもまれなほど多ジャンル多様な飲食店が林立するなど、厳しい材料がいくつも転がっています。こうした事業環境の中で、反転攻勢に打って出た日本KFCホールディングス。今後の展開から目が離せません。