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キリンスパークリングホップに学ぶポジショニングの妙

投稿日:2008/12/29更新日:2019/04/09

12月19日キリンスパークリングホップ:「これはビールではありません」というポジショニング?

ニンジンが嫌いな子供に母親は、その形状が見えないよう、みじん切りや、すり下ろして料理に混ぜ込むなどの苦労をして食べさせる。好き嫌いがなくなればよいのだが、そんな苦労をしても、子供から大人に成長すると結局食べなくなってしまう人も少なくない。やはり、人は嫌いなものはどうやっても食べないのだ。ましてやそれが嗜好品だったら……。

かつては、ビールといえばキリンだった。ところがアサヒスーパードライのヒット以来首位から陥落し、現在同社は、発泡酒へシフトしていると言っていいだろう。2007年4月の日経ビジネスオンラインの記事「キリンビール、トップシェア奪回の勝算とリスク)」によれば、キリンは発泡酒、第3のビールでは合計48.6%のシェアを持ち、2位のアサヒ(22.9%)を圧倒している。一方、ビール単体のシェアでは28.9%と、アサヒの50%の半分程度、という。

しかし、その発泡酒を含めて、ビールカテゴリーともいうべき飲料から客離れが続いている。主たる離反層は若者だ。

キリンビールが2004年に行った調査「『20代のお酒の飲み方』に関する調査結果」を見てみよう。

好きなお酒ではビール(28%)がトップながら、カクテル(25%)、チューハイ

(17%)の人気が肉薄とあり、98年の調査と比較した上で、チューハイ、カクテルの人気が高まっている、と危機感を募らせ始めていた。

どうやらその動きはさらに深まっているようだ。今年の中間決算ではサントリーを除く各社が、販売計画を下方修正した。JCASTニュースの記事「若者のビール離れが進む?販売計画も下方修正」では、キリン食生活文化研究所が今年4月にまとめた意識調査の結果を紹介、社会人1年生に「ふだんよく飲むお酒は?」と聞いたところ、自宅で飲むお酒のトップはチューハイ、飲食店ではカクテルだった。ビールは自宅で第2位、飲食店では第3位だった、という。

まとめると、ビールのコクや味わいを追求してきたキリンビールは、「キレ」や「鮮度」という新たな価値観を持ち込まれ敗退。価格優位性がある発泡酒に牙城を築き、一矢報いたものの、その発泡酒すら飲まれなくなってきたという状況だ。

発泡酒はビールの代替として、「いかにビールらしい味わいやのどごしを再現するか」に注力されていた。しかし、その味自体が忌避されるようになってしまっては、全く新たなポジショニングを取る以外に生き残りの路はない。

そしてその答えが「キリンSparklingHop(スパークリングホップ)」なのだろう。昨年10月に発売され、今年の11月26日にリニューアル発売された。ニュースリリース(リンク:)を見てみよう。

【味覚特長】

ニュージーランド産ホップのフルーティで華やかな香りをさらにグレードアップさせるとともに、よりすっきりした軽快な味わいに仕上げた。

【コンセプト】

香りまで楽しめる、心地よい刺激の新ジャンル。さらにフルーティに。

明らかにもはや、「ビール代替」というポジションではなく、<新ジャンル>としてのポジショニングを明確にしている。「ビールが嫌いなら、ビール味のものは飲んでいただかなくて結構。新たな味わいを提案します」ということではないだろうか。

さて実際に飲んでみると、「Sparkling」という部分を強調したことがわかる。分かりやすくいえば、「ポップフレーバーのスパークリングワイン」といった風情なのである。軽やかな口当たりと爽やかに広がるホップの香りが清々しい。

これならビールを飲まない人にも新しい飲料として受け入れられるのではないだろうか。シャンパンを「甘すぎる」と感じていた人にも喜ばれるかもしれない。CMでも繰り返し表現されている、「くるくる」という動作を導くキーワードも、わかりやすいのに新鮮だ。この言葉一つで、商品を介したコミュニケーションがその場に生まれるだろう。アルコール度は5%と若干低めだが、度数以上に軽い飲みごこちだ。

シャンパン、ワインにレモネード。パーティーやイベントで飲まれる「ビールより洒落た」飲み物市場に、発泡酒ならではの低価格で投入されたスパークリングホップ。ハレの場で味を占めた若者が、「コンビニでチューハイとおつまみ買って、ちょっと一人で家飲みしよう」というケの日常習慣の中に組み込んでくれれば……という意図ではないだろうか。

嫌なものはどうやっても食べない。その当たり前なことに立ち返り、鮮やかなポジショニングチェンジをして、メインターゲット新たな提案を行った「キリンSparklingHop」。今後の売れ行きを見守ってみたい。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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