さて、5月に入りました。薫風さわやかな季節ですが、中には五月病の症状が出てくる人がいるかもしれません。職場が多少新しい空気に包まれた4月も、はや過ぎ去り、「やっぱりキャリア・人生って、そうやすやすと変わるものではないんだなぁ」と思いはじめた読者にお届けしたいのが、今回の「習慣」というテーマです。習慣という小さな行動の偉大さをあらためて考えてみましょう。
習慣は大きな心的負荷なしに生活・人生に大きな影響を及ぼす
「人格は繰り返す行動の総計である。それゆえに優秀さは、単発的な行動にあらず、習慣である」──『7つの習慣』の著者スティーブン・R・コヴィーは、アリストテレスの言葉を引用し、習慣の重要性をこう強調しました。
習慣は日常の反復的な行動です。それはたとえ小さな行動であっても、長い間積み重なることで、あたかも生まれつき持ってきたかのような性向として固まってきます。習慣が「第二の天性」と言われるゆえんです。そして習慣は、自分自身にさほど大きな心的負担をかけないにもかかわらず、結果的に生活・人生に強い影響を及ぼします。
習慣は下図のように、天性と努力の中間に位置します。天性は先天的に受けるもので、もはや変えられません。そして天性は、自分が無意識のうちに生活や人生に作用してきます。他方、努力は後天的に「いま・ここ」から自分で意図的に変えていけるものです。
習慣はこれら両方の性質を持つことが重要な点です。すなわち習慣は、なかば天性のように自分に定着している性向・行動・態度・姿勢ですから、知らず知らずのうちに人生に影響を与えることができます。
また習慣は、努力の一部、技術の一部ですから、意思を持って取り組めば、自分をそう仕向けることが可能です。そこには、まったく新しい第二の天性を後天的につくることができるという希望があります。
行動の4割は習慣~私たちは習慣という衣を着ている
「自分には特別な習慣はない」という人でも実際は、無意識のうちにお決まりの考え方、お決まりの行動で済ませる部分がかなりあります。米国デューク大学の論文によると、毎日の人の行動の40パーセント以上が、その場の決定ではなく、習慣だといいます(チャールズ・デュヒッグ著『習慣の力』より)。その意味で、私たちは四六時中、習慣という「衣(ころも)」をまとい、生活を回していると言っていいかもしれません。
そうした「衣」ともいうべき習慣は、内側の自分の心と、そして外側の環境や運命とつながっています。それを表現した古人の言葉がこれです──
心が変われば、行動が変わる。
行動が変われば、習慣が変わる。
習慣が変われば、人格が変わる。
人格が変われば、運命が変わる。
日米のプロ野球界で活躍した松井秀喜さんも、星稜高校野球部時代に山下智茂監督からこの言葉を教わり、以降人生の指針にしているそうです(『不動心』より)。
私たちは、環境や運命は変えるには大きすぎると感じるときがあります。しかし、「いま・ここ」の自分の心は、習慣を介して、環境や運命と地続きです。習慣は、能力としては意識されない小さくて静かな運動ですが、偉大な力を発揮する運動です。
最後に、習慣についての賢人たちの言葉をいくつか加えておきます。
●「習慣によって、いわば第二の天性がつくられる」
──キケロ(共和制ローマ期の政治家)
●「習慣は太い縄のようなものだ。毎日1本ずつ糸を撚り続けると、やがてそれは断ち切れないほどのものになる」
──ホーレス・マン(米国の教育改革者)
●「天才とは、蝶を追っていつの間にか山頂に登っている少年である」
──ジョン・スタインベック(米国の小説家)
●「人生の特性を決定するのは、日常の小さな事柄であって、偉大な行動ではない」
──カール・ヒルティ(スイスの法学者・思想家)『眠られぬ夜のために』
●「習慣を自由になし得る者は人生において多くのことを為し得る。習慣は技術的なものである故に自由にすることができる」
──三木清『人生論ノート』
【参考書籍】
『働き方の哲学』
村山昇(著)、ディスカヴァー・トゥエンティワン