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おかげ横丁を神恩感謝の精神で人気観光地にできた理由

投稿日:2018/04/12更新日:2019/04/09

伊勢神宮の内宮前にあり、古くから多くの参拝者で賑わってきた門前町の「おはらい町」。昭和60年代に来客数が20万人まで激減したものの、平成5年、町の一角に「おかげ横丁」が整備され、500万人を超えるほどの人気観光地となった。今回は、この「おかげ横丁」を運営している株式会社伊勢福の橋川史宏社長に、門前町の賑わいを取り戻し、活性化に成功した極意を伺った。

「おかげ横丁らしさ」を貫いたことが活性化成功のカギ

おかげ横丁
林:来客数20万人が25倍の500万人に。どんな施策をされたのですか?

橋川:まずは、伊勢の伝統的な町並みを再現し、伊勢らしい空間を整備しました。整備前は空間に統一性がなく、何か買おうと思ってもいわゆる観光土産しかなかった。観光客の格好で歩いていると「お兄さん、ちょっとご飯食べていきなさい」って引っ張られる、そういう典型的な観光地でした。それでは神宮参拝の人たちが来たいとは思わない。逆に、伝統的で心地良い伊勢の空間をつくれば、自然と人が来るようになるのではないかと考えたのです。それがおかげ横丁です。この空間に適した商品や催しを徐々に入れて平成5年にオープン、平成10年には採算的にも非常に安定した状況になりました。

併せて、行政や地域の方々と協力して、「伊勢市まちなみ保全事業基金」を設立していただき、おはらい町の無電柱化と石畳舗装化が進みました。

その後、次のご遷宮に向けての10年間でこの通りをどんどん人が歩くようになって、4年前の第62回式年遷宮のときには爆発的に人が来た。その翌々年にG7サミットが行われ、今年は全国菓子博という大きなイベントが開かれて今に至っている。伊勢は、この10年間ぐらい景気のよい状態が続いています。

林:「空間に適した」を、言葉で表すとしたらどういうキーワードになりますか。

橋川:おかげ横丁は「神宮参拝客をもてなす」「日本人の心のふるさととなる」「伊勢の町の本来の姿を守る」という3つの役割を狙っています。まずは、参拝客にくつろいで楽しんでいただくいうことですね。それからなつかしいふるさとと感じていただけるように努めること。神道の1つの都であった伊勢は本来こういう町だった、という姿を再現すること。それらを実行するための基本理念として、「感謝の心」「日本の伝統文化」「本来の商売人らしさ」があります。これらを意識していくと、おかげ横丁らしさはできてくると考えました。

当然、数字で表せるわけではなく感覚的なものですが、日本の伝統精神に関心のある方なら、「やっぱりそうだよね」となる感覚です。町をつくるというプラニングの仕事に関しては、こうした理念が共有できる人じゃないとできない。その辺の見極めをするのが、私や会社の上級管理職の役割になると考えています。

林:おかげ横丁らしい商品や催しをプロデュースする時は、その理念に共感できる方たちが一緒に議論しながら、一つひとつ決めていくのでしょうか?

橋川:それが理想だと思いますが、そこまで整理されてないですね。この理念を最も明確に持っている人は、赤福の創業家の方々です。赤福という会社は300年前から存在していて、この会社が企画したおかげ横丁ですから、その考え方は大前提として我々も押さえるようにしています。それをこの感謝の心や伝統文化や商人らしさっていう言葉で表現しているのだと、理解しています。

林:おかげ横丁に隣接するお店には、おかげ横丁らしさをどのくらいキープさせるのでしょうか。

橋川:それらは私どもの管理するところではありません。もともと土地を持っていた方々は、これだけ賑わってくると不動産価値が高くなって貸しても相当儲かるわけで、土地や建物を貸して、所得を上げている人もいらっしゃるようです。すると、よくある観光業者が他の土地からやってきて、だんだん伊勢のオリジナリティーがなくなってくる。コンビニもきましたし、他地域の焼き鳥屋や焼肉屋も来たことがあります。そういう中で、「神宮の前でちょっと違うだろう」みたいなコンセンサスを、どうやってつくるかという問題はあります。

おかげ横丁に話をもどしますが、赤福の関係者だけではこの町は運営できないんです。赤福は餅屋ですから、他の商売はちょっと…というようなこともありますので、私のようにあまり餅の仕事に特化してない人間も必要なんですね。いろんな専門的知識を持った人間が、伊勢の伝統的な町を再現しようということでおかげ横丁に寄り集まって、神恩感謝、伝統文化、商人らしさで、建物や商品や催しや接客を具体的にどうしようかっていうことを議論して決めるというのが理想です。

「おかげ横丁らしさ」の維持には、理念浸透のコミュニケーションが必須

ぼかし2
林:どうやってそうした理念を共感させているのでしょう。

橋川:これはマニュアルでは届かないんですよ。社員の場合は会おうと思えばいつでも会えるんですね。そういう気楽さゆえの不徹底があることを理解し、なるべく頻度高く話をしようとか、今日のこのミーティングを大事にしようということを強く訴えかけて、そのときに理念の話をします。

赤福グループは全部で1000人くらい社員がいますけど、その1000人が共有している赤福グループの経営の基本的な考え方をまとめた、理念の書みたいなものがあります。私はこの1年間、簡単なコメントを付けてそれを毎朝朝礼で1節ずつ読んで、ちょうど1周したところです。しばらくしたら2周目に行くつもりなんですけど、そういう時間を持ったりしています。

あと年2回、社員大会がある。このときは管理職も一般社員もパートさんも全員、二百何十名か集まって、そこでスピーチをします。それから毎年年始に「年頭所感」を書いて、経営方針を大体3000字くらいの文書にまとめます。これは赤福グループみんなでやっていて、伊勢福は全社員に1枚ずつお渡しして、それを読んでもらっています。

いつでも会えることに甘んじてないで、なるべく直接話しができる、あるいは文書を読んでもらえることがあるたびに、理念の話を私はするようにしています。そういう意味では、理念は末端まで徹底できているんじゃないかなという気がしますね。ただ、社内アンケートで「会社の経営方針をどれだけ理解していますか」と聞くと、「あまりよく分からない」という人もまだいるのですが。

林:お仕事の何%ぐらいを、社員一人ひとりへのコミュニケーションに使っていますか。

橋川:80%ですね。具体的なオペレーションに関わるようなことは、事業本部長や各部のリーダーに任せているので、彼らにこの考え方を伝えるようにしています。オペレーションまで私が話し出すと多分息が詰まってしまうと思うので、あまりしないようにしています。

それでもときには、50店舗ほどの店の品揃えや商品の選択について議論しているところに、私が「これも入れたらどう?」っていう形で提案を放り込むこともあります。そういう情報収集や外部との関係づくりの仕事が全体の中で20%ぐらいですね。

林:おかげ横丁の業績は参拝客と連動しているのでしょうか。

橋川:大体比例して大きくなっていますね。社員数も増え、いろんなことが当初の2倍ぐらいになっていると思います。ですが、「数字だけを追いかけるのはやめてください」と話しています。数字にはこだわりますが、我々がやるべきは顧客満足であり、顧客満足を徹底してやれば、自ずと数字はついてくるはずという当たり前の話は、幹部に対して何回も話をしています。だから「理念を大事にしてください」というわけです。

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