4月は多くの会社にとって新しい期が始まるタイミングです。異動や昇進・昇格のある人、担当業務が変わる人、そして新しく社会人として入社する人など、環境が変わる人がさまざまいるでしょう。そんな方々にとってはもちろんですが、特段仕事環境に変化がないよという人にとっても、この時期は、心機一転、仕事を通じて自己を伸ばしていく節目のスタートとなります。
さて、そんなリフレッシュスタートのタイミングにこそ、基本的なことに意識を向けたいものです。今回取り上げるのは、「自立・自律・自導」という3つの成長フェーズです。
1.「自立」フェーズ
まず、自らを職業人として「立たせる」段階です。職業人としての自立は、次の3つがあげられます。
1)技能的自立
2)経済的自立
3)身体的自立
第一に「技能の自立」。誰しも入社したては先輩社員や上司から仕事のイロハを教えてもらい業務の方法を覚えます。そしてやがて仕事全体の流れや事業の仕組みを把握し、自分なりに改善点や新しい工夫を加えていけるようになります。これが技能的自立です。
次に「経済の自立」。たいていの人は、学校を卒業して就職すれば、当然、経済的に保護者から独立し、自分の収入で生計を立てることになります。人生のステージが進むにつれて、結婚や子どもの誕生、不動産購入などが予想されるため、それに合わせて家計のやりくりや貯蓄をしていかねばなりません。
3番目に「身体の自立」。他者の介助を受けずに、食べられる、歩ける、寝ることができる。こうした生活のことを一人できちんとできることは、自立の基盤を成す最も大事な部分です。健常者にとっては当たり前すぎて見過ごしがちですが、例えば交通事故で大けがをしてしまったり、メンタルを病んでしまったりすると、自立生活がとたんに脅かされることになります。
2.「自律」フェーズ
次は、自分なりの律を持って、自分を「方向づけ」できる段階です。みずから立った後は、みずから方向づけして行動ができるようになる。この状態が「自律」です。1番目の自立が「外的な独立」とすれば、この自律は「内的な独立」と言ってもよいでしょう。
「あの人の判断・行動はぶれないね」と言うとき、何がそうさせているのでしょう。―――それはその人が内に持つ「律」です。さまざまな情報や状況に接したとき、律が判断基軸になります。
律は規範やルールということですが、それを確固として持つためには、自分なりの理念や信条、価値観、哲学を醸成しておく必要があります。自律はそのように意識やマインドといった内的領域にかかわるものです。
3.「自導」フェーズ
最後は、おおいなる目的を設定し、その成就に向けて自らを「導く」ことのできる段階です。ここで重要な鍵となるのは、「自分の内にいるもう一人の自分」。この「もう一人の自分」が目的や理想、夢や志を抱いており、現実の自分を一段高いところから眺め、進むべき方向を示すはたらきをします。
自律と自導はどちらも方向性に関するもので、その点では共通するところがあり、相互に影響しあってもいます。
自律はどちらかというと直面している状況に対し、自分の律でどう判断するかという現実的な思考です。他方、自導は目的や理念、最終到達点から逆算して、自分はどこを向いていくべきかという未来思考のものになります。また、自律的であるためには冷静さが求められるのに対し、自導的であるには、抗しがたく湧き起こってくる内なる声、心の叫びが必要であり、その意味では熱さを帯びる性質のものです。
これら「3つの自」は、航海のアナロジーを用いるとすれば次のように考えることができるでしょう───
●自立とは「船をつくる」こと
=知識・能力を存分につけて自分を性能のいい船にする
●自律とは「コンパスを持つ」こと
=どんな情報・状況に接しても、ぶれない判断を下せる羅針盤を持つ
●自導とは「地図に目的地を描く」こと
=自分はどこに向かうかを腹決めし、そこに向かってたくましく進んでいくこと
私たちはややもすると、目先の処理仕事に追われ、自分という職業人がどんな状態であるかをかえりみることがありません。自分のキャリア航海において、自分はどんな船で旅をしているのだろう(非力なゴムボートか馬力の強い大型船か)、自分にはぶれない羅針盤があるだろうか、そしてこの航海はどこに向かっているのだろうか、などを考えてみるのもいいかもしれません。
【参考書籍】
『働き方の哲学』
村山昇(著)、ディスカヴァー・トゥエンティワン