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コーチが社名を「タペストリー」に変更した理由

投稿日:2017/11/17更新日:2021/09/10

先日、高級革製品大手の米コーチが、社名を「タペストリー」に変更した。同社は、2015年に高級靴のスチュアート・ワイツマン、今年は服飾・鞄ブランドのケイト・スペードを買収しており、「コーチ」ブランドを超えた事業多角化で成長したい考えだ。

一方、この名称変更や事業多角化に対する米国内の反応は良いとは言えない。SNSでは「うまくいかない」とか「名称がダサい」などの声も上がっている。アナリストや投資家も、企業買収することで事業が上向くとは限らないという見方が目立った。

では、コーチの事業戦略が全く向こう見ずであったかというとそうではない。世界の高級ブランド市場をみてみると、欧州ではシャネルやエルメス、フェラガモと言った超一流メゾン以外はどこかの企業グループ傘下であることが多い。特に、欧州の3大ブランド企業グループ(コングロマリット)であるLVMH、リシュモン、ケリングは有名で、私達の知る多くのブランドがその傘下に入っている。一例を挙げると以下の通りだ。

LVMH: ルイ・ヴィトン、ブルガリ、クリスチャンディオール、フェンディなど
リシュモン: カルティエ、ダンヒル、ヴァンクリーフ&アーペルなど
ケリング: グッチ、ボッテガ・ヴェネタ、プーマなど

LVMHにおいては、高級シャンパンのドン・ペリニオンや免税店のDFSまでもグループに含まれる。しかし多くの消費者は、そもそも、ルイ・ヴィトンとフェンディ、さらにはDFSまでも同じグループであることを知っている人は少ない。企業グループの名称や戦略が消費者の購買に影響することはほぼないと言ってよいだろう。

企業側としては、高級ブランド市場におけるコングロマリットにメリットがあるからこそ、欧州では一般的なのであり、それこそが今後の米タペストリー社が目指すところであろう。その意味で今回は、高級ブランド市場におけるコングロマリットのメリットや成功要因を考えてみたい。

高級ブランド市場におけるコングロマリットのメリット

まずは、規模化のメリットとして、例えば規模の経済性とシナジー効果があげられるだろう。

規模の経済性

規模の経済性とは、規模が大きくなることで製品1単位当たりの費用が削減できることである。例えば販売促進で、グループとして広告枠を大量一括購入するとする。広告代理店から見れば大口顧客である為、良い場所に安い価格で広告を出すことが可能になる。一括した広告枠をグループ内で割り振れば、各ブランドの広告費削減につながる。これ以外でも、原材料の一括購買や店舗の土地購入、物流や販売などでも規模の経済性を生かすことが可能だ。

シナジー効果

シナジー効果とは、ビジネスにおいては、人・モノ・カネ・情報などの経営資源を複数事業で活用することで、1事業で活用するよりさらに良い効果が得られることである。高級ブランド企業グループの特徴的なシナジー効果に、人材とノウハウがある。独立した高級ブランドを維持しつつも、グループ共通の効率的なオペレーションのためのノウハウ共有や、経営人材を育成する場が提供されているのだ。

実際、欧州のコングロマリットは、ブランド自体は有名だが経営不振の企業を買収し、他グループの経営人材を送り込んで再生させている。その際、マーケティングや製造・物流・購買などのオペレーションの効率化や統合も行う。経営がうまくいっていない、という点をグループのシナジー効果でうまく補っているのだ。

規模の経済性やシナジー効果以外では、多角化による複数事業でリスク分散も可能になる。例えばLVMHでは、ワイン・スピリッツ事業の安定した利益を、流行などに左右されるファッション部門に充てることができている。LVMHのように業界をまたいだ多角化でなくとも、ファッション業界の単一ブランドであるよりもリスクは分散されるだろう。

高級ブランド市場におけるコングロマリットの成功要因

メリットがあると言っても、各ブランドの価値を維持し、成長していくことは極めて難しい。

その一つに、高級ブランドの希少性が挙げられる。通常の商品は、他社より高品質の製品を値ごろな価格で提供できれば市場シェアを取れ、それこそが勝ちパターンとなる。しかし、高級ブランドはそうはいかない。手間暇、貴重な原材料に加え、高価格で販売数量が少ないところにこそ価値がある。この点においては、規模の経済性は効かせることができない。そのため、敢えてコストがかかる材料による独自の製造、供給のコントロールなども行う等で希少性の高いブランドを維持しなくてはいけない。

もうひとつ、バックサイドではグループとしてのメリットを享受し合いながらも、各ブランドはあくまで独立していなくてはいかず、コーポレートブランドは通用しない。コーチの鞄が有名だからと言って、新しく買収したブランドにコーチの名をちらつかせてはいけないのである。その意味では、欧州の高級ブランドを消費者が購入する際、所属グループまで考慮しないのは、欧州コングロマリットが成功要因を意識し実現しているからとも言えるだろう。

これらの要因を理解し、難所を乗り越えるためのノウハウや人材を持ち、グループ全体で補完し合うことにコンロマリットの成功があると言える。

タペストリー社は今のところ、名称を変え、ブランド企業を買収し、多角化の方向性を示すにとどまっている。今後、企業グループとしてのメリットを生かしながら、それぞれのブランドを魅力的なものにできるのか、非常に興味深い。

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