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時代を超える老舗ブランド 価値継承の源泉は文化にあり――「タイムレスブランディング」Vol.1

投稿日:2023/05/23更新日:2023/11/08

目次

皆さんは老舗ブランドと聞くと、どんなイメージが浮かぶでしょうか。

「歴史があり、伝統を守り続けた、職人の技による丹念な仕上がりの商品。」「100年以上の歴史は当たり前。」「時代を超えて守り続けてきた。」 一方で新しさや変化がなく、人によっては退屈なイメージもあるかもしれません。しかし、そのようなイメージを覆す、老舗発の「新しい老舗ブランド」が生まれています。

これらが実践するブランディングとは、伝統的なモノづくりをしてきた老舗が、商品のデザインを今のトレンドに合わせて一新するといった新製品開発のレベルではなく、老舗ブランドだけが持つ歴史や伝統、モノづくりの職人技とこだわりをブランド価値の源泉としたブランディングを指します。

老舗ブランドが時代を超えて引き継いできた価値、つまり「タイムレス」なブランドの価値を再設計して、この先も継承し、サステナブルな経営を行うためのブランディング手法を「タイムレスブランディング」と名づけました。 この連載では、タイムレスブランディングについて、老舗ブランドが生み出した3つの新しいブランドを実践例にあげながら紐解きます。

※本稿は、グロービス経営大学院教員の沼野利和の指導のもと、4人の社会人大学院生(山根紀子、梁瀬晋也、末森玲子、庄司拓哉)が調査・研究を行った結果に基づいています。

「文化との相互発展」で続いてきた老舗ブランド

まず、老舗からこうした新しいブランドが生まれた背景を理解する上で、「老舗ブランド」の概要を押さえておきましょう。

なぜ時を超えて価値を訴求できるのか?

日本には300年を超える老舗企業が800社以上あり(帝国データバンク 全国「老舗企業」分析調査2022年 元号別 老舗企業数より引用)、さらに千年超えの企業も存在しています。なぜ、老舗ブランドは何百年もの時を超えて価値を訴求できているのでしょうか。

たとえば、創業千年を超えてあぶり餅を提供し続けている、一文字屋 和輔という老舗菓子店が京都の今宮神社の参道にあります。千年も売れ続けるなど気が遠くなる話ですが、千年前も現代も、今宮神社に参拝した帰りに和輔のあぶり餅を食べたいと思う気持ちは同じなのでしょう。

つまり、このあぶり餅が千年の時が経っても変わらず顧客に求められているのは、神社で無病息災を祈るという文化的な背景があるからです。

文化とブランド価値が相互発展する「リンゴの木」モデル

文化は、ある組織や集団、土地に根付いて長い時間を経て形成されるため、簡単には壊れにくい性質があります。多くの老舗ブランドが、文化に深く根付いてその価値を訴求し歴史の年輪を重ねています。

西陣織を例にとると、美しい着物を世の中に提供し続け、評価を受けることで、西陣織という文化は豊かになり、さらに栄えるでしょう。西陣織ブランドがその価値を発信し続けることで、制作側では匠の技により具現化される美意識に磨きがかかります。それらがさらに文化として蓄積されることで、より一層豊かな文化となり、この循環が西陣織の発展につながっていくのです。

こうした老舗ブランドが続けてきた、文化との相互発展的な関係のプロセスを、「リンゴの木」で例えてみましょう。

文化は土壌としてその土地と一体になっています。ブランドは木として、土壌が提供する栄養分で成長し、果実を実らせ、枝葉を茂らせます。やがて、その実や生い茂った葉は地面に落ち、肥沃な土地をつくり、循環していきます。老舗ブランドは、何百年とこの循環を繰り返し、価値を維持・向上させてきたと言えます。

つまり、文化がブランドの価値を向上・発展させ、ブランドの発展が文化を豊かにするという循環が、持続可能性を生み出すメカニズムなのです。

このような文化が持続的に経済的価値を生み出す考え方を、文化経済学者のデイヴィッド・スロスビーは「文化資本」として、6つの文化的価値(美学的価値、精神的価値、社会的価値、歴史的価値、象徴的価値、本物であることの価値)を示しています。(各価値の詳細は表1参照) これらの文化資本を活かすメカニズムを持つことで、ブランドの持続可能性が生まれてくるのです。

表1:デイヴィッド・スロスビー 文化的価値の指標

指標 意味 事例
1. 美学的価値 美・調和・形式など、直感的に美しい(心が揺れ動く)と感じる価値 西陣織や有田焼の様式美
2. 精神的価値 特定の集団にとっての価値 職人のもつクラフトマンシップ。老舗として代々持ち続けている価値観、仕事観
3. 社会的価値 他者との連帯感や社会における繋がりの重要性、社会への貢献といった価値 仕入先、顧客、地域との繋がり。長期にわたる関係性の維持
4. 歴史的価値 現在と過去の歴史との繫がりを映し出すもの 代々伝えられてきた過去から現代に繋がる歴史的なストーリー。使命感に繋がる「のれんを背負う」
5. 象徴的価値 建物や書画、物品など具体的な物を通してブランド・アイデンティティーを理解したり、文化的な価値に気づいたりできるもの ブランド価値を体験できるフラッグシップストア
6. 本物であることの価値 本物であると認められる価値 老舗として信頼感。海外のラグジュアリーブランドとのコラボレーション
※デイヴィッド・スロスビー『文化経済学入門―創造性の探究から都市再生まで』(中谷武雄・後藤和子(訳)、日本経済新聞出版、2002年)P56-57
筆者により一部加筆

しかし、文化資本を活かすメカニズムが、持続可能性を実現できると述べてきましたが、社会の激変によって文化そのものが衰退することもあります。また、様々な社会の激変に遭遇し、文化の衰退とともに消えていった老舗ブランドもあります。一方で、明治維新や戦後の近代化といった社会の激変を、様々な挑戦や革新を通じて乗り越えて生き残った老舗ブランドもあります。このような危機を乗り越えた歴史は、従来の業界の常識に囚われずに、文化資本を活かすメカニズムをアップデートしてきた歴史といえるでしょう。

新しい老舗ブランドから導き出した「タイムレスブランディング」

過去に様々な困難を乗り越えてきた老舗ブランドですが、現代においても厳しい状況です。伝統的工芸品の生産額は1998年の2,784億円から2020年には1/3の870億円まで減少しています。かつての危機を乗り越えてきた老舗ブランドは、いまこの時代をどのように乗り越えようとしているのでしょうか。

次回以降は、老舗発のブランドで、伝統を継承しつつも従来の固定観念を打ち破り、現代において唯一無二のブランド体験を提供する3つのブランド、HOSOO(西陣織老舗の細尾から誕生)、リスン(香老舗 松栄堂から誕生)、アリタポーセリンラボ(有田焼最大級の窯元弥左ヱ門窯から誕生)からタイムレスブランディングを紐解きます。

1つ目のHOSOOは、幾度も阻まれた海外市場の壁を破り、自らの固定観念を打破することで海外ラグジュアリーブランドと肩を並べるほどのポジションにまで登り続けています。

2つ目のリスンは、お香(お線香)の消費が減少する中、お香の香りの意味を刷新し、顧客の体験を通してブランド価値を高めることで、多くのファンに愛されています。

そして3つ目は、経営破綻から再建し、新しい文化との出会いの中でモダンラグジュアリーにシフトしたアリタポーセリンラボです。

これら3つのブランドはいずれも、人気ブランドとして注目を集めています。それでは、次の100年に繋がる新しい老舗ブランドを生みだす「タイムレスブランディング」について引き続き考えてみましょう。

(次回に続く)

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