東京オリンピック開会式に関わるクリエイターが解任・辞任に追い込まれた騒動は、ソーシャルメディアの影響力を改めて知らしめました。次々と発覚する問題に対し、組織委員会の方針が後手にまわっていると感じた人も多いのではないでしょうか。ソーシャルメディアが広く普及した状況において、このような問題は企業にとって他人事ではありません。経営的な視点から考えてみたいと思います。
キャンセルカルチャーで問われる企業姿勢
クリエイター2人の過去の言動は、いずれもソーシャルメディアで広がり、インターネットのまとめサイトやニュースサイトが取り上げることで、多くの人の知るところとなりました。
音楽を担当したミュージシャンは、過去の雑誌に掲載された障害者へのいじめが問題とされました。いじめに触れた雑誌の記事は1994年と95年ですが、それを紹介したブログの記事が2006年に公開されていました。2021年7月14日に組織委員会が、開・閉会式に関わるクリエイターを発表したことで注目が高まり、ブログが掘り起こされることになります。
ミュージシャンが「炎上」すると、次はクリエイターのコント公演が掘り起こされ、ホロコーストをネタにしていたと指摘されたのです。ミュージシャンは辞任、クリエイターは国際的な問題となり解任されました。開会式後には、出演を予定していた俳優が前日に辞退したことも報じられました。
このような、動きは海外では「キャンセルカルチャー」と呼ばれており、ハリウッドなどの芸能界やスポーツ競技などでセクシャルハラスメントを告発する「#metoo」も同様です。社会的な状況が変化していく中で、過去をどこまで問題にするのか、表現の自由を狭めるのではといった議論はありますが、経営的な視点からは大きなリスクとなります。
オリンピックのような世界的なイベントだけでなく、CMやキャンペーンなどで起用した有名人などの過去が、ソーシャルメディアで掘り起こされ「炎上」することはあり得ることです。差別やハラスメントが指摘されている事案にどう対応するか、企業の姿勢が問われることになります。
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ソーシャルメディアを聴くことでリスクを管理する
ミュージシャンに関しては、問題が掘り起こされてニュースになった時に「分かっていたはずだ」という声がありました。何度か話題になっており、ソーシャルメディアを確認していればリスクは把握できたということです。先程、企業の姿勢が問われるといいましたが、準備していれば対処の方法も変わってきます。
ソーシャルメディアの活用となると「バズる」といった情報発信に注目が集まりがちです。しかし、それよりも大切なことは、ソーシャルメディアの声(書き込みや写真)に耳を澄ますことです。これをソーシャルリスニングと言います。
ソーシャルリスニングしていればミュージシャンの問題は事前に把握できたでしょう。オリンピックは、平等や差別禁止、社会的責任などを憲章に掲げているイベントです。過去の言動を曖昧なまま乗り切ることは厳しいことが分かるはずです。
一方で、ソーシャルメディアで話題になってもリアルな影響に至らないこともあります。グロービスの授業(ソーシャルメディア・コミュニケーション)で、ある有名なコーヒーチェーンがキャンペーン時に写真を間違えるという事例を分析したチームがありました。ソーシャルメディアで指摘があり、いくつかのニュースサイトが取り上げていましたが「炎上」には至りませんでした。キャンペーンをポジティブに発信する投稿に埋もれて目立たなかったのです。
ソーシャルメディアが「炎上」になることもあれば、問題にならないこともあります。どのようなリスクがあるか把握し、どう対処するか決めておくことは、経営的な判断といえるでしょう。
企業の価値を再確認し、機会を見出す
ここまでリスクを中心にお話をしましたが、ソーシャルリスニングからは、自社やライバルの製品やサービスに対し、ソーシャルメディア利用者がどのような感情を抱いているか、どのような生活シーンで消費しているかも分析することができます。そこから自社の価値を再確認して、機会を見出すことにも利用することができるのです。ソーシャルメディアは聴くことで、多くを教えてくれるのです。