フォトシンスやイタンジが好例、不動産業界の変革は新旧融合が必要 

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不動産業界の実態

不動産業界は細分化された市場で、かつ労働集約的で情報の非対称性も高い。この点、地理的・時間的制約や情報の非対称性の解消、集合知の蓄積や情報基盤の共有(クラウド化)などといったインターネットの特性と、理論的に相性が良さそうであるにも関わらず、デジタル化が進みにくいのが実態だ。人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」といった技術進化の中で、業界変革の突破口はどこにあるのか。

2014年設立 フォトシンスを例に

フォトシンス(東京・品川)は河瀬航大社長(28)が14年に設立し、世界で初めて後付けのスマートロックを開発・提供している。河瀬氏が鍵を紛失したとき、秋葉原で電子部品を買い集め、スマートフォンで解錠を可能にする試作機を製作したことが起業のきっかけとなった。

現在の主力製品「AkerunPro」は法人向けで、既存の鍵に貼り付けるだけで入室制限や入退室管理、勤怠管理を可能にするスマートロックである。設備導入コストや工事費の負担を抑え、2500社程度で利用されているという。

「全ての鍵をデジタル化させ、鍵を意識しない世界を創りたい。物理的な鍵の歴史は4千年といわれるが、ほとんど進化していない。IT(情報技術)がこれだけ普及している世の中で、物理的な金属の鍵を持ち歩いている未来は想像しにくい」と河瀬氏。AkerunProの開発にあたっては「課題を根本から解決するため、幅広い層の顧客に徹底的に聞き取り調査した」という。

その結果「ただ単純に新しい技術を使えばよいということではなく、顧客のニーズを的確に理解し、そのニーズにどれだけ早く正確に応えるかがIoT製品のカギと考えている。その意味では、より広く市場に浸透させるためにセキュリティーへの心理的イメージを払拭したい」と話す。

2012年設立 イタンジでは

イタンジ(東京・港)は伊藤嘉盛社長(33)が2012年に設立した。同氏は不動産業界に従事する一家に育ち、大学卒業後も一貫して不動産業界に身を置いてきた。

不動産仲介会社を経営した経緯もあり、単純作業の多さと非効率さとともに、ウェブマーケティングによる集客実績から不動産業界のデジタル化の可能性を実感した。現在、仲介会社向け自動顧客管理システムは200拠点以上で5~6割の利用者からの質問に自動回答。管理会社向け自動応答物件確認サービスは約100拠点で月約70万件を受電しているという。

伊藤氏は「不動産取引をデジタル化、自動化することで不透明性を解消し、人がより高度で重要な業務を行える世界を目指したい」と話す。

一方で「不動産業は社長の平均年齢が全業種の中で最も高く、85%以上が従業員5人未満と小規模事業者が多いなど、システム投資が進みにくい」と指摘。「データの蓄積により顧客対応力と生産性が高まるソリューションをクラウドシステムとして導入することで不動産賃貸・取引を変革したい」と語る。

一定の歴史的帰結から変革が起こりにくいのは、不動産業界に限った話ではない。長く変わらなかった業界であればあるほど、それを変革するには顧客や業界の心理や行動の変化を包含する必要がある。だからこそ、当該業界の利便性や生産性を高めるためには、より具体的で分かりやすい切り口から泥臭く参入し、古い業界における市民権を得て融合させることから始める必要がある。

 

(2017年8月3日付日経産業新聞の記事「VB経営AtoZ」を再掲載したものです)

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