KIBOWファンド投資先3社インタビュー:「起業家の志」に迫る
あなたは、社会課題にどのように向き合っているだろうか。
「何かを変えたい」という思いは、どこから生まれ、どのようにして事業という形を取るのか。その原動力を、最初から明確に言語化できている起業家は、実は多くない。
グロービス経営大学院の志領域の教員中村は、一般財団法人KIBOW(東京都千代田区、代表理事:堀義人、以下KIBOW)の投資先起業家が「なぜその事業に取り組むのか」という起業家の志を重視してきた。今回、KIBOW投資先3社の起業家・取締役にお話をお伺いして、業界や事業内容が異なっていても、意思決定の原点にはある共通した構造が存在するように思ったので、その内容をコラムにまとめてみた。
お話を伺ったのは、株式会社カケミチプロジェクト代表取締役の岡琢哉さん、GOOD COFFEE FARMS株式会社創設者兼CEOのカルロス・メレンさん、株式会社ラポールヘア・グループ代表取締役の早瀬渉さん、取締役の渡邉さやかさん。
インタビューを通じて浮かび上がってきたのは、家庭環境や原体験、徹底した探究、そして人生の転機に訪れる「偶然」——いわばシンクロニシティが、志として結晶化していくプロセスである。
彼らの言葉と意思決定の軌跡をたどることで、社会課題への向き合い方や、自らの志を見つめ直すヒントを提示したい。
以下、1社ずつ見ていく。
児童精神科医の決断:訪問看護「ナンナル」創業に見る、システムによる子ども支援の志
医師から起業へ:患者との触れ合いから生まれたニーズとシステム構築への喜び
株式会社カケミチプロジェクトは、不登校や発達障害などのメンタルケアを必要とする児童に訪問看護を提供するための訪問看護ステーション「ナンナル」を運営している。
代表取締役の岡琢哉さんは福岡県生まれ。祖父も父も医師という家庭に育ち、二人兄弟のどちらかは医師に、という静かな期待の中で育った。岡さん自身は、幼少期はレゴに熱中するような子で、高校時代は演劇部で舞台に立ちながら脚本を書いていた。
自分で世界の物語を作るのが好きな子どもだったそうだ。岐阜大学で精神科医としてのキャリアをスタートし、その後、東京都立病院と発達障害の専門クリニックで児童精神科医としての経験を積まれた。
起業に至った理由は、患者とその家族との触れ合いの中で感じたニーズと、医療現場で行えることの限界だ。
特に医療機関の中では、子どもと家族の「本当の困りごと」に近づくための時間的・空間的な制約を感じていた。自宅という生活の場で、30分という時間が確保でき、診療報酬の裏付けもある「訪問看護」という枠組みであれば、丁寧に子どもと家族に接することができると考えて、起業を決めたそうだ。

起業を後押しした3つのシンクロニシティ:システム構築へ向かう探究の軌跡
岡さんは、起業に至ったシンクロニシティとして、3つのお話をシェアしてくれた。
1. 自分の好きなことを追いかけ、輝いて見えた友人から「うつ」の病状を打ち明けられたこと。
2. 岐阜大学で入部したラグビー部の創設者が岐阜大学の救急部の教授で、命を助けられるかどうかの勝負は病院に来る前のシステム作りに掛かっていると教えてくれたこと。
3. 東京で師事した医師が研究と疫学の視点を持っており、メンタルヘルスの予防という意識を与えてくれたこと。
「医師として子どもの状態が良くなることに興味はあるが、それよりも看護師や協力してくださる方々とシステムとして子どもを支援できることに大きな喜びを感じる」という岡さんの言葉が印象的だった。
多忙な日々を過ごしながら、週末には岐阜市に帰り、子どもと虫取りをしたり、自然に触れたりしてエネルギーをチャージされているという。コーヒーを飲むことや筋トレもリフレッシュには欠かせないとのことだった。

グアテマラ内戦と父の教え:GOOD COFFEE FARMSが挑むコーヒーのトレーサビリティと使命
内戦で全てを失った父の教え:わずかなチャンスも見逃さない探究心
GOOD COFFEE FARMS株式会社創設者兼CEOのカルロス・メレンさんは、グアテマラで生まれ育った。
生活は楽ではなかったが、子どものころから「自分の人生には何かの意味がある」と考えていたという。「丘の上で未来の空想をするのが好きで、頬をなぞる風が世界の反対では誰の頬をなぞったかに想いを馳せていた」と話す。
生活を一変させたのは、グアテマラの内戦だった。
外資系の石油会社に勤務していたメレンさんの父親は、内戦によって仕事を失った。しかし、メレンさんの父親はあきらめなかった。
何社もの就職試験に応募し続け、ついにゴルフ場のキャディーの職を得た。メレンさんが「カッコ悪いよ」と言っても「面接へ進めない以上、何か他のことをするしかないんだ」と説明した。わずかなチャンスも見逃さなかったメレンさんの父親は、ペプシ・グアテマラ社長の運転手を経て、ついには同社長の第一秘書にまで昇進した。
来日したメレンさんは、父に倣い、有力者と繋がるべく六本木の高級バーに通った。その結果、日本に来る南米や欧州の大使、多国籍企業のCEOと親交を深めた。そうして培った人脈を生かして、2006年からコーヒーの輸入を開始。2010年には中古自動車&部門会社を設立し、日本の中古車と中古タイヤを海外に向けて輸出を始めた。さらには、グアテマラの厳選した高級コーヒー豆を提供するDARKS COFFEE(ダークスコーヒー)を立ち上げた。
順調にビジネスを拡大していく中でも、メレンさんは常に「自分の人生に与えられた使命は何か」を考え続けていた。そうした観点から興味を持ったのが、コーヒーのトレーサビリティとサステナビリティだった。

天職と確信した瞬間:農民の生活を豊かにしたコーヒーとトレーサビリティの実現
メレンさんのシンクロニシティ経験は、コーヒーと出会ったことだそうだ。
同郷の立場から「なぜコーヒーのトレーサビリティとサステナビリティが必要か」を農家の人々に心から説明した。さらに、農民の気持ちを理解するために、2017年の6か月間をコーヒー農業の現場で過ごした。その経験を基に、自転車でコーヒーチェリーの果肉を除去するBicycle Coffee Pulperを発明した。
メレンさんの取り組みが実り、高品質なトレーサビリティとサステナビリティを満たすコーヒー豆を出荷できるようになった農家は数知れない。農民の生活が豊かになり、泣きながら感謝してくれたとき、メレンさんは「この仕事が天職だ」と感じたという。
現在はその取り組みをグアテマラにとどめず、コロンビア、ブラジル、さらに今年からインドネシアへと広げている。
「人生とは辛酸を転じて福となす物語といえます」と語るメレンさん。「祖国グアテマラで一番美味しいコーヒーを創ること」を目指して取り組みを続けている。

東日本大震災で転機:ラポールヘア・グループが目指す、地域雇用とアジアでの働き方革命
東日本大震災が魂を入れた企画書:社長候補から社会貢献へと転じた決意
株式会社ラポールヘア・グループ代表取締役の早瀬渉さんは岐阜県生まれで、父は祖父の代から始めた小さな工務店を営んでいた。両親とも働いている家庭だったので、お祖母ちゃん子だったという。
小中高と剣道に励み、中学・高校時代は県大会で常に1~3位をとるほど。大学では、愛知産業大学の建築学科に進学したが、1年で退学し、父の会社を手伝った。その後、名古屋のIT専門学校の3年課程を経て、23歳で就職。当時マザーズ上場を目指していたベンチャー企業で、飲食店等の営業代行事業をしていたという。
「社長になりたい」という思いは、学生だった20歳のころから持っていた。
社長になる最短距離を探して、大企業、外資系企業、中小企業、ベンチャー企業の4種類の会社でインターンシップを経験した。その後、美容チェーンの立ち上げ等にも関わりながら、モッズ・ヘアに入社。直営店およびフランチャイズ事業、商品事業、ブランディングを統括する役員を歴任した。
社長候補として目される中で、転機となったのは東日本大震災だった。災害対策本部長に任命され、被災地に心を傾ける中で、「このまま資本主義でガツガツ儲けていくよりも『経営者として何かしなければいけない』という想いが強くなった」という。
震災が早瀬さんにとってのシンクロニシティだったといえるだろう。
実は3年在籍したモッズヘアでは、過去にボツにされていた企画書があった。それがラポールヘア・グループの企画案だったそうだ。早瀬さんは「震災がこの企画書に魂を入れてくれた」と話す。
1号店は被害が大きかった宮城県石巻市にオープンした。仙台から石巻に通って、復興を手伝っていると、工務店の息子で大工ができることが助けになった。
早瀬さんのバックグラウンドと、志との「不思議な縁」を感じずにはいられない。

渡邉さやか氏の原点:11歳のネパール体験と国際協力、途上国ビジネス支援へ
取締役の渡邉さやかさんは長野県出身で、両親は公務員という家庭で育った。国際的なキャリアを選んだきっかけは、11歳のときに初めての海外で行ったネパールでの経験だ。ストリートチルドレンを目の当たりにした際に社会や生まれ育ちによる格差に違和感を感じ、「私は途上国に関わることを考えたい」と強く思ったという。その後、ICU(国際基督教大学)で学士号、東京大学大学院で修士号を取った。
ビジネスを通じた社会への影響が益々大きくなっていくことを感じ、2007年に外資系コンサル会社に新卒入社。
3年後には国際協力の世界に戻るつもりでいたが、東日本大震災の影響もあり日本国内の課題にも向き合い始め、2011年に一般社団法人re:terra(後の、アジア女性社会起業家ネットワーク)を設立、代表理事に就任した。ASEANを中心に女性起業家たちのネットワーク構築を支援する。2017年に早瀬さんと結婚し、2022年より長野県立大学大学院で教員も務めている。
「消滅可能性自治体」を救う雇用創出:女性が働きやすい環境とアジア展開の展望
今後の展望について、早瀬さんは「消滅可能性自治体と言われる人口減少地域で、特に女性の美容師が、ライフステージが変化しても働き続けられる場をつくる」と強調する。当面国内を優先して、地方スーパーの空きテナントなどに積極的に店舗を拡大していく方針だ。
店舗スタッフは勤務形態をフレキシブルに選択し、自立して自由に働ける働き方を奨励している。女性が働きやすい環境づくりに力を入れており、働き手にとっても魅力的だ。
さらには、アジアでの美容事業展開も視野に入れる。現在はベトナムで1店舗を展開し、タイでも支援先を1店舗持つ。日本と同様、ジェンダーによって働くことに制約がある状況を打破し、誰もが就労しやすい環境を整備した美容室の展開を目指している。

社会課題解決を目指す起業家へ:KIBOW投資先3社からのメッセージ
最後に、3人の創業者(岡さん、メレンさん、早瀬さん)から、これから社会課題の解決を目指す起業家へのメッセージをいただいた。
岡さん:「社会問題は自分が何とかしなきゃと思っても、自分だけでは太刀打ちできない。人を巻き込み、考えを分かってもらってチームで取り組んでいってほしい」
メレンさん:「人生を賭けるならば、社会に大きなインパクトをもたらすことに挑戦しよう。サステナビリティ事業を行うことは、経済、社会、環境の全てに貢献することだ」
早瀬さん:「会社は生んで、育てて、最後をどう扱うかという3ステージがある。社会課題への根本的な体験、想い、熱量のある方にぜひ一歩踏み込んでいただきたい」
まとめ:志は、探すものではなく「育んでいくもの」
3社4人の起業家の歩みを振り返ると、ひとつの共通した構造が見えてくる。
それは、志が最初から明確に存在していたわけではない、という点だ。
医療現場で感じた違和感、内戦を経た家族の生き様、震災という圧倒的な出来事、幼少期に抱いた社会への問い。彼らはそれぞれの原体験を起点に、探究と行動を積み重ねてきた。その過程で出会った偶然や人との縁——シンクロニシティが一本の線としてつながり、「なぜこの事業に取り組むのか」という志として言語化されていった。
志とは、最初から完成されたものではない。むしろ、迷い、回り道をしながらも現実と向き合い続けた結果として、徐々に立ち上がってくるものだと言えるだろう。
社会課題の解決を目指すとき、明確な使命や完成された構想が見えていなくても構わない。
問いを持ち、行動し続けること。その先にこそ、自分自身の志と出会う瞬間が訪れるのかもしれない。
KIBOWファンド投資先3社の実践は、そのことを静かに、しかし確かに示している。
(社会課題の解決を目指す事業に興味がある方や起業志望の方におすすめの動画はこちら)
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