「連続的/非連続的」という概念は、かつてイノベーションを研究する現場で注目されました。つまりイノベーションには、地続き的に徐々に進化していく場合と、飛び地的に一気に飛躍する場合と2種類あるという考察です。著名なイノベーション研究者であるヨーゼフ・シュンペーターは、非連続的なイノベーションを次のように喩えました――「いくら郵便馬車を列ねても、それによって決して鉄道を得ることはできなかった」と。
私たち人間の成長にも、「連続的/非連続的」といった2つの場合がありそうです。
連続的成長
日々、知識・技能を習得し、経験を重ね、人脈を広げていくと、次第に職業人としての進化・深化がなされていきます。過去の自分、過去の意識、過去のやり方と連続する形で、一歩一歩変わっていくのが連続的成長です。「改良・改善的成長」「地続き的成長」と言い換えてもいいかもしれません。
連続的成長の場合の、投じる努力と得られる変化には次のようなものがあります。
〈比例変化〉とは、自分の投じた努力に比例して変化がきちんと起こる状況です。仕事はもちろん習い事やスポーツでも、始めたばかりのころは勉強量・練習量に比例して能力がきちんと上がっていきます。
ところが、何事もある程度のレベルに上達してくると、何か「カベ」のようなものにぶち当たり、成長が鈍ってきます。そのように、努力に対する変化の度合いが徐々に小さくなっていく状態が〈逓減変化〉です。
非連続的成長
〈逓減変化〉の末期になると、私たちは、努力しても、努力しても、状況になかなか変化が起きない状況に遭遇します。しかし、それでも努力を止めなかったとき、ふと突然に、ジャンプアップの変化が起きるときがあります。
英語習得の場合を例にあげると、私は米国に留学した当初、ヒアリングに難を覚えました。しかし、3カ月後くらいに、すぅーっと耳に通ってくる状況(英語の場合は、頭の中で翻訳プロセスを通さず、ダイレクトに英語でものを考えること)が起こります。これは自分の言語能力のレベルがぽんと変わった瞬間です。これが非連続的な能力の向上です。
非連続的成長は、「革命的成長」「飛び地的成長」と言い換えることもでき、過去の流れと分断された形で何か変化が起きることをいいます。
意識面での非連続的成長
日ごろの業務においても、ひとつのスキルの鍛錬を重ねていくと、技術的に非連続的な成長を得るときがあります。しかし、職業人としての非連続的成長は、こうした技術面より、意識面のほうがはるかに重要です。
働く意識の非連続的成長について、ピーター・ドラッカーは音楽家を取り上げ、こう書きます。
「指揮者に勧められて、客席から演奏を聴いたクラリネット奏者がいる。
そのとき彼は、初めて音楽を聴いた。
その後は上手に吹くことを超えて、音楽を創造するようになった。これが成長である。
仕事のやり方を変えたのではない。意味を加えたのだった」―――『プロフェッショナルの条件』より
人は仕事に大きな意味を見出したとき、それに向き合う意識ががらっと変わります。それこそがまさに、心が非連続的な跳躍をしたときです。心の次元が変われば、技術をどう用いるかの意識も変わり、仕事のアウトプットの次元も変わります。そうした観点からすると、意識面での非連続的変化は仕事を根本的に変える大きな出来事だといえるでしょう。
努力を重ねれば必ず非連続的成長は起こるのか?
さて、私たちは努力を重ねる日々を送っているとき、何かしら劇的な成長や変化が起こるのを期待します。仕事やキャリアが停滞している状況であればなおさらです。しかし、努力を重ねれば必ず非連続的な変化が起こるのでしょうか……。
私たちは現在から一瞬先の未来のことはわかりません。ここが人生の重要な部分です。誰しも投じた努力が100%報われることがわかっているなら、努力を惜しみません。
ところが、努力を重ねても、自分が期待する大跳躍は永遠に来ないかもしれません……〈下図パターンA〉。世の中を見渡せば、血のにじむような努力をしても、ついによい変化が起きなかった人たちがいます。
結果的に起こるにしても、あとどれくらいの努力量をつぎ込み、どれくらいの期間経てば起こるのかはわかりません。1年後、5年後、いや、場合によっては明日かもしれません。〈下図パターンB〉
いや、そう考えている矢先、まったく努力などしない隣の能天気人間が、あっさりと成功を収めてしまうことだってあるのです。〈下図パターンC〉
ちなみに、このCの場合のジャンプアップは、努力の結果の非連続成長というより「ラッキー・リープ」(棚ボタ的跳びはね)と名づけるべきものです。ラッキー・リープした人間は、跳んだ分の中身が伴っていないので、事後にそこを埋める努力をしないと、身を持ち崩す危険性大です。
今の努力が非連続的な成長となって報われるかどうかは、やはり「天のみぞ知る」です。ただ確実に言えるのは、日々の地道な連続的成長の積み重ねがあってこそ、非連続的成長の準備は整えられるということ。古人の言い回しを使えば、人事を尽くして、大跳躍は天命に任せる、ではないでしょうか。
最後にまとめの言葉を2つ。
「かなったか、かなわなかったかよりも、
どれだけ自分が頑張れたか、やり切れたかが一番重要」
───三浦知良(プロサッカー選手)
「ここまでダッシュと思ったら、最後まで全力で走る。
1メートル手前で力を抜いたせいで負けることもある」
───岡田武史(元サッカー日本代表監督)
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