KSFとKBFの関係を説明できますか?

今回は、戦略論の重要なキーワードであるKSF(成功のカギ:Key Success Factors)とKBF(重要購買決定要因:Key Buying Factors)について改めて確認してみます。

予め断っておくと、この2つの用語は経営学者が使う学術用語というよりは、コンサルタントや経営者、企画担当者などが実務的に使う用語です。そのためか、使う人やコンサルティングファームによって微妙に定義も異なっています。本稿では、典型的な定義をご紹介しつつも、それ以外の考え方についても簡単に説明します。

まずKSFですが、これは一般にはある業界における成功のカギを意味します。たとえば、日本の商業銀行では企業規模がKSF、私立大学業界では優秀な学生とそれを引き寄せる就職のしやすさ(卒業生のネットワークや活躍度合い、評判)などがKSFになるということです。

KSFは通常は業界における成功のカギを意味し、個社レベルではあまり用いられません。たとえば、ビール業界におけるKSFとはいうものの、キリンビールのKSFとは言わないということです(ただし、このようなケースでも個社レベルでKSFという言葉を用いる人はいます)。

個社レベルで用いるのは、それまでにない事業を創造するような場合です。たとえばおよそ20年前にアマゾンは書籍のネット販売を始めました。この場合はそもそも業界が存在しなかったわけですから、ネット書籍販売業界のKSFとは言わずに、アマゾンのKSFは何か、などと言ったりするのです。

KBFは文字通り顧客がその製品・サービスを購入する際に重要となってくる要因を指します。ただし、これは大きく2つの考え方があります。

1つは、顧客ニーズの中でも特に顧客が重視するものをKBFとする考え方です。たとえば、クリーニング店であれば家からの近さ、あるいは価格の安さをKBFと考えるというものです。

もう1つの考え方は、顧客ニーズは踏まえつつも、実際に顧客の購買行動に影響を与える要因をKBFと考えるというものです。たとえば最近はネット証券も増えてきたので多少様相は変わりましたが、かつては、個人向けの証券販売において、顧客の購買に大きく影響したのは証券会社の営業担当者の多少強引な営業活動でした。これは顧客のニーズではありません。しかし、実際にそれが顧客の購買に影響を与えるなら、それをKBFと考えようということです。かつての生保業界における義理・人情・プレゼント(これをGNPと言いました)もこのタイプのKBFと言えます。

KBFはこのように人によって多少異なった意味合いで用いていることは念頭においてください。

さて、それではKSFとKBFの関係はどうなるのでしょうか。それを図示したのが図1です。

この図からも分かるように、KBFはKSFを考える上での1要素であるということです。ただし、現実を見ると、KBFを満たせるような状況を作ることが、そのままKSFにつながることが少なくありません。その意味で、1要素ではあるものの、非常に大きなヒントを提供するということです。

たとえば顧客のKBFが価格の安さというケースはよくあるパターンです。そのようなケースでは、低コスト体質を構築することがそのままKSFとなるケースが多くなります。そしてそれは結局、企業規模を大きくして規模の経済性を効かせることで実現するというパターンがかなりの部分を占めます。

一方で、業界でのKSFが顧客のKBFとはそれほど関係しないケースも存在します。たとえば石油元売り業界やダイヤモンド販売業界、レアメタル業界などでは、顧客のKBFを満たすこと以上に、調達ルートを確保することが事業の成功上、非常に重要になります。石油元売り業界であれば油田を確保するということです。これは文字で書けば簡単そうですが、現実には現地政府(往々にして新興国で政情が不安定、あるいは民主主義が浸透していない)との関係構築など、非常にドロドロした世界です。この例からも分かるように、顧客のKBFを知ることはKSFを考える上で大きなヒントを提供することが多いものの、常にそれが成り立つわけではないのです。こうした限界がある点はしっかり理解しておいてください。

KBFがKSFのヒントとなる場合でも、話がややこしくなるケースとして、KBFが顧客セグメントごとに大きく異なるというケースがあります。こうしたケースでは、どのセグメントのKBFを満たすことがビジネスの成功上重要かをしっかり考える必要が生じるのです。

例えば、いま日本でも話題のカジノというビジネスを考えてみましょう。現在、世界で最もカジノが盛んな地域はアメリカのラスベガスではなくマカオです。マカオはいまからおよそ10年前にラスベガスを逆転し、近年、ますますその差を広げています。ではマカオにおける顧客のKBFは何かと言うとこれが微妙なのです。

一般の市民や海外からの観光客にとっては、非日常的な興奮が味わえることなどが重要なKBFになります。これはラスベガスのカジノとほぼ同様です。

一方で、マカオのカジノが伸びた背景には、それとは別の顧客セグメントの別のニーズ、KBFがありました。端的に言えば、アングラマネーのマネーロンダリングと、政府高官(特に中国)に対する賄賂という需要を低リスクで満たすということです。このKBFを満たすためには、規制当局との「良好な」関係構築など、ラスベガのカジノとは全く異なるKSFを満たすことが必要になるのです。顧客数からすれば必ずしも多くはないセグメントのKBFが、事業のKSFを大きく左右するのです。

KBFからKSFのヒントを得ようとする場合には、こうしたことにも目を向ける必要がある点は忘れないようにしたいものです。

ちょうど日本でも統合型リゾート施設(IR)推進法案が国会を通過しました。立地型ビジネスという側面はあるとはいえ、「クリーンな」日本のカジノがマカオのカジノとどの程度競争できるかは非常に注目されるところです。

【参考:ケースを使って経営戦略を考える】
航空会社の「新規参入の脅威」から経営戦略について学ぶ(所要時間15分:解説付き)

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