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第3回 身近に起きているメンタル不調

投稿日:2008/06/11更新日:2019/04/09

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ストレス過剰時代には“社員の心のありよう”が会社の業績を左右する――。個人あるいは職場全体のストレス状況の把握から、早期予防、事後対策、職場復帰に至るソリューションを、先進企業事例とともに解説した書籍、『ビジネススクールで教えるメンタルヘルスマネジメント入門―適応アプローチで個人と組織の活力を引き出す』(佐藤隆・著、グロービス経営研究所・監修)から、「第1部 基礎編」の内容を、今回、発行元であるダイヤモンド社のご厚意により、特別に抜粋して5回連載として再掲載します。メンタル不調に対峙する「適応アプローチ」について解説した前回に続き、今回は具体的なメンタル不調のケースをご紹介します。書籍には、具体的対処法が企業経営の視点から詳説されていますので、そちらも是非、手に取ってご覧ください。

今回は、筆者が実際に相談を受けたことのある、職場でのメンタル不調のケースを紹介しましょう(多少設定は変えていますが、事例のエッセンスはそのままです。また、氏名はすべて仮名です)。こうした事例は、今やあらゆる職場で起きており、他人事ではありません。

ケースA:トップランナーの突然のメンタル不調

A銀行に勤める高橋さんは「文武両道」を絵に描いたような人物でした。銀行では「将来を背負って立つ男」と評され、エリートコースをトップランナーとして走り、海外赴任先のイギリスでは大学院でファイナンスの博士課程も修了しました。

異変が起きたのはイギリス赴任から帰国し本店に異動してからです。15名の部下の管理に加えて、グローバル化に向けてのITシステムの大幅改訂があったことで新規業務が増大し、深夜まで勤務する状態が続きました。

転勤から3カ月、デスクでボーッとしている姿が目につくようになり、周囲から「おかしい」という声が聞こえはじめます。上司の坂崎さんは、高橋さんの妻から「夫が夜中に殺されるとうなされている」という内容の電話を受けました。

大学の同期会があったのはそんなときです。現場の知識と経験をたっぷり吸い込んだ友人たちは、高橋さんにとってギラギラした真夏の太陽のようにまぶしいものでした。酒を酌み交わしながらの喧々諤々の議論のなかで、高橋さんは大きな衝撃を感じ、「生まれて初めて負けた」という挫折感を味わいます。順風満帆の上昇気流しか経験したことのない高橋さんの挫折は重症でした。

「俺は今まで海外勤務で何を勉強していたんだ。博士号をとったところで、大学の教職の道に進めるわけでもない。それにひきかえ、同期の連中は、人間関係のつくり方、交渉術、仕事のこなし方と、俺の知らないことを身につけている。俺は負けた・・・」

高橋さんの妻が、見かねて総合病院につれていったところ、うつ病につき休養を要するとの診断が出ました。それを高橋さんから聞いた坂崎さんは言いました。

「俺も若いとき、似たような辛い経験をしたが、耐えた。この大事なときに休むことは、将来のポストを捨てることになる。辛いかもしれないが、踏ん張りどころだ。お前の将来を心配しているんだ」

高橋さんは、現場に回してほしいと訴えたのですが、坂崎さんは「それでは上司の管理責任を疑われる」として、受け入れませんでした。

「俺の脳は傷ついている。頭が悪くなり、記憶力も落ちている。そんな男が将来に組織の幹部になったら、会社が不幸だ」

高橋さんはこう思い込むようになり、徐々に会社を休みはじめるようになりました。そして妻にも「俺の頭はおかしくなった。俺と一緒にいると君まで不幸にしてしまうから」と離婚を申し出、とりあえず別居することになったのです。

高橋さんは自ら専門医を訪れ、CTスキャンや脳波検査を受けましたが、異常は見られません。知能検査も受けましたが、結果はIQ130という最高レベルの数値でした。それでも高橋さんは「俺の頭はおかしい」と主張しつづけました。

その後高橋さんは休職し、1年後、職場を去りました。

ケースB:少数精鋭の職場で起こった「ドミノうつ」

B社は躍進を続ける外食産業の雄です。ここ数年は、M&A(企業の合併・買収)により他社を吸収合併して拡大を続けていました。仕事量も急増しつづけましたが、即戦力の中途採用が追いつかず、慢性的な人手不足でした。そのなかで、都心にあるQ支店は売上げトップクラス、他社との競合も激しいという重要拠点であったため、会社は常に優秀な人材を投入し、少数精鋭主義で戦いを挑んでいました。

激務が続くなか、最前線の営業担当・石井さんが、会社の大事な会議のたびに欠勤するようになりました。上司が心配して医師への受診を勧めたところ、「うつ病」と診断され、石井さんは休職することになります。たび重なる深夜業務によって、疲労が蓄積したことが病気を招いたのです。石井さんの穴埋めには、同僚のまじめで几帳面な斉藤さんがカバーに入ることになりました。しかし、当然のこととして、多忙なときは残業するという社内文化があり、斉藤さんも2人分の業務を抱え、深夜まで働きました。しかしこのような激務が続いたことから、うつ病になり、休職することとなったのです。

急に2人の休職者が出たわけですが、人材不足の同社では、人員の補充は直ちにはなされませんでした。2人の抜けたあとを担当した千葉さんが、顧客や商談先の苦情を一手に引き受け、深夜まで対応していたのですが、そのうち彼も会社に来なくなってしまいました。ユーザーからは苦情が矢のような催促です。

ある日、千葉さんの妻から会社に電話が入ります。千葉さんが急に家から姿を消し、3日後に遠く離れた地方都市で保護されたとのことでした。千葉さんの鞄のなかには、重要な顧客リストとその営業成績の数字が入った資料がありました。

ケースC:安全配慮義務違反で訴訟騒ぎに

金城さんは、東京の大手旅行代理店、C企画社に入社しました。イベント企画営業推進部に配属され、3年になります。最近、折からの東京の外資系ホテルの参入ラッシュに合わせ、新規顧客開拓のプロジェクトチームが発足しました。自社内だけではなく、広告代理店やホテルなど、社外スタッフとも混成チームを組むことになりました。

専務の田辺さんは金城さんを呼び出し、社運をかけた重要なプロジェクトであることを告げ、そのチームリーダーとして金城さんを指名しました。C企画社は社員モラールも高く、またメンタルヘルス管理職研修やうつ病チェックも定期的に実施するという、メンタルヘルスには熱心な会社です。

さて、いざプロジェクトが始まってみると、寄り合い所帯のため業務のルールなどが不明確で、皆、勝手に出身元のルールに従って動き、大混乱に陥ってしまいました。何一つ権限を与えられない金城さんは、一つひとつ田辺さんの決定を待たねばなりませんでした。昼は調整業務、夜は報告書作成で残業・休日出勤が続き、睡眠時間は3時間程度となってしまいました。やがて不眠状態となり、たまりかねて田辺さんに「私にはプロジェクトリーダーは務まりません。皆様に迷惑をかけます。もう死にたいです」と真剣に訴えました。

しかし田辺さんは、メンタルヘルス研修の傾聴法を受講してきたばかりということもあって、たっぷりと時間をとって金城さんの話に耳を傾けました。そして「気持ちはわかる」「そんなに一生懸命やらなくてもいいから」「ゆっくり休むように」と繰り返しました。そして、また1週間後に話し合う約束をして別れたのです。

しかしその1週間後、金城さんは一人暮らしのアパートの自室で自傷行為に至ってしまいます。幸い、偶然に訪ねてきた家族に発見され命をとりとめましたが、重い後遺症が残ってしまいました。机の上には1カ月前に会社が実施した某医療機関によるうつ病診断テストが置いてあり、「なるべく早く医師に相談するように」の箇所に印がつけてありました。

家族からは、「息子の状態に気づかずに放置したのは安全配慮義務違反ではないか。会社を訴えることも考えている」という電話がありました。田辺さんは、会社はコンプライアンスを大事にし、メンタルヘルスにも力を入れていたのに「なぜだ!」と絶句してしまいました・・・

こうしたメンタルヘルスに関わるトラブルは、皆さんの会社で今起こっているだけではなく、皆さん自身にもいつ降りかかるかわからない問題となっています。こうした事態が起こっているにもかかわらず、対処しなかったり、対処を間違ったりしては、会社にもあなた自身にも多大なダメージを与えてしまうことになるのです。

次回は、今回紹介したケースについて、どのように対処すべきであったか、分析します。

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