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短期視点の株主が諸悪の根源なのか?

投稿日:2016/09/12更新日:2019/04/09

前回、「敵対的M&Aが善だ」と書いた私は、ファイナンス・スキルを使いこなして株式投資で儲ける世界を、(行き過ぎな例はあるものの)全体として肯定する派です。しかし、こうしたグローバル資本主義に対する批判は世界的に高まっており、「強欲株主が会社経営を短期志向に駆り立て、格差を拡大し環境を破壊し人心を荒廃させている」という意見は多くの支持を得ています。これらの社会問題の重要性を否定するつもりは全くありませんが、株主や資本主義を犯人扱いして問題が解決するのでしょうか?

日本的資本主義は世界の最先端?

経営論の大家ヘンリー・ミンツバーグ教授は近著『我々はどこまで資本主義に従うのか』で、民間セクターと政府セクターの綱引きでは不十分、そこに宗教団体、NGO、社会事業などの「多元セクター」を加えて3つのセクターで社会のバランスを取るべし、と説いています。セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフCEOは、「会社は株主だけのものではなく顧客、従業員、取引先、地域の共同体、そして地球まで含めた『ステークホルダー』のものだ」という「公益資本主義」を掲げており、同社を筆頭にシリコンバレーの多くの会社が慈善活動を経営戦略に組み込んだ企業文化の醸成に力を入れています。

これらの風潮を受けて、「会社は社会の公器であり株主のカネ儲けの道具ではない」という日本的会社観は、むしろ時代を先取りしていると誇りたくなる人もいるでしょう。しかし私には、この株主利益=短期的な利己主義=資本主義の弊害、という構図の単純化は、日本における資本主義と株式会社のあり方を検討する上で本質をはずしている気がしてなりません。

周回違いの資本主義

一口に資本主義といってもその中身は変遷していますし、米国でずっと株主が強かったわけではありません。米ソ冷戦時代は共産主義との対立軸で、国家の計画主導と民間の自由市場主導のどちらがより強い経済体制を築けるかという争いでした。1960~70年代の米国は「所有と経営の分離」が進み、プロフェッショナル経営者が強力な組織を作って成長を主導し、株主投資家は受け身な存在でした。

米国で株主の力が強くなったのは1980年代以降です。企業経営が高度化・複雑化する中で株主による経営コントロールが及ばなくなり、大企業では経営者による会社の私物化や官僚化が進んでいました。時代の変化に素早く適応できず国際競争力を失っていく大企業の統合・再編を促す中で、機関投資家を中心に株主の力が増していったのです。その過程で敵対的M&Aの是非についてもさんざん議論されていました。結局、競争力を失った会社が淘汰・再編され、資本や労働力がより成長性の高い産業にシフトするのは健全だ、という考えが米国では支配的になり今日に至っています。

ミンツバーグ教授が危惧しているのは、むしろ自己中心的な経営者と株主の短期的利害が一致し、さらにロビー活動等を通じて政府とつるむような動きが、既得権益層を守って自由でバランスのよい競争環境を破壊してしまうことです。民間セクターが強くなり過ぎて政府が効果的に制御できなくなる状態を「行き過ぎた資本主義」と懸念し、そのバランサーを株主に期待するのは無理なので、宗教団体・NGO・社会運動などの活動を活発化させる必要がある、と彼は主張しているのです。会社の長期安定的経営が強欲株主により壊されてしまうという日本的な株主脅威論は、米国では30年前にされていた議論で、今日の企業による環境破壊などの外部経済性の議論とは論点が違います。

公益資本主義の実態

こうした流れの中で、昨今シリコンバレーを中心に行き過ぎた株主利益至上主義修正の動きが広まっています。もちろん、この件に関しても「最先端の米国企業は伝統的日本的な考え方を取り入れている」と考えるのは早計です。

第一に、経営者に対する株価プレッシャーは日米の間に比較にならないほどの差があります。日本で「もの言う株主」の力が強くなったと言っても、多くはキャッシュを抱きかかえたままじっとしている会社や一族経営の弊害が出ている会社が対象で、社員や取引先の利益をないがしろにして株主に還元せよという話ではありません。

第二に、これらシリコンバレーのベンチャー企業においては経営者や社員がストックオプションなどの形で株主になっています。彼らは自分達が株によって儲けすぎる世の中を自ら問題視していると言え、株主vs.経営者+社員という形で問題視されがちな日本の株主脅威論とは構図が違います。

第三に、シリコンバレー企業の「公益資本主義」は、産業構造の変化へ適応した結果だからです。資本主義とは、資本というカネがものを言う、大規模な工場設備が競争力のカギとなる産業において隆盛したで仕組みです。対して21世紀型のIT・ネット産業では、カネや規模よりヒトやコミュニティ認知・ブランディングが事業の成功を左右します。そういう事業モデルにおいては、カネの出し手である株主よりも、クリエイティブでモチベーションの高い人材を惹きつけることが重要になります。そのため、公益に配慮した企業理念を掲げてそうした人材を集め、企業ブランディングすることが事業成功の正しい戦略になります。そして、それは株主利益を最大化させることと全く矛盾・対立しない、私はそう解釈しています。

 

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