「社内政治」と聞いて良い印象を持たれる方はあまりいないでしょう。多数派工作などの消耗戦、正論が通らない不合理、社内ではなく社外の夜の席で物事が決まってしまう不透明さなど、悪い印象を数え挙げたらきりがありません。
では、ビジネスパーソンとしてそれに無関心でいていいかと言われたら、残念ながら答えはNOです。人間が集まればそこに意見の相違や好き嫌いが生まれ、派閥とは言わないまでも、それに類するグループが生じるのは人間である以上当然のことです。ビジネスが多くの人を巻き込んで何かを達成することと考えるのであれば、そうした人間の本性を無視していいはずはありません。
これは洋の東西を問いません。たとえば、アップル創業者のスティーブ・ジョブズは社内政治に敗れ、一度は自分が作った会社を追い出されました。その後、復帰してからはiMacのスマッシュヒット、iPodやiPhoneの大ヒットで不動の地位を確立しましたが、ジョブズが強権を振るえたのは、結果を出し続けることで、社内外に政治基盤を作れたからです。アップルではまた、より下のレイヤーにおいて、活発な多数派工作が行われているのも有名な話です。
成功したリーダーは、単なる夢想家や原理主義者ではなく、社内政治の使い方が巧みだった人間が多いとの調査結果もあります。また、人間は仲のいい人間と仕事をしたがるという抜きがたい本性を持っています。
さて、こうした中、ビジネスパーソンはどのように社内政治と付き合えばいいのでしょうか?
まず、過度なナイーブさは捨てる方が賢明です。社内政治を嫌悪する人ももちろんいるでしょうが、100%そこから自由になろうとしても難しいものがあります。業務の専門性が高く、個人だけでも一定の価値を出せる人間であれば「我が道を行く」も可能かもしれませんが、そういう人間は稀です。集団で結果を出すというビジネスの現実に立ち返れば、ある程度は社内政治の存在に目を向け、どうすれば自分の影響力を伸ばせるかを冷静に考えることが必要です。
その上で、自分がどのようなネットワークの中に入るべきなのかを考える必要があります(以下、「派閥」や「グループ」という言葉は生臭いので、あえてネットワークという表現を使います)。難しいのは、大きなネットワークの方が何かと仕事がやりやすくなる半面、自分の存在感が薄れてしまうことです。小さいネットワークはその逆の悩みが生じます。
ネットワークの盛衰が刻々と変わるという問題もあります。たとえば今自分が40歳の課長だとします。大企業になればなるほど、企業においてより重要な仕事ができる年齢は上がっていくことが多いものです。たとえば自分が50歳で部長になり、より影響力を及ぼせるようになった時に、誰が社内で力を持つかを予め予測するのは必ずしも容易ではありません。高度成長期のような見通しの良い時代であればそれも可能だったかもしれませんが、これだけ見通しの悪い現代では、「決め打ち」は危険を伴うのです。
このように、社内政治にはうまく立ち回っていくことが必要なわけですが、その中で自らの影響力を発揮するには、社内政治とは関係なく普段の業務の中で自分の能力や専門性を高め、被雇用能力を高めておくことが重要です。そうすると、皆が困った時に自分に相談するようになります。実力のない人間が社内遊泳術のみでポジションを築くことはできません。まずは自分ならではの基盤をしっかり社内で構築することです。
そして、自分はどのくらいの実力を持っていてどのように見られているのか。あるいは、社内にはどのようなネットワークが存在し、どのような力学が働いているのか。これらを冷静に観察してみることも重要です。
大きな仕事をして、キャリアを築きたいたいのであれば、だからこそ社内政治にうまく立ち回り、そこで力を発揮するためには何をすべきなのかということに向き合うことが必要なのです。