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税の歴史――システムは人々の行動をどう変えたか?

投稿日:2016/04/26更新日:2020/10/19

近年、特にグローバル大企業による、タックス・ヘイブンや複雑な内部取引スキーム(参考:「タックスヘイブン」、本当の意味は?)などを利用した過度な節税が問題になっていましたが、今年に入って、いわゆる「パナマ文書」の存在が明らかになり、「税」というものに対する関心がひときわ高くなってきました。

そこで今回は、税の歴史を簡単におさらいするとともに、税にまつわる有名なエピソードと、その時人々がどのような行動を取ったのかを振り返ってみましょう。

税のはじまりと発達

税の歴史は古く、人間が共同体生活を営み始めた頃から存在したと考えられています。当初の税は今とは異なり、お金ではなく、労役か、収穫物の一部を供出するというパターンでした(物々交換の時代ですから当然ですが)。共同体を安全かつ円滑に運営するための人類の知恵だったと言えます。

そのうち支配者や王といった存在が出現すると、彼らが課税権を持つようになります。古い時代の支配者のパワーは軍事力に裏付けられていました。つまり、力の強い者が支配者・権力者となり、民に税を課したのです(地域によっては、世俗的な権力者の他に、宗教上の税が課されることもありました)。

税は往々にしてそうした権力者が恣意的なルールで徴収します。多くの場合、民は従わざるを得ませんでしたが、あまりに重税が課された場合には、反乱や革命がおこったり、民がその国を捨てて移住するなどということが起きました。民が飢えて極端な人口減が起こるなどということもありました。そこで権力者も、時が下るにつれて、そうしたデメリットと税収のバランスを取るようになっていきます。それでも多くの場合、民は一方的に苦しめられる立場でした。

それが変わったのは、ヨーロッパでいくつかの革命を経て民主主義が浸透し始めてからです。アメリカ独立戦争では「代表なくして課税なし」が重要なスローガンとなったりもしました。搾取される一方の植民地もまだまだ多かったのですが、先進国では徐々に、税の徴収と分配は、国民の代表者からなる議会が主導する形に落ち着いていったのです。税の納め方も金銭での納税に変わっていきました。日本も概ねこのパターンを踏襲し、現代に至ります。

こんなところにも!?ユニークな税の例

さて、歴史を紐解くと、非常にユニークな税にまつわるエピソードがあったことがわかります。ここでは近世以降のものをいくつかご紹介しましょう。

空気税

ルイ15世時代のフランスで、シルエット財務大臣が考案した税です(ちなみに、影絵のことをシルエットというのは、彼の名前に由来します)。これは、空気を吸うと税金がかかるというかなり乱暴な税でした。度重なる戦争や王妃の散財で空になりつつあった国庫を満たすための案でしたが、さすがに各方面の反発を招き、廃案となりました。

それから数十年してフランス革命が起こります。革命の大きな原因はその時代の納税の不公平感でした。貴族などは納税を免除され、第三身分の平民にのみ重税が課されたことに民衆が立ちあがったのです。この空気税のような無理な税金を押し付けようとした記憶があったことも、王や貴族への反感を増したと言われています。

独身税

近年、少子化に悩む日本でも話題に上がった新税の案ですが、同じ問題に悩んでいたブルガリアにおいて、1960年代後半からおよそ20年間にわたって実際に独身税が施行されたことがあります。独身者は収入の10%程度を税金として納めるというものでした。

結果は散々で、かえって非婚化、少子化が進んでしまったようです。理由は、税負担が重く、若者が貯金をできないことから、それまで以上に結婚に踏み込めなくなったからとのことです。特に低所得者層でその傾向は強かったそうです。この結果を踏まえると、現在の日本でも独身税は少子化対策にはプラスにならなさそうです。

口税

江戸時代に実施された、家の間口(玄関)の広さに応じて町人に課された税です。当時の為政者であった田沼意次が幕府の財政強化のために行いました。家の床面積ではなく間口の大きさにしたのは、おそらく、測定しやすかったからでしょう。

町民たちは当然、家の広さはそのままに間口を小さくリフォームしました。新しく家を建てる場合は、当もちろん小さな間口の家にします。狭い間口は多少不便ではありましたが、人々はやはり税負担を嫌ったのです。

子ども服の低税率

かつてのイギリスでは子ども服は成人服に比較して税率が軽くなっていました。子どもはすぐに大きくなってしまいますから、親には助かる税制です。ただ、ここで問題となるのは、子ども服をどう定義するかです。税務当局が主観で逐一判断するわけにはいきませんから、大きさで決めることにしたのは自然な発想と言えます。

このルールの間隙を縫って発明されたのがミニスカートです。スカートに関しては丈の長さで税率が決まっており、ある長さ以下の丈だと、大人が着用したとしても子ども服並の税率で済むことに着目した人間がいたのです。ミニスカートはオシャレな女性や、多くの男性(笑)に支持され、その後世界に広がっていきました。

税制の基本に「シンプルであること」があるのですが、シンプルさは裏をかきやすいという、徴収側のデメリット(納税側からすると隙)もあるのです。日本の発泡酒や第3のビールも、比較的シンプルな酒税法の間隙をついた商品と言えるでしょう。

さて、税は国家の基本でもあります。日本でも毎年税制が変わったり新税が生まれています。しかし、それが当初の意図どおりに人間の行動を変えるかと言えば、そんなことはありません。どのような制度やシステムにも負の側面があることや、裏をかこうとする人間が必ず生まれることは意識しておきたいものです。

冒頭に触れたグローバル企業の租税回避についても、おそらく、どれだけ租税回避を防ごうとしても、必ず抜け道を発見する企業や人間は出てくるでしょう。そのいたちごっこがどのような結果をもたらすのか興味の尽きないところです。

今回の学び

今回の学びは以下のようになるでしょう。

・人々はフェアに扱われないことに強く反発する。それは時には莫大なエネルギーを生み出す
・制度やシステムは、意図が邪悪であってはならないし、施策も納得感のあるものでなくてはならない
・ある施策がどのような効果を生むかはイマジネーション豊かに事前に想像しなくてはならない。往々にして意図とは逆の結果をもたらすことがある
・人間は、ある数値で評価される場合、その数値のみを操作して自分の利益を最大化しようとする本性を持つ(ゲーミング)。測定しやすい数値を安易に用いるのは効果的ではない場合がある。費用対効果を慎重に見極めることが必要

 

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