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マツモトキヨシが追い求める物は何か?セグメンテーションの真実

投稿日:2016/01/07更新日:2019/04/09

「マツキヨ、『規模』追わず」の大きなタイトルが日経MJ12月11日号の一面トップを飾った。規模の経済を効かせて収益を上げるために、店舗数で覇権争いをしていたドラッグストア業界の雄に何が起きたのか。その戦略転換から、マーケティングの正しい姿を読み取ってみよう。

マクロ&業界環境の変化による戦略転換

記事によれば「ツルハHDが今年10月に四国地方地盤のレディ薬局を買収し、店舗数は1633店に拡大。約1540店のマツモトキヨシHDを追い抜いた。売上高でもウェルシアHDがM&Aをてこに猛追」(日経MJ12月11日号より)とある。いつの間にかマツモトキヨシは業界トップではなくなっていたのだ。だとすれば、また別のチェーンに目を付けM&Aで巻き返しを図るのが常道のように思うが、環境の変化がそれを思いとどまらせたようだ。人口減少による市場縮小によってドラッグストア業界はもはや飽和している。加えて、スーパーやコンビニ、ネット通販ではアマゾンや楽天などが参戦し、業際を越えた乱戦の時代に突入している。そんな環境下で規模争いは無意味、と競合と一線を画した戦略に転換したのである。

マツキヨの顧客分析

マツモトキヨシが目指すものは、より良質な顧客を囲い込んで客単価を上げることのようだ。そのため、まず顧客分析に注力している。「マツモトキヨシHDのカード会員は2千万人を突破、無料通信アプリLINEでの会員数は1300万人にのぼる。これら顧客基盤のデータを生かし、消費者の実像に迫る考えだ」(同日・日経MJより)という。

その手法としては、「これまでの年齢や性別といった属性だけでは顧客の購買動機は分からない。(中略)顧客のアンケートをもとに顧客の価値観を分析。購買データから約30のグループに顧客を分けた上で、『ゆるふわ』や『輝くママ』など約10個の価値観に分類する」(同日・日経MJより)という。その上で、価値観グループ別に販促を仕掛け、その打率を向上させようという意図だ。

セグメンテーションの基本を再認識しよう

ターゲットは「20代女性」とか、もう少し詳しくしても「都市部在住・20代・有職・未婚・女性」などというのが一般的であろう。前者は性別・年齢、後者は居住地域・年齢・職業・未既婚・性別というセグメントの切り口を用いているわけだが、前出のマツモトキヨシの担当者の言葉、「これまでの年齢や性別といった属性だけでは顧客の購買動機は分からない」が耳に痛くはないだろうか。

セグメンテーションの定義としては「不特定多数の顧客を、マ-ケティング戦略上、同質として考えられる集団(セグメント)にブレークダウンすること」である。問題は、何をもって「同質」と考えるかだが、マツモトキヨシはそこに「価値観」というキーワードを見出したわけだ。前述の「ゆるふわ」や「輝くママ」など顧客タイプにネーミングしてセグメント化することは、長くマーケティングをやっている者にはどことなく1980年代の香りを感じてしまうかもしれない。確かに当時からこのような顧客タイプを作ることは流行った。だが、それは「売る側の思い込み」の産物であり、「きっと20代女性はこんなものを買うよね」と考えて施策を練るのと何ら変わらない。そして「それではもはや当たらない」とマツキヨの担当者は言っているのだ。

マツモトキヨシの場合、膨大なデータ分析によって顧客の嗜好を明らかにしている。別の言い方をすれば、「顧客ニーズ」を明らかにして、きめ細かく対応しようという試みだ。つまり、セグメンテーションで何を「同質」として考えれば良いかと言えば、まずは「ニーズ」に注目することなのだ。顧客を性・年齢などの「属性」で括る(セグメントにする)のではなく、「同質のニーズを持った集団」に括ることが本来の姿なのである。顧客のニーズを明らかにすることはなかなか難しいが、マツモトキヨシはデータ分析によってセグメント化しようという試みに賭けているのである。

ファミレス業界に目を向けてみると・・・

前掲のマツモトキヨシは来店客・顧客には一律、とにかく安い価格で集客を図ろうというドラッグストア業界の手法に一石を投じようとしているわけだが、顧客を細分化し、その際にはニーズに注目することの重要性を考えさせられる事例があった。日経MJ12月21日号の、外食の値上げと「くら寿司」の展開に関する記事である。

同紙の記者が「日曜日の昼、兵庫県西宮市の店舗を見ると(くら寿司の)テーブル客の8割強が小学生以下の子供とその親という組み合わせだった。同じ時間帯に近隣のファミリーレストランをのぞくと、同様の親子客は1割。子連れでもスポンサーとぼしき祖父母が一緒だった」という状況だったようだ。この違いはどこから来るのか。「上質なメニューをそろえて客単価を引き上げるファミレスに対して、くら寿司は1皿100円(税抜き)を維持しながら多彩なサイドメニューを次々と投入(中略)家族4人なら3千~4千円で満腹になる」(日経MJ12月21日号より)という。

顧客を一律にとらえたり、ターゲットニーズに「思い込み」で対応しない!

ここしばらく、何となく景気のいい雰囲気が市場に醸し出されている。生活者にとっても総賃金は確かに増えている。そこで、ファミレスはメインターゲットであるファミリーにもプレミアムなメニューを増やして客単価を上げようとしているが、結果としてはファミリーが離れ、客単価は上がっているものの客数が減っている。自社客の中にも「多少高くても良いものを食べたい」というニーズを持ちプレミアムを受け入れる顧客はいたであろうし、ファミリーの中にもそれはいただろう。しかし、その比率は1割しかいなかったということだ。それに対して、くら寿司は「家族の外食にそんなにコストはかけられない」というニーズを持った顧客を吸引するため、客単価を維持してしっかりとファミリー層を集客している。

記事では「総賃金の伸びに比べると、消費者一人ひとりの所得の増加幅は小さい。厚生労働省の調査では10月の1人あたりの現金給与支給額は前年同月比0.7%増に留まり、主婦をはじめ働く人が2.2%も増えていることが総賃金を押し上げている」(同日・日経MJ より)という現実がある。好景気な気分につられて財布のヒモが緩むだろうというのは、売る側の思い込みだ。そこに気付くか否か。外食に対し、特に価格面に対してどんなニーズを持った顧客がどれだけいるのかを細分化して考えたか否か。それがファミレスとくら寿司の店内風景の違いという結果となって現れたのだろう。

マーケティングの基本は「まず、ありのままの顧客を見ること」だ。そして、マーケティングの戦略を決めるキモはSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)であり、そこがしっかり固まっていてこそ、4Pという「打ち手」を精度高く考えることができるのだ。その意味でもSTPの最初のパートである「セグメンテーション」を、その本来の意味に立ち戻り、「顧客のニーズに注目をしてセグメント化する」ということをもう一度考えてみたい。ドラッグストア業界だけでなく、現在の日本は市場の縮小によって、多くの業界が飽和化している。その中で「顧客一律」や「思い込みのセグメンテーション&ターゲティング」などをしていたら、もはや「売れない」のは明らかなのだから。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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