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岩佐大輝×伊藤羊一(3) ビジョンに裏付けられた最初の一歩にヒト、モノ、カネは集まる

投稿日:2015/12/08更新日:2021/10/21

リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載。前回は岩佐氏の生い立ちについてうかがいました。最終回は、岩佐氏がリーダーとして心がけていることに迫ります。(文: 荻島央江)

伊藤: 当初と比べると、岩佐さんが「ミガキイチゴ」とか、スパークリングワインの「ミガキイチゴ・ムスー」のあたりからはじけちゃったというか、二次曲線のように成長が加速してはねている印象がありますが、ご自身にそういう意識はありますか。

岩佐: ないですね。メディアに出るようになると非常にはねた印象になって、虚像のようなものが膨らんでいくんじゃないでしょうか。でも実像は淡々と極めて地味に実務に取り組んでいます。パワーポイントを作って、戦略を書いて、会議に出てということを繰り返しています。エネルギーレベルも変わっていません。

伊藤: 虚像と実像のギャップに苦しくなりませんか。

岩佐: そういうときもありますが、最近は、虚像を虚像として演じるというか、確立するのも経営者の仕事だなとはっきり意識するようになりました。自分から自分のことを誇張するようなことはしませんが、メディアでは誇張して書かれる場合が多いですよね。それはそれでよしとして、ただ淡々とやるだけです。

精神状態をフラットにしすぎない

伊藤: 岩佐さんはビッグピクチャーで方向性を示し、これに向かってチームを動かし、自分も動き、PDCAを早いサイクルで回していくということをされているわけですが、ときにはモチベーションがなかなか上がらないときもあると思います。ある一定のレベル以上にモチベーションを保つために何か心掛けていることはありますか。

岩佐: リーダーのパフォーマンスが下がると、組織のパフォーマンスはレバレッジをかけて悪くなりますから。気持ちが落ちたときはカウンセリングを受けたり、精神安定剤を飲んだりして自分をメンテナンスします。あとは引きこもって『その時歴史が動いた』を動画サイトで何話も見るとか。

伊藤: 医学に頼りつつ、自分を解放させるというか、刺さった釘を抜くような作業をするわけですね。

岩佐: そうです。やれるときもあれば駄目なときもあるから、駄目な自分をあまり責めないことですね。たぶん真っすぐ精神が安定している人というのは、恐らくパフォーマンスもボラティリティが少ないからね。上にもバーンと行かないし下にも行かない。ただ、自分はボラティリティよりどかんと大きなチャンスを作りたいタイプだから、精神的に安定していると逆に困るという側面もあるんです。

伊藤: リーダーとして組織のパフォーマンスを維持するために過剰に気持ちが落ちるのは好ましくないが、一方で、無理に安定させようとも考えない?

岩佐: 浮き沈みという意味でボラという言葉を使っています。浮き沈みは上に行ったときの突き抜け感もあれば、下に行ったときの落ち込み感もあって諸刃の剣なんだけど、僕は両方、大事にしています。

伊藤: それはすごい。安定した人生を目指している人が沢山いる一方で、岩佐さんはそうじゃないところを目指している。盛り上がるときもあれば、盛り下がるときもある、それでいい、と。あえてそういうふうにしているということですね。

岩佐: たぶんそうだと思います。山っ気があることが好きなんじゃないんですかね。

伊藤: ほかに習慣としてやっていることはありますか。

岩佐: 移動距離をできるだけ多くしようとはしていますね。自分がいつのまにか一つの環境に固定するといった事態を避けるため、意識的にいろいろなところへ行くようにしています。ただ昔のように、人と会いまくることはしていないですね。社員や仲間とは飲みに行くけど、いわゆる接待みたいな場には行きません。あとは文章とか残る形でアウトプットすることかな。

伊藤: 文章化することで、自分の頭の中にある思いがビジュアル化されたり、イメージが固まったりするから?

岩佐: そうです。あとは批判が来るから。批判を受けると、自分が間違っていたり、考えが浅かったりするところが分かる。早めに恥をかけます。

リソース論に終始せず、一歩踏み出せ

伊藤: これを読んでいる人の中には、何かきっかけをつかみたいともがき苦しんでいるものの、なかなか結実するような経験がないという人たちが多いと思います。後に続く人に対して何かアドバイスはありますか。

岩佐: 1つ言えるのは、自分がどんな場所にいようと、やっぱりそこでまず頭角を現すことですよね。今いる場所でそれができない人はどこへ行っても頭角を現せないと思う。物事を何かを成し遂げるには1人の力ではできないから、ネットワークが必要になります。どうしたらネットワークができるかというと、頭角を現すこと。それで引っ掛かりができるわけですよ。

伊藤: 引っ掛かり?

岩佐: 引っ掛かりが出ていないと、糸は引っ掛かりません。頭角を現し引っ掛かりができると、自分の今いるネットワークのその外側の人といろんな糸がつながっていく。いろいろな背景や考えを持つ人と交わり、多様性の中からイノベーションや新しい発想は生まれます。

伊藤: 頭角を現し、それをネットワークにつなげられないと、ビッグピクチャーは描けない。そこで反発や賛同やアドバイスが集まれば集まるほど最終形に近づくということでしょうか。

岩佐: いきなり何かを生み出すことはできません。最近よく言うのですが、ヒト、モノ、カネというのは何に集まってくるかということをもっと考えなければいけないと思っています。それはビジョンや理念に集まってくると一般的に言われていますが、そうじゃない。ビジョンや理念に裏付けられた最初の一歩にヒト、モノ、カネは集まります。

だから高いビジョンや理念があるなら、何かしら最初の一歩を踏み出すといい。どこの企業でも「これをやりたい」と思っても、「そのリソースをどこから持ってくるのか」とかリソース論で終わってしまう。そうではなくて、ビジョンさえあれば、リソースはなくてもできることはたくさんある。順番は、ビジョン→リソース→実行じゃない。ビジョン→実行→リソースであることを忘れてはいけないと思うんです。

棚から落ちてくるぼたもちが見えるか?

伊藤: これはちょっと独り占めしたいな(笑)。僕は今、岩佐さんを見ていて、本当に事を成してビジョナリーなリーダーだと感じていますが、その変化はやはり震災が契機なのでしょうか。

岩佐: そうですね。でも、それだけではなく、それまで一生懸命勉強していたことが大きいと思います。会社をつくってからも、グロービスに入ってからもずっと勉強していた。震災がそういう経験、人生観や宗教観、哲学といったものがマージされた瞬間だったんですね。

伊藤: 変わったというよりいろいろな要素が結実したみたいな感じ?

岩佐: そうです。語弊があるので、震災をチャンスとは言いませんが、実際には限りない大きな創造の裏には必ず破壊がある。震災のとき、「これだけぶっ壊れたんだから、全く違う新天地みたいなものをつくり出せるチャンスじゃないか。この状況で、なぜ動かないのか全く理解できない」くらい感じていたかな。言葉で言うとチープですけど、やっぱり普段どれだけもがいたか、それしかないんじゃないのかなと思います。

伊藤: そうすると、嗅覚が鋭敏になる?

岩佐: そうそう。棚からぼたもちという言葉があるじゃないですか。あれって「棚からぼたもちが落ちてくる。ラッキー」みたいな意味じゃないと思うですよ。ぼたもちが見えるか、見えないかなんですね。見える、見えないというのは、どれだけ自分を磨き上げているか、あるいは経験を積んできているかと言い換えられます。今日この場所にもすごいぼたもちは落ちているかもしれない。そこでもしぼたもちに気付いたら、これまでの蓄積の中にそのきっかけを探す嗅覚が育まれていたというだけであって、きっかけ自体はいろいろなところに転がっていると私自身は思っています。

伊藤: ぼたもちが見えるようになるためには、もがき苦しむことなんですね。

岩佐: 根性論のように思われるのは嫌だけど、結局は人が寝たり遊んだりしているときに勉強しないと、どんな頭がいいやつでも本質的な差というのはやっぱりつかない。自分自身を磨き上げて、頭脳や精神を筋肉質にしていくからこそ何かあったときに動けるのだと思います。それに、いざという局面で瞬発力を持って動ける人は、そのための沈み込みが相当あったに違いないと私は思っています。

私自身が、社会にもっとかかわりたかったんでしょうね。若いときに1人でずっといたり、引きこもったりしていた経験があって、社会とのグリップ感が全くありませんでしたから。それをずっと欲していたから会社をつくって、震災を機にいよいよそれが爆発したみたいな感覚はあるかもしれません。

伊藤: そういう意味では、震災前のめちゃくちゃな経験も実は生きていて、やっぱり沈むときがあるから跳ねるというか、エネルギーがわいてくるのでしょうね。苦しんでいた時代に、いつかは自分もという感覚はありましたか。

岩佐: ありましたよ、それがいつか分からなかったけど。

伊藤: 抜け出したいと思っていると、それがバネになる。それがあるかないかは結構大きいはず。大きく結実したのが震災のタイミングだったわけですね。

最後になりますが、岩佐さんにとってリーダーシップとは何ですか。

岩佐: 究極的には自然体でいることじゃないですか。自分自身に正直であること。これがリーダーシップの基になっていくのではないでしょうか。自分にうそをついていたら、強いエネルギーにならない。人間だけではなく、自然が自然である限り、すべてサステナブルに世界は続いていく。そういうことだと思いますよ。自然でなくなると、極めて無理が出て、言動に説得力がなくなります。どこでも誰と話すときでも同じことを言い、一つの自分でいる。自然体である、自分に正直になることがリーダーにとって一番大事なことだと思います。

インタビュー後記

この企画を始めるにあたり、グロービスの同窓であり、仕事でも個人的にも、様々な機会でご一緒させて頂いてきた岩佐さんに、普段何気なくお互い話しているビジョンや思いを改めて伺いたいなと思い、初回にご登場頂くことにしました。

全ての話に納得!でしたが、特に素晴らしいなと感じたのが、ビジョンを描くこととアクションすることの両立を強く意識され実行していること。これは言うは易しですが、なかなか実際には(どちらかに寄ってしまったりして)難しい。「ビジョンや理念に裏付けられた最初の一歩にヒト、モノ、カネが集まる」というのは、実際に今、その通りのことを実行されている岩佐さんならではの金言だなと感じました。

ビジョンは、「ビッグピクチャーを描け」と。単にでかいことを考えるのではなく、また自社の成長だけを考えるのではなく、社会の成長や課題解決を目指す中で、自社が成長するというサイズで考えるべき、という話はとても具体的でした。

また実行にあたっては、まずは一歩踏み出す。ビジョン、リソース、実行ではなく、ビジョン、実行、リソース、大きく実行。最初の一歩の大事さを学びました。
 
さらに、リーダーとしてのスタンスは自然体でいること。言い換えれば、自分に正直であること。まず、社会や、組織をリードするには、自分をリードできなければ、ということですね。

岩佐さんが話されたこれらの思いは、普段の仕事や生活、そして東日本大震災で経験されたことなど、全て岩佐さんの人生で起きたことがベースとなっており、また今の新しいチャレンジで感じられたことも、全て自身への教訓とされています。自身の経験から得られたメッセージなので非常に説得力がありますし、経験することの重要性を、私も改めて強く感じました。

新しいことに踏み出せば、必ず困難が伴います。それを乗り越えていく過程の繰り返しは、本当にハードだと思います。ぜひ健康には気を付けられますよう。岩佐さんのご活躍を、これからも楽しみにしております。

 

  • 伊藤 羊一

    Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長 / ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト Yahoo!アカデミア学長 / 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長 / 株式会社ウェイウェイ 代表取締役 / グロービス経営大学院 客員教授

    東京大学経済学部卒、1990年日本興業銀行入行、企業金融、債券流動化、企業再生支援などに従事。2003年プラスに転じ、ジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、マーケティング、事業再編・再生などを担当後、執行役員マーケティング本部長、ヴァイスプレジデントを歴任、経営と新規事業開発に携わる。2015年4月ヤフーに転じ、現在Zアカデミア学長、Yahoo!アカデミア学長としてZホールディングス、ヤフーの次世代リーダー開発を行う。またウェイウェイ代表、グロービス経営大学院客員教授としてリーダー開発を行う。若い世代のアントレプレナーシップ醸成のために2021年4月より武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設、学部長に就任。代表作『1分で話せ』は52万部を超えるベストセラーに。その他『0秒で動け』『1行書くだけ日記』『FREE, FLAT, FUN』など。

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