※2013/10/24にNumberWebに掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。
昨年の2020年東京オリンピックの決定に続き、2014年はソチ冬季オリンピック、サッカーワールドカップブラジル大会などが開催されるスポーツイヤー。「スポーツ×経営学(マネジメント)」に関する注目度も高まっていることが感じられる。ここ最近、よく話題に上る論点。それは「日本のスポーツビジネスと他国のスポーツビジネスはなにが違うのか」ということである。
読者はなにが違うと感じているだろうか。
同じ競技であるにもかかわらず、その競技がビジネス化に成功している国もあれば、ビジネス化に苦しむ国もある。
例えば、「サッカー」を例にとると、サッカーのゲームルールは変わらないのに、ファンを集め収益を得ているリーグ・チームとそうでないところが存在するわけだが、このような状況が生じる分岐点はどこにあるのであろうか。
「優位性」と「有意性」の違いを知る
その1つの要因は、スポーツというものを「魅せる」ということに対する取り組みの違いであろうように筆者は感じる。
以前、ビックカメラ社長の宮嶋宏幸氏がビジネス雑誌で「日本の企業は技術や品質の『優位性』は際立っているが、消費者に製品の持つ『有意性』を十分に伝えていないのではないか」と語っていた[*]。
「優位性と有意性」。
製品やサービスのクオリティを上げること(優位性の構築)は得意であるが、その製品、サービスを、「顧客にとって」意味があるように魅せることが得意でないという。
スポーツに置き換えると、その勝敗に関わるチームの強さを磨き続けることが「優位性」であり、これは重要。しかしこれだけでは不十分であり、そのスポーツに関わる意義や楽しさ、その場に参加することの意味となど、その人がスポーツにどのような意味づけをするかという「有意性」を創造し、世の中に届けていくことが必要になる。
潜在ファン層の興味を惹きつけるには?
チームの「強さ」について語ることは、コアなスポーツファンの興味関心を刺激するであろう。しかし潜在的なファン層にはあまり響かないかもしれない。
ビジネスの拡大に必要なことは潜在的なファンを確実にファンにすることであるが、その場合にはチームが伝えたいこと(例えば、勝負強さ)を一方的に伝えるだけではなく、その潜在ファン層が「あ、それ興味がある! ちょうど関心があったんだ! スポーツって意外といいかも。おもしろそうだね! (今までスタジアムに行っていないけど)行こう!」という気持になるような訴求ポイントを探し、発信し、思わず試合観戦に出かけたくなるような空気感を上手に醸成することが重要なのである。
「空気感」の創造がマーケティングの要諦
先日、2020年オリンピック招致のプレゼンテーションコーチを務めたMartin Newman氏の講演会がグロービス経営大学院で開かれた。
その中で、Newman氏は、2020年の東京オリンピック招致の勝因の1つは、パッションとロジック(合理性)をうまく融合させて東京の魅力を創ったからだと語った。つまり、東京の素晴らしさ(「優位性」)だけを一方的に語るのではなく、東京オリンピックが世界にもたらす「有意性」をパッションとロジックで語ったということだと筆者は理解した。
人の気持ちを動かし、行動を促す。その相手が、オリンピック委員であろうが、ファンであろうが、世論であろうが、顧客であろうが、人を動かすには、「優位性」と「有意性」を語り続けていく必要がある。そのためには持てるもの(優位性)を「魅せて」いく必要がある(有意性)。そして、行動につながる「空気感」を創る。これこそマーケティングの真髄であると筆者は思う。
つまり、顧客の行動変容をもたらすために、その製品・サービスは顧客の頭・心の中でどのように認知(パーセプト)されるべきなのかを考え、そして実行していくことこそマーケティングの重要な要素であると考える。そして、これこそが今後のスポーツ界の活性化にヒントをもたらすのではないかと思っている。
スポーツイヤーの2014年は、このコラムでも「魅せる」ことをマネジメントの視点から綴ってみたい。