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人材が集まらない理由はなにか?NBAチームに見るスタッフ育成の施策

投稿日:2015/04/13更新日:2019/08/15

※2013/7/23にNumberWebに掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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さて前回は、筆者のシドニーオリンピックでのボランティア経験から、顧客満足に結び付く従業員満足の上げ方について書いた。

従業員の満足度を向上させる理由は、それにより従業員のパフォーマンスを上げ顧客満足につなげるためだと書いたが、従業員が最高のパフォーマンスを発揮する施策を考える際によく聞かれるのが、「そもそも良い人材が集まらない」という言葉である。これはチームスポーツにおいて戦略を考える際にも出てくるフレーズかもしれない。

海外のスポーツチームでは、試合観戦者の満足度を高めるために様々なスタッフトレーニングを行っている。有名なものは、前回も事例の1つとして紹介したディズニーの経営ノウハウを学ぶことのできる「ディズニーインスティテュート(DI)」のプログラムである。DIのホームページによると、NBAのオーランド・マジック、NFLのアリゾナ・カーディナルス、テネシー大学のアスレチックデパートメント、米国体操協会、2010FIFAワールドカップなどが同プログラムを受けている。

トレーニングプログラムでは、顧客に対応する際の姿勢や行動基準などを学ぶ。オーランド・マジックではDIの研修を受けたあと、そのスタッフの行動が変わったという。例えばグッズショップでグッズを購入した子供がいたときに、通常であれば支払いをする親にレシートを渡すが、研修後のスタッフはその子供にレシートを丁寧に渡しコミュニケーションを取ったという(Sports Business Journal 2010年11月29日)。

個人スキルが上がったならば、それをフルに発揮させる環境が必要

確かにトレーニングも重要なのだが、トレーニングがすべてでもない。

トレーニングを受けるだけで、スタッフが顧客満足度をあげるような行動をとることができるわけではない。普通の人が素晴らしいパフォーマンスを生み出すには、スキルを磨くこともさることながら、そのパフォーマンスを発揮する環境も整備する必要がある。

例えばオリンピックやワールドカップなどの国際大会では、スポンサー企業の提供するITインフラなどはスタッフの円滑なサービス提供に大いに役立っている。このようにスタッフがサービス提供に集中できるような、もしくはより良いサービスを提供するために役立つような環境を作らないと、スタッフの生産性や提供サービスの質の向上には結び付かない。

トレーニング、環境の他に必要な“権限委譲”の要諦

スポーツの世界とはまた別の業種を見てみると、「サービスマスター」という企業が秀逸なサポート体制を取っている。

サービスマスターは病院や学校などのクリーニングを請け負う企業である。期待以上の状態に清掃できるようトレーニングを受けるが、それに加え掃除道具などの開発にも力を入れている。そうすることで、各スタッフが掃除や入院患者とのコミュニケーションに専念できるような環境を整備し、各スタッフが優れたパフォーマンスを上げることにつなげているのである。

スタッフが十分なパフォーマンスを上げるには、十分なトレーニングと充実したサポートツールを用意するだけでは足りない。権限委譲(エンパワーメント)をして、顧客との関わりの中で最高のパフォーマンスを発揮してもらう必要がある。

そして、権限委譲の際には、何が一番優先されるべきかという明確な基準を設ける必要もある。

先のオーランド・マジックの例では、スタッフはゲストエリアにいるときは「携帯電話の使用禁止」というルールを徹底している。理由は顧客とのコミュニケーションに専念するためである。このように「サービス提供」にあたって、その基準となるルールの制定は、スタッフに明確な判断基準を示す役割をになっているといえよう。

そして各スタッフが、自身が考える最高のサービスをした際に重要なことは、評価と賞賛である。

優れた働きをした警備員を誉めたことで、周囲の何が変わったのか?

先ほどのSports Business Journalの記事によると、オーランド・マジックではこんなケースがあったという。

ある顧客が警備員にバーガーの販売場所を尋ねた。以前であれば、飲み物をこぼした人を見ても助けなかったが、その警備員はトレーニングの時のことを思い出し、「確認しますね」と声をかけた。警備員の職務を超えて、顧客に尽くす警備員をみて、マネジメントの1人はその警備員に近づき、そしてその行動に賞賛を送ったという。

このマネジメントの行動が、その警備員のモチベーションをさらに高めることにつながったことは言うまでもないだろう。そして周囲に対しても大きな意味がある。つまり、「望ましい行動とは?」についてのあるべき姿を示すことにもなり、スタッフが目指すべき行動の1つのモデルとなるのだ。

「良い人材」が集まらない理由は今の職場環境にある!?

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出所: 「カスタマー・ロイヤルティの経営」(ヘスケット、他著、日本経済新聞社)

サービスに対しての賞賛は顧客からも届けられる。

満足した顧客と接するスタッフはさらにモチベーションと満足度を高め、さらにそのスタッフは、職場での良い体験を周囲に話し、採用候補にも良い影響を与える。既存のスタッフからの良い口コミを聞いて良い人材が集まり、その中で入念な採用と選抜が行われると優秀な人材が集まり始めることにつながる。

以上は、ヘスケット教授の「従業員の実現可能性を高めるサイクル」に当てはまる。

「優秀な人材がいない」というのは、優秀な人材が集まる仕組みになっていないことや、個々人のスキルだけに依存して組織として「最高のパフォーマンス」を出せるサポートシステムの整備ができていないことなどが原因であることも多いのではないだろうか。
人材がいない……と悩む前に、普通の人が最大のパフォーマンスを発揮できるサイクルを回す仕組みを打ち立ててほしい。

<今回のポイント>
◆顧客満足度を上げるには、スタッフの頑張りだけに任せない。パフォーマンスを十分に発揮できる環境・仕組みを創ることが重要
◆人材不足にならないサイクルを回し、良い人材があつまりその人材が能力を発揮できるようにすることが求められる

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