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MLBが目指すボールパーク化戦略。サービスの品質を決めるものは何か

投稿日:2015/03/30更新日:2019/08/15

※2013/6/25にNumberWebに掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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このコラムでも、プロ野球やJリーグの観客動員数について触れてきたので、ふと世界一観客数を集めるチームはどこだろうと気になって調べてみた。

 

個別のチームを見る前に、まずはリーグから。Sporting Intelligenceによると世界のプロスポーツリーグの1試合の平均観客数で比較すると、1位に輝くのはやはりNFLで67,591人。日本人にとってはあまりなじみがないかもしれないが、アメリカにおけるアメフト人気は驚くほどで、リーグ優勝決定戦の「スーパーボウル」では視聴率もトップランクであるため、マーケティングの世界でも企業がスーパーボウルで仕掛けるプロモーションに注目するものも多い。

NFLにつづくのは、ブンデスリーガ(45,116人)、プレミアリーグ(34,602人)、AFL(オーストラリアンフットボールリーグ、32,748人)、そしてMLB(30,895人)となっている。ちなみに日本のプロ野球は24,965人で第8位にランクインしている。

では、上位に輝くNFL、ブンデスリーガ、プレミアリーグ、MLBでそれぞれのリーグ観客動員数のトップチームはどこであろうか。

主要5リーグのトップチームはここだ

スポーツ専門メディアのESPNによると、それぞれのリーグのトップ5は以下の通りである。

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年間入場者数では試合数の多いMLBのチームが圧倒的

1試合平均入場者数でみると、NFLの各チームがダントツであるが、NFLは年間試合数が16試合と少ないため、シーズン入場者全数でみると、1位は圧倒的に試合数が多いMLBとなる。2012年には74,859,268人の観客数を動員した。

さて、そのMLBであるが、今年は観客数の落ち込みが取り上げられることもあるようであるが、それでも2011年、2012年と2年連続で観客動員数の伸びを示している。MLBによると、特に2012年は史上5番目の入場者数を記録した。

中でも特筆すべきは、ボストン・レッドソックス。以前ご紹介したように2003年5月以降チケットのソールドアウトを果たしている。ちなみに上述のランクにレッドソックスが登場していない理由は、スタジアムの大きさが理由である。レッドソックスのスタジアムであるフェンウェイパークの収容人数は37,493(ナイター時)と小さく、球場収容率で比較するとMLBのチームの中で第1位となる。

さて、この人気を支えるのが、球場をただ試合をする場所「スタジアム」と捉えるのではなく、「ボールパーク」と捉え、誰もが楽しめる場所づくりを目指すアプローチである。球場内外でのファンイベント、飲食店や座席の充実はもちろんのこと、ボストン・レッドソックスは、長年オーナーを務めたYawkey氏の名をとってつけられた球場前の通りYawkey Wayでもエンターテイメントを繰り広げ、ファンをスタジアム外でも楽しませている。

日本でも楽天やロッテをはじめとして「ボールパーク」を目指しての動きを見せている。楽天が球場の修理を行ったり、ロッテが球場内の食事を魅力的にしたり、花火をあげたりしている。試合の勝ち負け以外の点にも力を入れて観客を楽しませようとしており、その効果も見え始めている。

サービスの価値を決めるものは何か?

「ボールパーク」化を目指す戦略的理由はどこにあるのだろうか?

1つには、収入源を増やすこと、つまりチケット収入以外にも飲食やグッズ販売での収入増加を狙っていることも考えられる。

そしてもう1つはファンを増やすこと。つまり、ファンが感じるサービスの価値の向上にある。

実は、ハーバードビジネススクールのヘスケット名誉教授他によると、顧客が感じるサービスの価値は以下の公式であらわされる。

サービスの価値 = 受け取ったサービスの品質 / それを受けるために支払った総コスト

ここでいう「サービスの品質」とは、客観的に決まるものではなく、あくまでも顧客の主観で決まってしまうものではあるが、そのサービス品質とは、サービスの「結果」のクオリティと、そのサービスを受ける「過程」から得られる品質の2種類あるといわれている。上述の式中の分子にある「サービスの品質」は、サービスの結果と過程から得られる品質の足し算となる。

サービスの価値 = サービス品質(サービスの結果についての品質+サービスを受ける過程で得られる品質) / 総コスト(価格とそれを入手するまでにかかった他のコスト)

結果から生まれる品質とは、美容室で言うと切った後のその髪型。過程から得られる品質は、例えば美容室までのアクセス、受付での対応、待ち時間での印象などが含まれる。

サービスの印象は事前の期待値によって変化する

顧客がサービスのトータルクオリティがよいと認識してくれれば、顧客内のサービスの価値が上がり、満足度向上の要因にもなる。通常、提供するサービスそのもののクオリティ向上に力をいれるが、スポーツでは、その結果に当たるもの、つまり試合の勝敗をコントロールするのは難しい。優勝チームの勝率が5割5分~6割であるので、半分ほどが負け試合になる。これがスポーツマネジメントの大きな悩みであり、ビジネスモデルの制限要件にもなる。したがって試合の勝敗以外に、試合を観戦するまでの「過程」に注目してサービス価値を向上させるべく、「ボールパーク」という構想のもとサービスのトータルクオリティの向上を図っていることはわかる。

つまり、スタジアムに入るまでのワクワク感、楽しさ、試合中に楽しむエンターテイメント、食事、座席の座り心地、スタッフの対応などを通じて、試合を味わうまでの過程の楽しみが最大になるように戦略的取り組みを強化することは、スポーツの特性上理にかなっているといえよう。

そしてこのサービス品質は、事前の期待値と実際の経験の差で知覚される。実際の経験が期待値を上回るとサービス品質がよいと顧客に知覚され、これが逆転すると、悪いと顧客に認知される。

さらに、サービスの難しさは、サービスの質を決めるのは企業ではなく、顧客の「主観」であって、しかも顧客ごとに感じ方が違うということである。できる限り似たようなニーズ(期待値)を持った人に対してサービスを提供できる環境を整えることが重要だということはすでに前回、前々回でお伝えした通りである。顧客の事前期待値をコントロールすることも、顧客が認識するサービス品質を良くするためには重要なのである。今回はさらにサービス品質を構成する側面を紹介しよう。

サービスの品質を決定する5つの要素

パラスラマン、ザイタムル、ベリーによると、サービスの品質を決定する要素には次の5つのポイントがあるとされている(日本語訳は『サービスマネジメント入門―ものづくりから価値づくりの視点へ』『カスタマー・ロイヤルティの経営』を参考に筆者加筆)。

・物的要素(施設の外観や従業員の服装などの見た目はどうか)
・信頼性(約束されたサービスが正確に提供されたか)
・反応性(サービスが迅速にタイミングよく行なわれたか)
・確信性(カスタマーに信用されているか)
・共感性(カスタマー視点でサービスが行なわれたか)

これらは、サービスの提供過程での品質にも強く影響する重要な視点であるので参考とされたい。そして顧客が認識する「サービスの価値」には、スタッフのやる気や能力というのは、避けられない点であるので次回以降サービスとスタッフについて解説したい。

今回は「サービスの品質」についてみてきた。一般的に、企業はサービスの結果得られる品質については神経をとがらすが、そのサービスが提供される過程までに目を向けている企業は多くはないであろう。サービスの品質を構成する5つの側面なども参考にしながら、自社のサービスのトータルクオリティについてさらに深く考えるきっかけとなれば嬉しい。

<今回のポイント>
◆サービス価値とは、企業が決めるものでも客観的なものでもなく、顧客の主観による
◆サービスの価値は、サービスの結果に関連する品質とそのサービスが提供される過程の品質とを足したトータルの品質と、かかったコストの比率として知覚される
◆サービスの品質は、サービスに対する事前の期待値と実際サービスを受けたときの経験の差分であらわされる
◆サービスの品質の5つの要素にも着目しながら、顧客の認識するサービスの価値を向上させていくことができる

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