年末年始の連休は、ご自身のスキルやキャリアなどについてじっくり振り返るよい機会です。
今回はグロービス経営大学院の教員が、そんなタイミングで読みたいオススメ書籍を3冊ご紹介します。
※これまでの長期休暇にオススメの書籍シリーズはこちら。
「パワーと影響力」によるビジョンの具現化を追った物語
推薦者:本田 耕一
本書は、2023年に北海道・北広島市にできた北海道日本ハムファイターズの新球場:エスコンフィールドを擁するHOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE建設に関する書籍。しかし、単なる新球場建設ルポではない。大志を抱いた北海道のリーダーたちの、リーダーシップ論における「パワーと影響力」によるビジョンの具現化を追った物語なのだ。
新球場を基点にした理想のまちづくりを目指すリーダーたちは、もどかしさを感じていた。立ちはだかったのは、権力(パワー)では動かせない人々の存在。企業内であれば、パワーで人を動かすことはできる。
しかし、いち民間企業が自治体や地域住民を動かすのに、パワーは使えない。必要なのは、パワーではなく「影響力」だ。いかに信頼関係を築き上げ、心をひとつにし、壮大なビジョンに向けて人々を動かしたのか。
皆さんも、部門や会社の垣根を越えた共創・協業が求められるケースが増えてきているはずだ。そして「パワーがないから動いてくれない……」と悩んだ経験をお持ちの方も少なくないだろう。本書は現代のビジネスパーソンにとって身につけるべき組織を動かす力、人を巻き込む力、そして持続可能な関係性を築く力など、「パワーと影響力」を理解するヒントが詰まっている。
これをお読みいただいている皆さんは、どのようなパワーと影響力をお持ちだろうか。
大きなプロジェクトを成功に導くためのリーダーシップや戦略に関心がある方や、多様なステークホルダーを巻き込みたいと考えている方、抵抗勢力を克服したいと考えている方などに、ぜひ読んでいただきたい。
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『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』
著:鈴木 忠平 発行日:2023/3/29 価格:1,980円 発行元:文藝春秋
<パワーと影響力についてもっと知りたい方に>
・パワーと影響力│GLOBIS学び放題
・上司や部下にお願い事がある時は「パワーの分析」をしてみよう/みんなの相談室Premium│GLOBIS学び放題
AIの再現元としての「脳」を理解する
推薦者:岡 重文
この本は、脳の研究者の立場から、人間の脳の働きがどうなっているのかということがわかりやすく述べられている。全体は3部構成。
第1部は、脳の働き、仕組みについての理解だ。「記憶」とは何なのか、「見る」ということはどういうメカニズムでなりたつのかなどの話題を通じて理解を掘り下げる。
そして第2部が、人工知能との対比。人工知能のアプローチとの対比から見えてくる脳の働きの特徴はなんなのか。AIと人の思考の違い、そして、人らしい思考とは何なのかといった問いに向き合っていく。
第3部は、タイトルにもある脳はなんのためにあるのか。人間の脳は他の動物と比べてなぜ大きいのか。大きな脳は、何がよいのか。宇宙、地球規模で考えたときに、その脳を人間が有していることの意味はなんなのか。様々な視点から脳の意味についての理解が得られる内容となっている。
元々、AIはartificial intelligenceの略、「人工的な知能」を指す。人の脳の働きをどう人工的に再現することができるのかが、そもそもの研究の始まりである。今後ますます発展をするであろうAIについて、適切な解釈と評価ができるようにするためには、脳の働きをしっかりと理解しておくことは大切なことだ。
600ページ超に渡る大作ではあるが、3部構成のどの章からでも読み始めることができる。脳について関連する3冊の本として捉え、その1冊分から冬休みに読み始めてみるのはいかがだろうか。
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『夢を叶えるために脳はある 「私という現象」、高校生と脳を語り尽くす』
著:池谷 裕二 発行日:2024/3/28 価格:2,420円 発行元:講談社
<AIやテクノベート(テクノロジー×イノベーション)についてもっと知りたい方に>
・生成AI ~新たな価値を生成するAIとの向き合い方~│GLOBIS学び放題
・生成系AIに疑問を抱いている人は「テクノベート・シンキング」を取り入れよう/みんなの相談室Premium│GLOBIS学び放題
パーパスドリブンな企業はどう資金調達するか?
推薦者:嶋田 毅
ファイナンスの基礎的な教科書は資金調達の方法を大きくDebt(銀行借入や社債)とEquity(株主資本)に分けたうえで解説をしている。リスクが高いビジネスにはEquity、低ければDebtで調達するというものだ。
これはこれで間違いはないのだが、いざ実際に資金調達をしようとすると、伝統的なEquityもDebtもフィットしないというケースは少なくない。特に社会貢献を目指すパーパスドリブンな企業にとっては、この問題は重要である。
本書は、そうしたパーパスドリブンな企業等にとっての資金調達方法のバリエーション23種について詳細に述べたものだ。企業の存在目的や様々な条件に応じてこれだけさまざまな資金調達方法があるのかと、目からうろこが落ちる思いである。小職も初めて知った資金調達方法がこれでもかと登場してくる。
本書を活用するためには、ある程度のファイナンスの知識と、現在すべてが日本でも利用可能というわけではない点に注意することは必須である。ただ、これらをすべて覚える必要はない。フィットしそうなものを選んで比較検討すればいいというのが本書のスタイルである。
ESG経営が浸透するなかで、これからパーパスドリブンな企業の存在意義はますます上がっていくだろう。そうした企業が資金調達で躓かないためのヒントを与えてくれる1冊と言える。また、ファイナンスを学んだ方にとっては自分の世界観を広げてくれる1冊でもある。
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『ファイナンスをめぐる冒険――組織のパーパスに適した資金調達はどうすればできるのか』
著:オーニー・パットン・パワー (著)/ Zebras and Company (監修)/ 月谷真紀 (翻訳) 発行日:2024/12/4 価格:2,970 円 発行元:英治出版
<ファイナンスについてもっと知りたい方に>
・ファイナンス(前編:基本編)│GLOBIS学び放題
・“ファイナンス”って結局何なの?/おカネの研究所│GLOBIS学び放題
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