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トヨタのグローバル幹部研修で確信した日本的経営の命脈

投稿日:2015/10/23更新日:2019/08/21

トヨタ自動車のグローバル幹部育成に関わらせていただいて7年目になる。今年は、ある幹部層のジャパン・セッション(日本での集合研修)の全行程に参加させていただいた。その大変貴重な経験を元に、グローバル人材育成と日本的経営について考えてみたい。

上司の、そのまた上司の視点から見よ

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トヨタ自動車の人材育成は、一見すると「知識創造」という綺麗なものに見えるが、その実は、社員を大きな1つの家族と見なし、上司と部下(社員:Team Members)がTBP(Toyota Business Practice)という仕事の型を何度も何度も繰り返し現場で実践していく汗と努力の結晶である。この繰り返しによって、上司と部下の間には、日本の伝統芸能の師匠と弟子のような、愛情と報恩感謝の気持ちが育まれ、一生涯にわたる教え・教えられる関係が生まれる。上司は全てのことを一度に教えるのではなく、このタイミングで部下が必要とすることを、必要な分だけ教えることを理想とする。もちろん、グローバルな成長、社会の変化もあり、以前に比べるというそうした教え方は難しくなっている、とはいえである。

西洋的に考えると、この指導方法は網羅性がなく、密度が薄そうに見えるかもしれない。だがその背景には、部下が主体性を持って自ら考え、自得していく余白(空間的・時間的広がり)を残すという意図がある。上司としてこの教え方を実践するためには、部下の立場に立ち、部下の技能だけでなく部下の精神の状態をも体感していくことが求められる。上司にとっても格好の(厳しい?)人間力養成の場なのである。

トヨタ自動車では、社員に対して、自分の上司のそのまた上司の視座から考えることを求める。例えばチーム長は、上司であるグループ長のタスクについて考え、そのまた上司に当たる部長の仕事へ想いを馳せる。この効能はどこにあるだろうか。

1つは、当たり前だが「視座が高まる」点である。2階層上位の上司の業務範囲は広く、責任は重い。そこから発想することは、自身のチームの仕事を客観視させてくれる。

2つ目はチーム間の連携や協力が容易となるということだろう。1つの部に2つのグループがあり、各グループに3つのチームがあったとしよう。この部にある6つのチームのベクトルが揃わないことは多い。しかしながら、部長の立場で考えることで、6つのチーム間全体で部の方針を実施するために自チームが取るべき位置取りがつかみ易くなる。

ジャパン・セッションに参加するグローバル幹部の皆さんに問うた。自身の上司は誰か。そのまた上司は誰か。そして最終的に「トヨタ自動車社長の上司」は誰か――。

「お客様」との即答が出た。では、「お客様」の上司は誰か――。「サムシング・グレート」「地球」「社会」との回答をいただいた。凄いことで、ここで天地が繋がった。

トヨタ自動車の人材育成は世界において十二分に通用すると感じた。今回は、アジア環太平洋、欧州、南北アメリカの幹部と共に、豊田佐吉氏の生家を訪ね、豊田喜一郎氏が自動車事業を始めた時の展示を見て、TVドラマ『リーダーズ』について語り合った。初めは、冷静かつ論理的にトヨタ自動車を取り巻く環境やTBPについて語っていた人達が、『リーダーズ』の討議においては、豪州の男性幹部より「このドラマを見て泣いた」と告白があり、東南アジアの女性幹部は「5時間泣き続けていた」と話してくれた。

いくつかドラマの局面を取り出し、その意味について語ってもらうと、しばらく静寂があり、その後で息を飲むように言葉を選びながら話すグローバル幹部の姿があった。U理論の源の議論のように、トヨタ自動車の根幹に触れ、その根幹を集合的に内在化できたとの手応えがあった。豊田佐吉氏のG型自動織機になぞらえるなら、トヨタウェイ(企業理念)とTBP(仕事の型)が横糸と縦糸となって、彼ら、彼女らがトヨタ自動車の将来の物語を織っていくことを予感した。

ごった煮状態からインスピレーションが生まれる

「氣と経営」の視点からは、トヨタ自動車の人材育成はどのように見えるだろうか。これだけ視座を上下に飛ばし、現地現物で最前線に足を運び、TBPのプロセスを通じて主観と客観を往き来させていると、頭の中は「曼荼羅」のようになってくると理解している。精緻な生産管理のデータから、お客様の様々な声、サプライヤーとの粘り強い交渉、部下の嬉しそうな顔や苦痛に歪む顔などが、ごった煮のように入っている状態である。

人間は、肉体と精神と霊魂から成っている。だから、このように複数階層の雑多な情報に触れる(処理する)ことは、とても人間らしい環境で人材育成が為されていると言える。これだけいろいろなものに触れているからこそ、日々の改善や業務の標準化・横展(トヨタ用語、組織の水平方向へのナレッジ共有の意)のためのインスピレーションを得て、エネルギーを補給できる場が成立していると考える。(参考: 氣と経営の第6稿「羯磨(かつま)曼荼羅の語りかけること」)

社員をあたかも1つの家族と同様に見なし、社員の主体性を期待して粘り強く指導し、社員に全人格的な成長を求める――。その点で、トヨタ自動車は日本的経営の代表的企業である。日本的経営に根ざすトヨタ自動車がグローバル幹部の育成に成功している理由に迫ることは、多くの日本企業にとって重要な示唆を与えるはずである。

突き詰めて考えると、日々の仕事の型(TBP)を通じて、理念(トヨタウェイ)が名実ともに浸透し、社員への内在化プロセスを通じて、組織の企業文化が成っていることである。トヨタ自動車のグローバル幹部は共通の仕事の型(TBP)を持ち、理念(知恵と改善・人間性尊重)が共有されているので、異なる国・異なる機能の社員が集まっても、問題の本質の討議がとても効率的に進められるのだ。

・「型」と「理念」を結節する
・社員自らがその利点を内在化する
・それを組織文化にまで高める

この3つのプロセスを踏み、徹底すれば、日本的経営は世界に通じると確信する。

  • 中村 知哉

    GLOBIS USA, Inc. President

    一橋大学社会学部卒業。米国ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。同校在学中にGeneral Management UnitのResearch Associateとして東洋哲学のケースを2部執筆。これらケースは現在もハーバード大学経営大学院のMBA Programで使用される。丸紅株式会社入社、アドバンテッジパートナーズの投資関連業務で倒産会社富士機工電子の再建などに携わる。JASDAQ公開の株式会社サン・ライフでは、専務取締役としてアルバイト・パートを含む250名強へのストック・オプション・プログラムの実施など先進的な取り組みを行う。現在は、グロービス経営大学院英語MBAプログラムの責任者として、顧客企業にて数多くのグローバル研修を手掛けると共に、グロービス経営大学院にて日本・アジア企業のグローバル化戦略、企業家リーダーシップなどの教鞭を執る。GLOBIS.JPに、コラム『氣と経営』を連載している。

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