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利益を出すのが良い会社か?

投稿日:2015/10/13更新日:2019/04/09

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今回は、利益を出すのが良い会社なのか、さらに言えば、より多くの利益を出す会社が良い会社なのかというテーマについて考えたいと思います。

利益を出すことは、ある意味、株式会社の目的とも言えます。ミクロに見れば、企業のオーナーである株主の期待に応えることになりますし、マクロに見れば、限りある希少な財(経営資源)を用い、利益を効率的に生み出している会社は、経済発展、ひいては人類がより文明的な生活を営み、幸福や平和を享受することにより貢献していると見なすこともできるからです。事実、幸福はおカネでは図れない側面もありますが、企業の利益が多い国は、民主主義が進み、教育レベルなども高いという相関が確認されています。

しかし、企業が常にその時々で可能な限り多くの利益を上げるべきかと言えば、話は変わってきます。利益を上げることで別の「大事な何か」を棄損してしまうことがあるからです。

よくあるケースは、将来の成長を犠牲にするというパターンです。企業に求められているのは単に利益を出すことではなく、長期的に利益を出し、企業価値を高めることです。単年度だけ利益を出すのであれば、極端に言えば、将来のための投資(設備投資のみならず、人材の採用や研究開発なども含む)をすべて止めてしまえば、費用は大きく削減されますから利益を出すことは難しいことではありません。しかし、そうした会社は次第に競争力を失い、中長期的には市場から退出せざるをえなくなるでしょう。将来性を犠牲にして現在の利益にこだわり過ぎることは、多くの場合、自分の首を締める行為なのです。

現在の利益と未来の利益のバランスを正しく取ることが、経営者には望まれるのです。しかし、経営者の実力は基本的に現在の利益で評価されるものです。それが、往々にして成長のための投資を抑制するインセンティブとなってしまうのです。Amazon.comのように、その気になれば利益はいつでも出せるにもかかわらず、それをせず、ひたすらキャッシュを成長のための投資に向ける企業もありますが、大変珍しい例と言えるでしょう。

2つ目のケースは、現時点での競争のために必要なコストまで削減してしまうことです。もちろん、企業としては明らかに無駄なコスト(例:過剰な社内懇親会費など)を削ることは正しい行動です。しかし、例えば必要以上に人件費を削るとどうなるでしょうか。従業員のモチベーションは下がるでしょうし、優秀な人材の採用・維持もできません。これは結局企業の生産性や競争力を下げてしまいます。あるいは、店舗の外装のためのコストを削ったらどうなるでしょうか。業態にもよりますが、みすぼらしい外観が企業のブランドイメージを下げたり、集客に悪影響を与えたりすることも予想されます。

コスト(原材料費を除く)は、付加価値とほぼ同義です。顧客にとっての価値に影響しない冗費は削っても構いませんが、顧客にとっての価値提供につながる、競争上重要なコストを削っては、瞬間的に利益は出ても、結局は競合に負けてしまうことをしっかり理解しておく必要があります。

3つ目のケースは、環境などに負荷をかけてしまうというパターンです。例えばアメリカのある小売企業の包装は、効率性を重視し画一化を図った結果、包装する商材が小さい場合でも、過剰に梱包材を詰めこんだり、大きな厚紙の箱を使うことになりました。企業にとってはオペレーションの効率性が上がることでトータル・コストは下がるかもしれませんが、環境には優しくありません。

経済学には外部性という言葉があります。特に、他の経済主体にとって不利に働く場合の外部性を「負の外部性」と呼びます。典型例は公害です。公害のように明らかに社会的悪影響が認められる場合は、規制がかかり、応分のコストを支払わなくてはならないということもありますが、多くの負の外部性は、罰則なしで見逃されています。企業としてはコストをかけることを要求されないのです。

しかし、法律で要請されないからと言って、何も手を打たないというのでは、企業の姿勢が問われます。「次世代に負の遺産を残さない」ためのコストを本当に削っていいのかは、今後、特に大企業にとっては重要な経営課題となってくるでしょう。

最後に、企業の社会的意義の問題も指摘しておきましょう。上記の環境問題もその一環として語ることができるかもしれませんが、企業は社会と共生して成り立っていくものです。利益アップだけを追求すると、地域を始めとする社会に大きな負担をかけることがあります。

例えば、仮に鉄道会社が高利益のみを追求するなら、不採算路線を止めてしまうのが近道です。しかし多くの鉄道会社は、ギリギリまでそうした判断はしません。地域との共生あっての鉄道会社ということが分かっているからです。利益と公共性のバランスをどうとるかは難しい課題ですが、企業の社会的意義が厳しく問われる現在、企業のかじ取りはますます難しくなっていると言えるでしょう。

他にも、利益のみをいたずらに追求すべきではない理由はいくつか存在しますので、ぜひ考えてみてください。

短期と長期、ミクロとマクロ、自社とそれを取り巻くステークホルダーなど、さまざまなバランスを考えながら、説明責任を果たせる範囲で高収益を実現できる会社こそが現代のエクセレントカンパニーと言えるのです。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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