前回は検討結果などをわかりやすく、効果的に伝えるために、相手に寄り添った「伝える柱」を作る話をした。今回は少し別の角度からわかりやすく伝える方法論をみていこう。
人の話やプレゼンテーションを真剣に聞くのはどんな時か。そう、トピックに興味を持っている時だろう。「人は興味、強い関心がないと真剣に話を聞かない」を前提にプレゼンや話を構築しなければならず聞き手の興味を徹底的に考え分析する必要がある。
書いてしまえば当たり前の話だが、実際には「自分の言いたいこと」のプレゼン資料作成に時間をとられ、聞き手のことを考える時間がほとんどない場合が多い。プレゼン目的にもよるが、必要以上に表計算ソフトをこねくりまわし、細部にこだわった資料を作成しても効果は大きくないことが多い。
それよりも主要な聞き手=意思決定者は普段どんなことに興味を持っているのか。どんな判断軸で考えるのか。組織上のポジション・責任は。今回の件との関係性は。聞き手のメリット、デメリットは。自分は本件を伝える人として適正であると相手に認識されるか、などを考えるのだ。
この聞き手の分析なしには、相手にとって価値のあるプレゼン、話をすることは難しい。できればこの分析から、まず「この話はあなたに強い関係があるのですよ」ということを強いメッセージとして、できるだけ早いタイミングで伝えることが肝要だ。
大人数に話をする場合でも同様だ。私も百人超を対象に話す機会がしばしばあるが、できるだけ早いタイミングで参加してくださる人の年齢、性別、勤め先、職種などの情報を入手し、最大限話の内容をアレンジするようにしている。
聞き手の分析をしたら次にすることはその聞き手が興味を持ちそうなこと、疑問に思いそうなことを想定する。理想としては「なるほど、それで」「次はどうなる」「なぜそうなる」「で、どうしたいの?」というように相手の頭の中で生まれる連続的な問いにプレゼンで答えていきたい。
そのためにやるべきことは素朴に相手が持ちそうな疑問を考えてみることだ。1つ例を挙げてみよう。通販会社の物流を取り仕切る課に勤務するあなたは創業来つきあいのある物流会社に配達ミスが多いことに困っている。時間をかけ物流会社に改善を求めコミュニケーションしてきたが、改善がみられずついに委託先を変更したいと思った。
新しい委託先については、様々な調査の結果、配達ミスなどは極めて少ないものの、1個あたりのコストが3%程度上がることが分かっている。こんな時、いきなり委託先を変更したい、とだけ上司に進言したとしたらどうなるだろう。
そこで、聞き手(=この場合は上司)が持ちそうな疑問を素朴に考えてみるのだ。「(聞き手の疑問1)委託先を変えたいという話は分かったが、そもそも、どんなことがどの程度の頻度でどこの地域で起きているのか」「なるほど、現状はわかった」「(疑問2)なぜ、その問題は今の委託会社の中で修正できないのか」「なるほど、問題発生の理由も分かった」「(疑問3)問題解決のための、具体的な方法論に関する選択肢には何があるのか」
話には、常に流れがある。プレゼンの教科書などにはストーリーラインという言葉で表現されることが多いが、相手が抱く疑問を想定しつつ、思考を導く、ストーリーをイメージすることにチャレンジしてみていただきたい。
※この記事は日本経済新聞2013年10月16日に掲載されたものです。
(Coverphoto:shutterstock/Ismagilov)
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