前回までに「論理的に考える」パートの導入として、「課題・論点(イシュー)」を抑えること、それを2〜4本の「柱」で支えることを解説してきた。今回は支える柱を設定した後に行うべき「仮説を立てる」について話をしていく。
こんなシーンを想定してみよう。新発売のエアコンの売り上げが、好調だったのは最初の1カ月だけで、最近は伸び悩んでいる。力を入れて開発した商品だけに営業としても簡単にあきらめるわけにはいかない。どうしたら、売り上げが拡大できるか。
このようなイシューが設定されたら、あなたは次にどんなことを考えるだろうか。価格か、デザインか、店頭での置き方か、小売店への説明が十分でなかったためか、それとも…。
以前にも指摘したように、このように思いつくままにバラバラと考えていくと、検討すべき大切な要因について考えられたかどうかわからないので、柱を立ててみるのである。
柱として例えば、マーケティングの世界でよく使われている4Pを考えてみよう。4Pとは製品、価格、販売、チャネル、プロモーションの柱だ。この柱を設定したら、それぞれの柱について「仮説」を立ててみる。
仮説という言葉は色々な意味で使われるが、ここでは、売り上げが下がっているのは「○○かなぁ」「△△かなぁ」などと、自分自身が持った仮の答えを示すことにする。
宣伝に関する仮説であれば「微粒子状物質(PM2.5)への対応策を明確に訴求できなかったことが要因ではないか」、価格に関しては「競合のA社が昨年から製造を中国に全面移管し、製造コストを下げ、結果として自社製品を下回る価格で販売しているから」といった具合だ。
それぞれの柱の中で、複数の仮説を設定すべきなのは言うまでもない。しかし、この段階でぬけもれを気にして、あまりにも細かい仮説を大量に作ってもあまり意味はない。
業務上の経験、その経験に基づく勘、手元のデータや情報をフルに生かしつつ、「らしい」仮説を作ってみるのだ。もちろん、全く新しいことに取り組む場合などには、よくある切り口によって、データを整理する中で見えてきた何かから仮説を立てていくことも有効だ。
初期段階の仮説は「仮説の卵」のようなものだ。仮説の卵について、まずは半径5メートル以内に座っている同僚に意見を聞いてみてほしい。あるいは、手元で時間をかけずに少しだけデータを収集、加工、分析してみてほしい。これが1番簡単にできる仮説検証となる。
そして、仮説がある程度サポートされたら、仮説の卵を育てるために更に足をのばして、別の部署のスタッフなどを含む広範囲の10人ぐらいに意見を聞いてみるのだ。
仮説が検証されれば、ある程度予算をとり、アンケート調査などによって更に具体的に仮説を検証し、実際の戦略に役立てていく。
仮説が却下された場合は、元に戻って別の仮説を考えるのである。これが「仮説を育てるプロセス」「仮説検証を繰り返すプロセス」だ。
このように仮説を少しずつ確かなものにしていくわけだが、この仮説があることで、次のほしいデータや情報が決まり、検討そのものが効率的になる。仮説なき分析は闇夜に散弾銃を撃つような話になってしまいがちだ。ぜひ「仮説を考えてみる」「そしてそれを文字にしてみる」ということを習慣にしてほしい。
※この記事は日本経済新聞2013年8月21日に掲載されたものです。
(Coverphoto:shutterstock/Ismagilov)
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