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鋭敏な市場ニーズの把握で市場を開拓し続けるグリコ乳業ドロリッチの挑戦

投稿日:2012/10/19更新日:2019/04/09

2007年—市場トレンドを捉え、独自ポジショニングを確立

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「飲料の世界には明らかなトレンドが見て取れました。その消費者ニーズの根幹にある要素を的確に捉えられれば、新たなカテゴリを創造できるかも知れないと考えたのです」と、グリコ乳業のマーケティング担当者は述懐する。

カフェゼリーとクリームがほどよく混ざった食感が特徴の「ドロリッチ」は主にCVS(コンビニエンスストア)のチルド製品棚で販売されている。「ドロリッチは果たして飲料なのか、デザートなのか」と、大ヒット・ブームの中、ファンが論議することも多かったが、答えは「デザート飲料」という両者の中間的存在である。

デザート飲料というカテゴリが元々、市場に存在していたわけではない。そして、これこそがドロリッチが作り出したカテゴリなのだ。

開発に際して、グリコ乳業の開発チームはまず、欧米で「スムージー」が大人気となっていることに注目した。同様なトレンドが日本でも見て取れないか。チームメンバーは駅などのジューススタンドやカフェの店頭で来店客の購買行動を徹底して観察したという。その結果、ジューススタンドでは利用者のビジネスマンやOLの40〜50%が、「とろり」としたミックス系ジュースを選択し、朝食代わりのライトミールとしていることを発見した。また、カフェではスターバックスの「フラペチーノ」に代表されるような、コーヒーや果汁等のデザート的飲料が大人気でメニューも充実してきており、商品の構成比は6〜7割に登り、来店客の注文比率が高いことも確認したという。

これら消費性向から開発チームは、3つのキーワードを炙り出した「スピーディー」「ながら飲み」「腹持ちの良さ」だ。

「スピーディー」「ながら飲み」「腹持ちの良さ」というキーワードに「ほっと一息できる」というベネフィットを加えた訴求ポイントが整理されたが、そこから単純な飲料ではなく、デザートの特徴を取り込んだ独自の商品として展開する可能性を追求することとなった。実は、商品開発のチームは市場自体が飽和している「飲料」ではなく、成長余地のある「デザート」のチームが主管しているのである。故に、ブランドネームも単純な「コーヒーゼリー“飲料”」などではなく、新カテゴリを表すような従来にないインパクトのあるアンブレラネームを必要とした。

差別化ポイントは「固体と液体がほどよく混ざったとろり濃厚食感」であると整理され、そこから「ドロリッチ」というネーミングが検討された。「ドロ」という食品らしくないネガティブな語感が含まれるネーミングは、社内からの猛反対を受けた。しかし、他社の類似商品との明確な差別化のために開発チームは社内の幹部までを丹念に説得し、ネーミングを押し通したのである。

2011年—転機、そして新製品の投入へ

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ドロリッチは2007年10月に九州地区から徐々に限定発売のエリアを拡げ、2009年には一大ブームを巻き起こし、市場を席巻した。2008年6月2日の日経新聞はPOS情報を分析する「店頭商品浮き沈み」欄「チルドコーヒーゼリー」カテゴリで、「『ドロリッチ!』首位独走」と既にその快進撃を伝えている。同時点での発売エリアは九州、関東のみであったにも関わらず「一位はグリコ乳業の飲むタイプのカフェゼリー『ドロリッチ!』で、シェアは十九・六%。(中略)同社のメーカーシェアも約十五ポイント押し上げ、日本ミルクコミュニティを抜いて首位に立った」。

しかし、翌2010年から徐々に売上は右肩下がりになってきた。理由は明確だ。PB(プライベートブランド)の拡大で棚が狭められたことと、他社のタピオカ飲料など「食感飲料」としての競合の出現である。手作りスイーツブームで消費者の舌が肥えてきたことも原因だ。購入者数、購入回数とも減少傾向が明らかになってきたのである。

「ブランドの延命のためには、ブランドエクステンション(派生商品の投入)が行われます。我々も幾つかの商品を投入しましたが、その後、もはや本体商品のテコ入れが欠かせないと判断しました」と担当者は言う。

市場のさらなる変化も明確になっていた。グリコの調べで2007年当時と比較すると、朝・昼・夕の「基本の三食」の崩壊が進んでいた。朝・昼の欠食に加えて、夕食も欠食する傾向が見て取れた。では、その変化は何を表しているのか。「おやつ化する食」である。基本の三食が乱れる一方、間食シーンは平日10時、15時、16〜17時、20時、22時という5回のピークが確認できたという。

デザートの食事化。その市場ニーズの変化を受けて、開発チームは「コロンブスの卵」的な方針転換を決めた。今までも製品改良を行ってきたが、それらは全ていかに味をよくするか、風味をよくするかという「コーヒー」部分の改良であった。しかし、ニーズの腹持ち満足感を満たすためには、ゼリーとクリーム感の改良に踏み切ることが欠かせない。そこで、製品の構造を従来から根本的に改めることとなった。特筆すべきは市場の変化に対応して、開発チームが社内を俊敏に動かしたことだ。通常、1〜2年程度を要する開発期間を、わずか6カ月に短縮したのである。

従来は容器の中では「クリームがコーヒーゼリーに程よく不均一に包まれた状態」になっていた。それを、クリームを「ホイップクリーム」に変更し、「ゼリーの上に乗った状態」に作り替えたのである。飲むときに強く振ることでホイップクリームの中にコーヒーゼリーが浮いているような状態となり、「クリームたっぷりのデザートを食べたときのような満足感を味わえるようになった」という。

製品の進化は明確だ。筆者も取材時に現行製品と新製品を飲み比べたが、クリームの濃厚さが際立ち、味わいと、腹持ちの良さが格段に向上した。試飲会ではあるコンビニエンスストアのバイヤーは「新発売当時の感動を思い出した」と感想を漏らしたという。

この新製品が、いよいよ2012年10月22日に北海道〜関西地区で、11月5日に中四国地区以西で発売される。CM展開の他、そのコンセプトと新たなる製品価値は「体験すればわかる」ということで、サンプリングなども計画しているということだ。リニューアルによって、市場のニーズを捉えたモノとなっているか、一度お試しすることをお薦めしたい。

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