「きこえ」に不自由を感じている国内人口だけでも500万人超
ここに一つのデータがある。2011年度の補聴器年間出荷台数48.8万台。この数字は、ここ数年横ばいという(日本補聴器工業界調べ)。
聴力に不自由を感じている人が増えていないなら、横ばいは結構なことだ。だが、年々難聴が増える環境にあるのも事実だ。
高齢者人口が増加していることに加え、たとえば「音響騒音性難聴」患者の拡大。とりわけ大音量で長時間使用することにより起こる「イヤホン難聴」が近年、増えていると聞く。この結果、通常は40歳代ぐらいから低下する聴力が最近では20歳代から衰え始めているというのである。また、長時間のPC操作やストレス過多などに起因すると言われる「メニエール症候群」や「突発性難聴」など、感応性難聴の増加は筆者の周辺でも認められる。
潜在顧客は拡大していると思われるのに、市場規模は横ばい。これは、なぜなのだろう?
「目立たない」から「魅せる」へと価値観の転換が必要
「補聴器システムの在り方に関する研究・二年次報告−補聴器普及のシーズに関する調査」(補聴器システムの在り方研究会・著)によると、聴力が低下している人の推定人口は日本の総人口の約15.43%を占め、このうち「無自覚」な難聴者が47%、「『きこえ』に不自由を感じているものの、一度も補聴器を使用したことがない」人が29%に及ぶという。
自身が難聴であるという認識のない人については、検診機会を増やすなどの方策により、本人にとっては問題改善、メーカーにとっては市場拡大を見込める。
筆者が着眼したのは、「『きこえ』に不自由を感じているものの、一度も補聴器を使用したことがない」という回答の多さだ。ざっと概算し、570万人の人が不調を感じながらも、少なくとも補聴器という手段を改善策として選んでいないことになる。
金銭的な理由も一つにはあるだろう。簡易なものでも数万円、つけ心地や音声品質にこだわった高性能なものでは30万〜50万円と、補聴器はまだまだ高額な医療機器であり、しかも、現在主流のデジタル補聴器は、購入前に専門の技能者による調整を挟まなければいけない面倒さもある。
ただ、それ以上に看過できないのが、補聴器装着への「抵抗感」なのではないかと筆者は推察している。とりわけ若い世代の難聴者の心理は想像してあまりある。筆者が幼少の時分は「めがね」ですら、「がり勉」「老眼」などと冷やかしの対象になったものだ。
気になってさらに追いすがり、各社ホームページなどで訴求ポイントを確認してみると、案の定、基本的には「よく聴こえる×目立たない」ことをKBF((KeyBuyingFactor=購買要因)として示している。しかし「目立たない」と言っても、「完全に見えない補聴器」をつくることはできない。その訴求には限界があるのではないだろうか。
ネガティブなイメージが試用を躊躇させ、普及の妨げになっている。つまり、人の購買に至る態度変容を表した「AMTUL」で言えば、A=Awareness(認知)→M=Memory(記憶)という段階までは進んでも、T=Trial(試用)で断絶し、U=Usage(日常使用)→L=Loyalty(手放せなくなる)という過程に進まない、と、類推される。
デコ補聴器の4Pとは
となると、必要なのは価値観の転換を促すコミュニケーションとなる。。上記潜在顧客層を動かす設計を試しに「4P」で考えてみた。
「Product(製品)」としては、「アクセサリー的に積極的に“魅せる”補聴器」というレベルまでデザイン性を高めてはどうだろうか。ネットを検索すると、自ら装飾を施した「デコ補聴器」を作り上げるユーザーも登場している。愛知県岡崎市の「あいち補聴器センター」では、「難聴児らが補聴器を嫌がるのに悩んでいた時、携帯電話を飾りつけたデコ電や、デコカメラを紹介するテレビ番組を見て、取り入れようと思いついた」(2012年5月26日付け朝日新聞、「『隠す』から『おしゃれ』に、デコ補聴器子ども向け→高齢者に好評」)という店長の発案により、知人のネイルアーティストと共同で始めたオーダーメードの装飾サービスが受け、「これまでに4歳から80代まで男女約40人から注文を受けた」(同)という。
記事によると、「難聴児のために考えたが、意外にもお年寄りにも人気だった」とのことで、まだまだ伸びそうな気配がプンプン。これをさらに推し進め、「補聴器はQualityOfLife(QOL)を高めるポジティブなツールである」というポジショニングを確立する必要があるだろう。そう、ちょうど、めがねがそうであったように。
そうした商品が受け入れられるために次のキモとなるのは「Place(販路)」だ。補聴器の販売店は細かい調整やコンサルティングが必要なため、狭いチャネルに限られている。それを、「Promotion(販売促進)」を兼ねて広げるのである。最終的に販売・調整するのは技術を持った既存の販売店とするにしても、受注・送客は例えば低価格眼鏡店など、より多くの店舗数を持っているチャネルにバックマージンを払って利用するのである。ファッション感覚でめがねを選ぶというKBFとも整合する。Awareness→Memoryだけでなく、デザイン見本(モック)を置くことによってTrialまで態度変容を一気に進ませることができる。
残るは「Price(価格)」の問題であるが、新たなポジショニングが定着し、「魅せる補聴器」の販売が29%の自覚的潜在需要層により多く進めば、原価率が低減し、結果として価格低下はついてくるだろう。
・・・ここまで一所懸命考えたので、どなたか是非、実践してみていただけないだろうか。筆者はもちろん、大好きな赤くてキラキラしたパワフルなデザインのものを、(必要になり次第)すぐ購入しますので。
※追記。昨年、東日本大震災の影響で相次いで中止された東北各地の夏祭りが、この夏は2年ぶりに開催される予定で、これらへの参加は“被災地ツーリズム”、観光による復興支援として注目を集めています。例えば津波による甚大な被害を被った福島県いわき市では、海を楽しむ参加型イベント「おなはま海遊祭」や、音楽と花火のコラボレーションを特徴とする東北屈指の花火大会「いわき花火大会」が8月4、5日に開催されます。直接的な地元への経済効果はもちろんのこと、県外からの訪問は地元にとって大きな励みになるなど、復興への大きな力になることが期待されています。皆さんも、よろしければ是非、参加されてみては?本件、「被災地ツーリズム」という切り口でガジェット通信、マイナビニュースなどでも取りあげられています。