需要価格設定とは
需要価格設定とは、市場のセグメント(区分)ごとに、異なる価格を設定する価格戦略のことです。同じ商品やサービスであっても、顧客層や利用時間、場所などによって価格を変える手法で、「差別価格」や「セグメント別価格設定」とも呼ばれています。
この手法は需要志向の価格設定の一つで、お客様が「いくらまでなら払えるか」という支払い意欲に合わせて価格を調整することで、企業の利益を最大化することを目的としています。身近な例では、学割料金、深夜料金、グリーン車料金などがこれにあたります。
需要価格設定を上手に活用することで、企業は同じコストで作った商品から、より多くの収益を得ることが可能になります。
なぜ需要価格設定が重要なのか - 利益を最大化する仕組み
現代のビジネス環境では、競争が激しくなり、単純な価格競争だけでは利益を確保することが困難になっています。そこで重要になるのが、お客様の価値観や状況に応じた柔軟な価格設定です。
①お客様の価値観を活かした収益向上
お客様によって、同じ商品やサービスに対する価値の感じ方は大きく異なります。例えば、山頂の自動販売機で売られている缶ジュースは、平地の店舗より高い価格でも購入されます。これは「喉の渇きを癒したい」という切実なニーズと、「他に選択肢がない」という状況が組み合わさることで、高い価格でも価値を感じてもらえるからです。
②市場全体の効率化につながる効果
需要価格設定は、市場全体の資源配分を最適化する効果もあります。価格差をつけることで、本当にそのサービスを必要とする人に優先的に提供でき、同時に企業は適正な利益を確保できるのです。
需要価格設定の詳しい解説 - 成功の条件と仕組み
需要価格設定を効果的に実施するためには、いくつかの重要な条件と仕組みを理解する必要があります。
①セグメント分けの基準と効果
需要価格設定では、お客様を適切にセグメント分けすることが重要です。主な分け方には以下のようなものがあります。
顧客属性による区分: 学生割引、シニア割引、法人向け価格などがこれにあたります。学生は一般的に所得が低いため、割引価格を提示することで新たな顧客層を獲得できます。
時間による区分: 深夜料金、早朝料金、ピーク時間料金などです。電力会社の夜間割引や、レストランのランチタイム価格などが代表例です。
場所による区分: 交通機関のグリーン車やビジネスクラス、映画館のプレミアム席などがあります。同じサービスでも、より快適な環境を求める顧客には高い価格を設定します。
②価格の裁定が働かない仕組みづくり
需要価格設定が成功するためには、「価格の裁定」が働かないようにすることが不可欠です。価格の裁定とは、安い価格で購入した商品を、高い価格で売ろうとする行為のことです。
例えば、学割チケットが学生証の提示なしで購入でき、利用時にもチェックがなければ、一般の人も学割価格で利用してしまいます。これを防ぐため、身分証明書の提示や、利用条件の設定などの仕組みが重要になります。
③航空業界の成功事例から学ぶ
需要価格設定を最も効果的に活用している業界として、航空業界がよく挙げられます。航空会社は、CRS(コンピュータ予約システム)を導入し、以下のような多様な価格設定を実現しています。
予約時期による価格差: 早期予約割引や直前割引など、予約のタイミングによって価格を変動させます。
利用条件による価格差: キャンセル可能なチケットと、キャンセル不可のチケットで価格に差をつけます。
座席クラスによる価格差: エコノミー、ビジネス、ファーストクラスなど、サービスレベルに応じた価格設定を行います。
これらの仕組みにより、航空会社は同じフライトでも、お客様のニーズや予算に合わせた多様な選択肢を提供し、収益の最大化を実現しています。
需要価格設定を実務で活かす方法 - 実践的なアプローチ
需要価格設定を自社のビジネスに取り入れる際には、段階的なアプローチと継続的な改善が重要です。
①市場調査と顧客分析から始める実践方法
まず、自社の顧客がどのようなセグメントに分かれるかを詳しく分析します。購買データ、アンケート調査、インタビューなどを通じて、顧客の価値観や支払い意欲を把握することが重要です。
例えば、レストランであれば、ランチタイムは価格重視の顧客が多く、ディナータイムは雰囲気やサービスを重視する顧客が多いという傾向があります。このような違いを明確にすることで、効果的な価格設定が可能になります。
また、競合他社の価格設定方法も参考にしながら、自社独自のセグメント分けを検討することも大切です。お客様にとって納得感のある価格差を設定することで、ブランドイメージを損なうことなく収益を向上させることができます。
②システム化と継続的な改善のポイント
需要価格設定を効果的に運用するためには、適切なシステムの構築が不可欠です。顧客情報の管理、価格設定のルール化、効果測定の仕組みなどを整備する必要があります。
特に重要なのは、価格設定の効果を継続的に測定し、改善を行うことです。どのセグメントでどの程度の価格差が適切か、顧客の反応はどうかなどを定期的にチェックし、必要に応じて調整を行います。
また、スタッフへの教育も重要な要素です。なぜ価格に差があるのか、どのような基準で価格を決めているのかを、お客様に分かりやすく説明できるよう、スタッフの理解を深めることが必要です。
需要価格設定は、一度設定すれば終わりではなく、市場環境の変化やお客様のニーズの変化に合わせて、柔軟に調整していくことが成功の鍵となります。